タイトル「僕はこいつにキスをする」

 高校生活は楽しい。いや、楽しかった。月野悠馬(つきの ゆうま)は、その高校をこの春卒業して今は近くの大学に通っている。でも今でもちょっとその高校生活には悔いを残している。どうしてもっと早くに言わなかったんだろう、とかとかとか…………。

『何すか? こんなところに呼び出したりして』
『……』
『俺、これからちょっと用事があるんすけど……』
『…………じゃあいいっ』
『えっ、先輩用があるから俺呼び出したんすよね?』
『忙しいんだろ?』
『いや、大丈夫っす。言ってくださいっ』
『………………あのさっ』
『はいっ』
『お前は、僕のこと……どう思ってんの?』
『は? 先輩は先輩ですよね?』
『僕はっ……お前のことが好き、なんだけどっ』
『あっ、ああ。俺も先輩のこと好きっすよ?」
『だったら付き合ってくれよ』
『いいっすよ? これからどこに行くんすか?』
『じゃなくて』
『じゃなくて?』
『…………』
 そう。悠馬はひとつ後輩である山田率(やまだ りつ)に告白したのだ。しかも卒業間際になってから。
 今まで二年間も一緒に部活をしてきたと言うのに、言えなかった言葉を勇気を振り絞って言ったと言うのにこの始末。つまり相手が鈍感過ぎて言葉にしないと伝わらない。言葉にしてもよく伝わっていないと言うお粗末さで、頭がクラクラした。
 悠馬の身長は182cm。普通からすれば案外あるほうだと思う。しかし率は191cmあるのだ。見上げるのが癪に障った。けど見上げないと向き合えない。大の男がそれより大きな奴に告白なんて……。ちゃんちゃらおかしいとか思ったのだが、言っておかないと気が済まない。もうすぐ卒業だし、卒業したらこんなふうに会えなくなると思ったらどうしても言わなくては、と言う気になったのだった。
『お前さ……』
『はい?』
『ほんとに僕のこと好きなのか?』
『はいっ。ほんとに先輩のこと好きっすよ?』
『…………どのくらい?』
『えっと…………どのくらい?』
『たとえばだよっ、たとえばっ!』
『そう……すっねぇ…………。海、くらいっすか?』
『海?』
『海って広いでしょ? あのくらいっす』
『そう…か…………』
『はいっ』
『じゃあ聞く。お前は僕にキスやハグ出来るか?』
『そんなのいつもやってるじゃないっすか』
 ヘラヘラッと言う率に悠馬は渋い顔で言った。
『恋人としてだよっ!』
『へっ?』
『こっ』
『恋人?』
『だからさっきから聞いてるだろっ?! 僕はお前のことが』
『え、いいんすか? 俺でほんとにいいんすか?』
『えっ……ぁ、ああ……』
 それを聞いた率の笑顔がとてつもなくかわいくて、どうしよう……と戸惑いさえした。
『恋人かぁ……。なんか夢のようですね』
『夢?』
『だっていつも近くにいた先輩が、もうすぐいなくなっちゃうって思ってたから……。そしたら悲しいなっ、とか思ってたし、どうしたらいいのかなって思ってたから……』
『そうか……』
『だから嬉しいっす』
『うん……』
『俺、これから先輩の恋人ってことでいいんすよね?』
『ぇ、あ…まぁ……』
 自分で告白したくせにグイグイ来られるとちょっとだけ弱気になる。だけどいつもこの笑顔に負ける。いつもこの笑顔を見ていたいと思う悠馬だった。





「でっ!! 何で僕が下なのかなっ?!」
「えっ、だって俺が下はまずないっしょ」
「だからって何で僕が下なんだよっ!」
 悠馬のアパートのベッドでふたり重なりながらそんな痴話喧嘩をしていた。
「そりゃやっぱり体格差って言うか……。俺のほうが先輩より大きいし、喧嘩したらねじ伏せれると思うし」
「……」
「まさか先輩、俺を犯るつもり……じゃなかったでしょ?」
「ぇ…ぁ…まぁ………………。だとしてもっ! こんな屈辱っ!」
「だったら、どうやってするんっすか。俺たち恋人でしょ?」
「そ…れは、そうなんだけど………………」
「俺たち、キスとかハグ以上のこと、やってもいい仲なんっすよね……?」
「そう…だけど………………」
 でも突然過ぎた。
 今まで何度となく試そうとしたのだが、勇気がなくて進めなかった悠馬に対し、とにかく率はハードルが低い。そして有言実行なのだ。
「俺、色々勉強してしてきましたから大丈夫っすよ」
「……何を勉強してきたんだよっ」
「穴の解し方とか、挿入の仕方とか、乳の舐め方とか」
「ぇ…………」
「だから先輩はマグロのようにしててもらっても全然大丈夫なんで」
「んだよ、その言い方っ!」
「だって俺のほうが頑張らないと、何も始まらないし」
「お前……そんなこと考えてたのか…………」
「だってせっかく恋人になれたんっすからね。いつまでもキスやハグだけじゃ、お互い物足りないっしょ?」
「そう…だけど…………」
「そうと決まれば、はい脱いで」
「えっ?! 何、突然っ?!」
「そう。脱いで脱いで」
「ちょっ…、ちょっと待って……待って待ってったら…………!」
 あっと言う間に下半身を脱がされて大きく股を開く恰好を取らされると覆い被さられて身動き取れなくなる。悠馬は終始恥ずかしくて涙目になりながらも抵抗らしい抵抗はしなかった。だって自分もそれ以上がしたいからだ。でも。
「お願いだ……。せめて風呂には入ろう…………」
「…………そうっすね。じゃあ一緒に入りましょうよ」
「ぇ……」
 ふたりで入れるほど大きな風呂ではない。それでも互いの服を脱がし合いバスタブに入るとシャワーで流し合う。それはもうほとんど満員電車状態で抱き合ってると言ってもいいくらいの狭さ。それでもじゃれ合いながらお湯を浴びて唇を寄せる。
「んっ…ん……ん……」
「んっ……! って、お前のっ! 当たってるしっ! 堅いって!」
「当ててるんっす。堅いっしょ?」
「そうだけどっ!」
「先輩のは?」
「ぇ……って、探るなっ! ちょっ…っと!」
「先輩のだって……。俺よりは、ちょっとまだまだだけど……」
「だから確かめるなってのっ!」
 言いながらも確かめるだけじゃ済まなくて、触られて握られてしごかれるとどうしようもなくなる。
「んっ…んんっ……ん…………!」
「ガチ勃ちしてる」
「お前がっ…ぁ……そんなことするからっ……ぁ……んっ……!」
「じゃ、一回出しちゃいます?」
「やっ…ん……んんっ……!」
 抱き締められながら力強くしごかれてしまい、悠馬はブルブルッ! と体を震わせると彼の手の中で簡単に果ててしまった。ドクドクドクッと脈打つ股間に意識が集中している。果ててもそれは変わらずに意識の中で続いていた。
 僕っ……は…………今、こいつに抜かれた…………?
 裸の付き合いで風呂に入ったことはある。だけど今日はそれじゃあなくて、それ以上のことをしていると思うとドキドキが止まらない。
「結構早いっ」
「っ……。悪かったなっ! そもそもお前が勝手に、僕の僕を弄くり倒すからっ……ぁ…ぁぁっ……んっ! やっ……めろってばっ……ぁ……ぁ……んっ!」
 そのまま秘所に指を這わされキスされながら挿れられた。自分よりも明らかに太い指がグイグイ押し入ってくる。それを感じながら今からされることへの期待と、ほんの少しの不安を覚えてしまい、思わず相手を押しのけてタオルを身につけた。
「出るっ!」
「……はいはい」
「お前もちゃんとタオルなっ! 床汚すなよっ!」
「はいはーい」
 勢いで浴室を出て廊下に出たはいいが、リビングに向かおうか、寝室に行ったほうがいいのかと凄く迷う。
 だってそのまま寝室に向かったら『いかにも』じゃないかっ……!
 などと思っていると後ろから抱き着かれて寝室のドアのほうを向かされた。
「まさかリビングでしたい、なんて言わないっすよね?」
「くっ……」
 悠馬に選択権はなく、「それから先は寝室で」と押しやられてベッドにふたりでダイブする。そんなにいいスプリングのベッドでもないのにパフンッと音がしたようにも思えた。廊下からの明かりだけでふたりして抱き合って、それからはもっぱら率の積極的なキスと弄りに悠馬はうろたえるしかなかった。
「先輩っ……。先輩っ……。先輩っ……!」
「ぁっ……んっ…ん……んんっ…んっ!」
 巻いていたタオルを剥ぎ取られて後ろに指が入り込んでくる。率の唇が唇から顎へ顎から首筋へと移動してきて乳首をほお張ると執拗に攻めてきた。最初からむしゃぶりついてくる感じだったのだが、それがだんだんにエスカレートしていって、舐めるだけでなく吸い付いたりしてカリコリ歯を立てられて思わず悠馬は悲鳴をあげてしまった。
「やっ…痛っ……! 率、乳痛いったらっ……!」
 それでも止めてもらえずに抗っていると、いつのまにか後ろに入れられていた指の本数が増えていた。抜き差しされてもっと奥に入れるために脚を担がれるとやっと乳首への攻撃がなくなる。ホッとしていると秘所にモノを宛てがわれグググッと中に押し入れられて異物感に身が震えた。
「やっ…ぁ……ぁぁっ…ぁ………!」
「力を抜いて。俺に抱き着いて」
「ぅ…ぅんっ………んっ…。ぁっ………ぁぁぁ……!」
 根元までしっかりと入れられて抱き着いていた手に力を入れた。
「キツイ?」
「ぅ…ぅん………」
「じゃ、ちょっとこのまま」
「ぅん……」
 しっかりと相手に抱き着いて頬を擦り寄せると自然に涙が出てきてしまった。
「俺、どうです?」
「何が?」
「感じる?」
「うん。ドクドクしてるっ……」
「おっきい?」
「キッツキツだよっ」
「ふふんっ……。涙出るくらい?」
「どうとでも言えよっ」
「も…動いていい? それとも」
「駄目っ。まだ慣れない。もうちょっとこのままでいろっ」
「はいはい」
「ごめんっ……」
「いいっすよ」
 しがみついてひたすらこの状況に慣れるのを待つ。そんな間にも何故だか勝手に涙が出てきてしまい、それを舐め取られて唇を重ねる。
「んっ…んん……ん…………」
「も……そろそろいいっすか?」
「……もう?」
「もう。だって俺……まだ出してないしっ……」
「そうだったな」
 言われて渋々頷くと、それを境にガンガン攻められた。
「あっ! ぁっ…ぁっ…ぁ!」
「くっそっ…! ああ……も…すっごくいいっ!」
「やっ! ぁっ…! ぁっ…! ああっ…んっ!!」
 まるで洗濯機の中にいるような、満員電車でグチャグチャになっているような感覚でもつれ合う。悠馬は突き上げられて抱き締められると、逃げ場がなくなって喘ぎ声をあげるしかなかった。
「やっ…ぁ…ぁっ…んっ! んっ! んっ!」
「嫌じゃないっしょ? 腰振って」
 誘導されてどうしようもなくて腰をくねらせる。
「んっ! んっ! んっ!」
「そう。もっと大きくくねらせて」
「んっ! んっ! んんっ……! んっ! こっ…こう?」
「そう」
「んっ! んっ! んっ……! んっ!」
 そして気がついたら悠馬のほうが上になって彼に跨がる恰好になっていたのだった。
「ぁ………」
「こうすると俺が下なんで」
 ニカッっと笑って下から突き上げられると「うっ!」と息が詰まるほどの衝撃が走る。悠馬がそれに目を白黒させていると何度も突き上げられてフラフラになる。腰を掴まれて引き寄せられてガンガン突き上げらるともう駄目だった。
「あああっ…ぁ…」
 悠馬は揺られながら自分のモノを握るとその中でまた果てていた。そしてそのすぐ後に率も悠馬の中で射精したのだった。
「すんませんっ。俺も…出るっ……!」
「あっ……ぁぁっ……ぁ…………」
 中に勢いよく出されてブルブルッと身が震える。しっかりと腰を掴まれたままだった悠馬は自分のモノを握ったまま情けない顔で率を見下ろしたのだった。
「……すんませんっ。大丈夫っすか?」
「ぅ……ぅんでも…………」
「でも?」
 起き上がりながら抱き締められて繋がっている部分が『ぐちゅり』と鳴る。
「ぁっ…んっ」
「ぁ、すんませんっ。一回抜きますね」
 ズルッとモノを抜かれると同時に中で放たれた汁が糸を引いて垂れる。悠馬は自分の股間を押さえながらシーツに垂れるそれを見ていたのだが、そのまま倒されると両脚を開かれてシーツで尻を拭かれた。
「ちょっ! 何っ?!」
「いや、汚れちゃったんで」
「シーツ汚れるだろっ?!」
「もう汚れてるから大丈夫っすよ。それより俺の出したヤツ全部出しちゃいましょうか」
 手を退かされ腹を押さえられると『ぐちゅっ』と音を立てて汁が流れ出る。それに「ぎゃっ!」と反応した悠馬は、脚で相手を蹴飛ばそうとしたが力が入らなくて実現しなかった。
「やっ…やだっ! トイレ行くっ! 今からトイレ行って出してくるからっ!」
「そう?」
「退けよ、バカっ!」
 裸のままトイレまで何とか歩くと、中からガチャッと鍵をかけて便器に腰をかけた。
「なんか……こんなんなのか? これで正解なのか?」
 色々と思うところはあったが気持ち良かったと言えば良かった。そしてすごく恥ずかしかったと言えば恥ずかしかった。
「これは……これでいいのか?」
 考えているとドアの向こう側で率の声がした。
「先輩、大丈夫っすか?」
「……大丈夫だと思うか?」
「大丈夫っしょ。腹の中のもん出したら、さっさと出てきてください」
「んだよ、その言い方っ!」
「すんませんっ。でも先輩のこと、抱き締めたいんですっ!」
「ぅ…うーん…………。分かった」
 そう言われるとちょっとデレる。悠馬は早々に用を済ますとトイレのドアを開けた。
「先輩っ!」
 ガシッ! と抱き締められて体を擦りつけられると「あのさっ」と声を出した。
「なんっすか?」
「次は逆ってのは」
「ないっすねっ!」
「ぁぁ、そう……」
「はいっす! 先輩は俺の中で『される人』であって『する人』じゃないんで」
「何かムカつく……」
「叩いてもいいっすよ。でもこれだけは譲れないんで」
「ぅ、うーん……。でも許す、好きだから」
「ほんとにっ?!」
「うん」
「あっ、あの……今のもう一回」
「ん?」
「その…『好きだから』っての、もう一回っ……お願いしますっ!」
「ヤだ」
「えっ?!」
「お前が言えよ」
「あーーっと、」
「早く」
「好きです」
「ん?」
「愛してます」
「うん」
「チュウしていいっすか?」
「ダメ」
「えっ?!」
「それは、僕からするから」
 驚いている顔を引き寄せて深く深くキスをする。
 初めての体験は思っていたよりも強烈で、思っていたよりも安易だった。だから僕は考えた。僕はこいつにキスをしよう。深く深くキスをしようと。
終わり
タイトル「僕はこいつにキスをする」20180914