タイトル「チョコひとくち」

 バレンタインって言う時期が時期だけに俺ら男は気を揉む生活を送っていた。
 とは言っても学生の半分が寮生活をしている、その半分に含まれている俺はバレンタインとは縁のないものだとも思っていたんだけど……。

ところがこの学校は男しかいないはずなのに、バレンタインが横行してる。

たとえば後輩から先輩にとか、友達同士で慰め合いとか。
まあ、そんな他愛もないのはいいとしてだ。
タチが悪いのが、そのドサクサに紛れていたりするから厄介なんだ。
たとえばこいつみたいに。

「建徳君」
「……」
「綱川建徳(あみかわ-けんとく)君っ」
「名前を呼ぶんじゃねぇよっ」
「ぇ、名前呼ばなきゃ誰に話しかけてるか分かんないじゃん」

 ニコニコしてピトッと人の腕に絡んでくるこの男は、同級生の更科ツモル(さらしな-つもる)・16歳だった。
こいつはどちらかと言わなくても可愛らしい。
フワフワ王子様って感じの男で、校外の女子からの受けは非常にいい。
そんな容姿をしていた。
それに比べてこの俺はと言えばだ、こいつに比べれば劣るけど、それでも普通に普通の男子学生だった。
そんな俺が何故こいつにこんなに絡まれて黙っているかと言えば、まっ簡単にいえば騙されましたってことなんだけど……。





 バレンタインのチョコが寮内でも飛び散らかっている中、俺のところにもご多忙に漏れずチョコがきたんだ。

 チョコレート。

 単純にもらった奴は嬉しいだろ? 
 うん。まぁ普通は嬉しいと思うんだ。普通は。

で、諸事情により甘いものに飢えていた俺は「誰から」とか、「何が書いてあるか」とか、
あんまり気にせずに机に置かれてあったチョコをパクッと口に入れてその甘さに歓喜していた。
それを二段ベッドの上の段から見ていたツモルにニカニカとした笑顔で声をかけられたってわけだ。


 時間は自習時間。
 個室で勉強している者も飲食は禁止されている時間。
俺は誰もいないだろうとチョコを見つけて食べたんだけど、それを見られてしまったんだな。
で、もっと悪いのは、これをくれたのがこいつっての。

「食べた? 食べたよね?!」
 ピョンッとベッドから飛び降りたコイツは後ろからタックルするみたいに俺に抱きつくと、耳元で「良かった」って言ったんだよっ! 「良かった」って! 
その言い方がネットリしてて意味深で、その顔がまたニンマリしていてギョッとした。

「お前……」
「良かった」ってことが何を意味するのか。それがちょっと分からなくて固まる。

「嵌めたのか?!」って顔で相手を見ると、「そんな顔するなよ」って目つきをされる。

 今まで約一ヶ月こいつと同室だったけど、女遊びによく部屋を抜け出すことはあっても男にまで……なんて聞いたことないぞっ?!
「これ…お前……の?」
「うん。俺が建徳のために用意したチョコレートだよ?」
「ぇ……っと……」

 聞いたのは、お前が誰かにあげるために用意したものを俺が食べちまったのかなって意味も含んでるんだけど……。

どうやらそれは1ミリの要素もないらしい。

とするとやっぱりこれは俺を釣る餌なのであって、ツモルは俺に…ごく普通な学生である俺に興味があるってことなんだよな?

「おいしかった?」
「…」
 ゴクンとトロトロになったそれを飲み込みながら反射的に頷く。頷くしかなかった。確かにうまかったからだ。

「良かった。それ高かったんだよね」
 テヘペロ、みたいな感じで舌を出されると、もう一度チョコとは別に唾を飲み込んだ。
「ぇ…っと……」
「ひとつ五千円」
「えっ!」
「も、したんだけど、建徳がおいしいって言ってくれるなら別にいいかなって」
 ギュッと後ろから抱きしめられるとチョコの入った箱を落としそうになった。

 あー、俺終わったわ…………。

 正直言えば今全財産を言えと言われても胸を張って言えないくらい手持ちがない。
手持ちってよりもプリぺなんだけど残高ないんだよっ。そして次の入金日は来週と言う…。
迂闊に物も買えない状況だったから、なおさらチョコに飛びついてしまったんだな……。

 チョコは全部で四つだった。

 その内のひとつを食べてしまったので残るは三つだったんだけど、ひとつ五千円ならこのチョコ一箱で二万ってことだよなっ。
 あー、俺の一ヶ月分の食費がこんなちっぽけなチョコと同等とは……。
てか、今飲み込んだチョコで俺一週間暮らしていける計算なんですけどっ!

「でさ、ホワイトデーなんだけど」
「えっ、早速タカり?!」
「やだなぁ。そんなお下品な言い方しなくてもいいと思うんだけど」
「お前、俺の食費知っててこんな上等品食わせただろっ」
「毎年同じだよ?」
「…」
「ただ、あげる人が違うだけで」
 ニタッと笑われて凍り付く。

 こいつ何考えてるんだよ、だ……。





 そして俺は落ちた。

 返すに返せないチョコの代金の代わりに俺は今、ヤツにモノをしゃぶられている。
「ふっ……ぅぅ……ぅっ…………」
 ペチャペチャクチャクチャと淫猥な音を立てて勃起したモノを股の間に陣取ってしゃぶっているのは例のツモルだった。

 何でもこれで落としたヤツらはチョコのせいで濃厚なモノを射精するらしい。
それがまたこいつの好きな味みたいで、俺はたっぷりと精液を吸われてからそのまま股を開いてヤツを迎え入れる支度をさせられていた。

 分かる? 
王子様に入れられる気持ち。
 少なくとも二回。
今回は二回。
射精を強いられてから俺は股を自らの手で掴んで開いて晒していた。
そしてヤツはそれを十分に堪能するために顔を近づけていた。

 まずは匂い。
 クンクンと俺の秘所を嗅いでから「香しいよ」と宣った。
そして言葉とは裏腹にペッとつばを吐くとヒクつくソコに躊躇なく指を差し入れてきたんだ。

「うううっ……! ぅっ……!」
「何呻いてるの。ちゃんと太もも握って、股開いててよ? でなきゃ十分に味わえないじゃん」
「ぅ…………」
 言い方は優しかったが実は全然優しくない。

 二段ベッドの下の段。それが俺のエリアなんだけど、そこで下半身だけ裸にさせられて両脚を抱えてブルジョアを受け入れる愚かな俺。
を、肯定しろとばかりにヤツは指で舌でソコを刺激してくるっ。

「ふ……ぅぅっ…………ぅ……」
「気持ちいいだろ? 男ってさ、女が奉仕する泡々の店なんかだとこっちの穴をこうやって刺激して勃起してるみたいだよ?」
「くっ……ぅぅ…………」
「僕はもちろん行ったことなんかないんだけど、でも動画で学習してるから建徳のことは十分満足させてあげられる自信あるから、そのまま脚を抱えててよ?」
「ふっ……ぅぅ…………んっ!」
「いいお返事ですっ」
「ぅん…………」

 嫌だと言うのは建前で、しょせん欲望には勝てない。

 される相手に抵抗はあれど、される行為に抵抗はない。
そこが問題なことではあるにせよ、俺はヤツの手管に酔いしれてしまっていた。
 パッカリと開いた股の中心にある秘所には今ヤツの指が二本入れられていた。
しかも根本まで。
そして今ヤツの左手にはジェルのチューブが握られていた。
それはナニの時に潤いを与えるだけのために作られている愛液の代用品でもある。
ヤツは指を差し入れたソコにジュルルルルッとそれをひねり出すと勢いよく指の出し入れを開始したんだ。
「うっ……うう…………っ……」
 最初はゆっくりと、そして徐々に激しく。
俺は一粒五千円のチョコの代わりにキツく自分の脚を握りしめる。
そしてヤツは嬉しそうに俺のソコが緩くなるのを見つめていたんだ……。





 俺のいる寮は毎年年の初めに一度シャッフルされる。
 これは新入生が入ってくる前に行われる行事としてはビックイベントで冬休みが明けてボケてる慣れ合い気分を払拭させるにはちょうどいい催しなんだけど、
今回のシャッフルは俺にとっては最悪だったみたいだ。

 今オレは自分のベッドで後ろからヤツを受け入れていた。
尻を突き出すみたいに掴まれて根本までどっぷりとヤツのモノが突き刺さっている。
 支配される感覚って言うんなら今まさにそんな感じだ。

「いくよ?」なんて声が上がったと思ったらグググッと熱い塊が俺の中に入ってきた。
なにせ俺はそんなこと初めてで、でも十分に慣れさせられてるから思うよりも簡単にヤツのモノを受け入れてしまっていた。
「やっぱり最高だよね」なんてニコニコしながら言われても「はい。そうですか。それは良かった」とはとても言える状態じゃあない。

「っ……ぅ…………」
 数十秒。
本当にそんなくらい入れたままだったヤツが突如として動き出した。
「あっ……! ぁっ……ぁぁっ……んっ……」
 ズブズブと出し入れされながら萎えてる俺のモノを後ろからしごかれる。
袋を揉まれながらそんなことをされて、なおかつ後ろに出し入れされると前も後ろも嬲られて思わず腰が怪しく蠢いてる。
それは意図したものなんかじゃなくて反射的なものだ……と思いたいっ!

「ふっ……ふっ……ふふっ……ぅっ……」って言うヤツの口元が緩んでるのが見なくても分かる。
ヤツは嬉しそうに俺のモノを弄りながら後ろへ入れたモノで俺を喘がせた。
 俺はと言えば、今まで出したこともないような淫らな声を出しながらヤツにされる行為によって腰を振ってたんだ。

「あっ……あっ……あっ…………んっ!」
 いやらしい声をあげるとギュギュッとモノをしごく手に力が入れられる。
それに反応して俺の腰つきがまたクネクネと反応するから駄目駄目だった。

 駄目駄目って言うのはあくまでも理性のほうの俺で、
本能のほうの俺はヤツに合わせて腰をくねらせたり善がったりしてるからどうしようもない。

あー、こんなことじゃこの先どうなるんだか……なんて考えが頭を過ってるんだけど、
与えられる快楽には勝てずにヤツの手の中で二度ほど射精していた。
それでもヤツは俺から出て行くことはなく、射精しては復活するまで中に居続け、そしてまたピストン運動を繰り返す。
俺は与えられる快楽に付き合うばかりでクネクネクタクタだった。

 後ろからの挿入を散々されてから仰向きになっての挿入ピストン。
精液でグチャグチャになった股をコネコネされて中に外にと射精され、もう頭は朦朧としていた……。

 チョコ一個じゃ割にあわねぇ…………。
 口には出さないが頭の中でそんなことを思う。

「一ヶ月。いやいや二ヶ月近くかな……。待った甲斐があったな」
「……」
 何? 何を待ってたって?

 疑問符ばかりが浮かぶけど、体は深くベッドに沈み込む。
ズブズブズブっ感じで意識が深く落ちていく。
 俺は後三回はこいつとこんなことしなくちゃならないんだろうな……と思いながらも、逆に後三個絶対にあのチョコを食ってやるからな…! と心に決めたのだった。





 後で分かったことだが、毎回部屋決めの時には裏で小細工がされているようだった。

 良く言えばドラフト……みたいな感じで、同室希望者が多数募る場合もあるらしい。
そんな時には話し合いが行われる。
 俺は端からそんなこと知らない一般学生だったから「あー今回は先輩じゃないんだな」くらいでヤツと同室になったんだけど相手は俺を狙ってた、みたいな? 

毒牙にかかった後でそんなことを教えられても後の祭りでため息しか出てこないんだけど。
でももっと凄いのは俺と同室になりたがってたのはヤツだけじゃなかったってこと。

 つまり俺と同室になりたいヤツらはどこかで話し合いをした。
話し合いをしたけどいつまでたっても埒が明かない。
「じゃ、手っ取り早く明解にジャンケンで」と勝負をつけた。
そう聞かされて、なんて軽い取引なんだろうと思う。
俺ってジャンケンとかで決められてしまうほどのものなんだなって思ったけど、そういうことじゃあないっ! 


 それよりツモルじゃない他のヤツらはどうして俺と同室になりたがったかってことのほうが重要となる。
いや、気にかかるっ!

 ヤツに聞くか? 聞いたら教えてもらえるだろうか……。
もしかしたらまた取引とかって五千円チョコの二の舞いになるかもしれないけど……。
けど聞いておかないと後々ヤバいかもしれないし、そいつらからも情報を得られるってチャンスも巡ってくる。

 幸か不幸か俺、されるの嫌じゃないみたいだし、第一自分で処理しなくていいってのが楽って言うか……。
色々と色々な面で賢くなっていきそうな俺……だよなっ。
終わり
20160213
タイトル「チョコひとくち」