タイトル「ダーリング -不埒な二人-」


「夏だな」
「ああ」
「女が欲しいな」
「そうか?」
「てか遊びたいなっ」
「それには同意する」
 山中の宿舎廊下で蝉の鳴き声に耳を傾けながらアイスを食べる。
最初に口を開いたのが五条悟、それに答えたのが夏油傑だった。
 午前中。まだ熱さはそれほどでもないが、けだるさだけはMAXで存在している。
ふたりは昨日まで任務で出張していたので今日中に報告書を提出しなければならない。それが嫌で顔をしかめる五条に、付き合っているのが夏油だった。
「アイスを食べたら涼しい内に報告書を書いてしまおう」
「傑。お前、俺の分も書いてくれよ。どうせ同じ任務なんだから内容一緒だろ」
「悟。内容は同じかもしれないが、個々表現能力が違うし、第一私が君のを書いたら筆跡で分かってしまうから駄目だよ」
「そんなこと分かってる」
「だったらもう観念したほうが賢明だよ」
「分かった分かった」
 ふたりの書く報告書は比べてみると『明らかに適当に書いてあるな』と言う印象を与えるのが五条。『適度に分かるように書いてあるな』と言うのが夏油だった。
それに目を通すのは担任の夜蛾だったが、五条の適当さに毎回補助の書き込みをしなければいけないのに頭を悩ませていた。それを知っている夏油は一緒に行動しているのもあって先生の手間を少しでも減らそうと声掛けを忘れなかったのだ。

 今日は昨日まで出張と言うだけあって授業はない。
報告書を書いてしまえば、それから先は何をしていても許される平日なのだ。
 アイスを食べ終わってポイッと外に放り投げようとする五条に、それを阻止する夏油。
「毎度君がそこからアイスの棒ばかり捨ててたら、夏が終わる頃には焚き火出来るくらい貯まるからやめてくれないか」
「はいはいっ」
「じゃ部屋に戻って報告書を書いて」
「個々に?」
「当たり前だろう?」
「一緒に書こうぜ」
 だから部屋に入れろと言うことだ。
 昨日の今日でまた相手の目が怪しい。目つきがギラギラしているのに気付いた夏油は「うーん……」と返事に困った。
 ふたりは任務の間中、ツインで同じ部屋だった。
 その間連日彼のお遊びに付き合っていた夏油は本当は今日一日丸まって眠りたい気持ちでいっぱいだった。
けれど朝から五条に起こされて、今もそれに付き合っている。
 お坊ちゃまと言うのは何をしても許される環境で育っているから我儘なんだろう、と知った当初の予想とは裏腹に、五条は案外寂しんぼだと分かってしまったから何事も無下には出来ないと言う気持ちになっている。
指摘しないと誰も意見を言えないんじゃないかという立場。そう知ってしまってからは余計に構ってやらないと駄目だなと言う気持ちになっているのも確かだった。
「一緒に書こうぜ」と言う言葉の意味するもの。
 そのまなざしの意味するものを当に思い当っているからこそ、いい返事が出来ない。
返事を曖昧にしている内にも廊下から部屋へと連れ込まれて鍵を掛けられるとベッドに直行となる。
「ちょっ! まだ朝だぞ?」
「ばーか。まだ夜の延長の内だよ。楽しもうぜ」
 言ったら聞かない。それが五条悟だった。
そしてその行為に戸惑いを感じながらも付き合ってしまっている自分に「いいのか?」と何度も問う夏油がいた。



「んっ……んんっ、ん…………ぁっ」
「ほら、気持ちいいだろ?」
「なんて奴っ…………ぅ」
 下半身だけ剥かれて股の間に入られるとモノをしゃぶられて否応なく反応していた。
実はここ数日こんなことばかりに更けていて自分で処理しなくてもいい状態になっていたのだ。
そればかりか迂闊にも迫られて後ろも許してしまっている始末だった。
 何度も何度も入れては出しを繰り返され、今では後ろだけでイケるようにもなってしまっているのは、果たしていいのか悪いのか。凄く困惑している……。
 今、彼の指が後ろを攻めている。
 しゃぶられながら後ろの穴を拡張させるのは初めての時から変わりはしない。
相手が広げるのに飽きたらまだ十分に広がってなくても無理やりねじ込んでくる。それがまた苦痛の中にも快感を見出してしまっている夏油にとっては悩ましいところだった。
「もう入れたいな。傑、俺のしゃぶって」
「ぅん……」
 今度は立場を入れ替えて夏油のほうが彼のモノをしゃぶる形になる。そしてある程度濡れたなと思ったところで後ろからの挿入開始だった。開襟シャツと靴下はそのままでベッドで四つん這いになると相手を迎え入れる。
「あっ! んっ……んっ…………! むっ……無理っ…………!」
「無理なもんか。もっと力抜けよ」
「んっ……んんっ……んっ!」
 最初からズブズブ奥まで差し込まれて痛さで体がヒクついている。
だけどそんなことは相手には関係なくて「ちッ……」と舌打ちされると、まるで乳搾りでもされるようにモノをしごかれる。
「あっ……んっ…………ん」
「おっ、本気出してきた?」
「そ……んなことはっ……ぁっ……ぁぁっ…………ぁ」
「気持ちいい、だろ?」
「ぅっ……ぅんっ…………」
「お前の中っ……いい感じで好きだよっ。…………んっ……ん…………。女よりもキツくて抜群っ……っ…………ぅぅっ」
「やっ…………ぁっ……そんなことっ……」  言うな。
 言葉にしたくても忙しくて言うに言えないっ。
夏油は後ろから乱暴に突っ込まれながら少しでも抵抗をなくそうと賢明に腰をくねらせた。
「ふっ……ぅぅっ、ぅ」
「ぁっ……ぁぁっ! ぁぁっ…………んっ」
「淫乱じゃん。キッツキツっ…………。いっつもこのキツキツ具合が快感だねっ。よく広げてないところに突っ込むの、好きよっ」
「あっ! あああっ……んっ! んっ! んっ!」
 ねじ込まれ突き上げられながら亀頭に爪を立てられた夏油は、ビクビクッと体を震わせると我慢出来ずシーツに勢いよく射精してしまった。
「いつも通り、感じてるねっ」
「ぁっ……んっ! んっ! んっ!」
 乱れた髪が背中や顔にまとわり付く。
 室内に響く卑猥な音と自分の喘ぎ声。
 行為の臭いで部屋が満たされてくるのも考えものだと頭の片隅で思っていた。
 たとえば今、誰かにドアを開けられでもしたら……。
 五条は鍵をかけなかった。
鍵はかけてあってもなくても、この宿舎ではあまり意味がないことだが、今誰かにドアを開けられたら室内全体が見えてしまい自分たちが何をしているかは一目瞭然。
下手な言い訳も出来ない。
だけどもう始まってしまった行為は止められない。今はこの快楽を貪りたい。そして一刻も早く終わらせてしまいたいと夏油は思っていた。
「んっ! んっ! んっ!」
「そうそう、もっと腰を振って。乳首両方摘まんでやるからさ、もっとキュッと尻を締めて」
「あんっ! んっ! んっ!」
 ギュッと乳首を潰されると痛さで尻の締まりが良くなる。
出し入れされるたびに相手のモノの角度が変わって、そのたびに甘い声が口から洩れてしまう。
夏油は肘をついて自分を支えながら片手で自らのモノをしごきもう一度射精しようと必死になって快感に耽った。
「んっ! んっ! んっ!」
 一度出てしまっているので、なかなかソコまで到達出来ない。
 何で私は毎回毎回こいつに入れられてるんだっ。しかも気持ちいいとか、あり得ないだろっ!
 否定したいのに否定出来ないほど尻が慣らされている。
ズブズブぐちゅぐちゅと結合部から出る音に酔いしれてしまっている自分がいるのにも気づいていたが認めたくないっ。
「んっ……んっ……んんっ!」
「ああ、いいっ。いいよっ、傑ぅ……っ」
「んっ……ぁ……んっ」
「一回中に出すからっ」
「ぁっ……ぇっ?」
 一回? と言うことは一回で終わらせるつもりはないと言うことなのか…………?
 思っていると、勢いよく中にドクドクッと放出されてたちまち腹が精液で満帆になる。
「あっ……ぁぁっ…………んっ!」
「ふふふっ……」
 結合部からも中の精液が漏れてポタポタとシーツを汚したが、夏油はモノを半勃ちにさせたまま顔を強張らせていた。
「さ、悟…………?」
「今抜くと垂れ流しになるから、このまま二度目に突入する」
「まっ、待て。私はもぅ……満足なんだが…………?」
「傑。せっかくお前の尻が緩んでるんだから、ちゃんと有効利用しないと」
 だから抜かないと言い放った悟は、綺麗な顔をニンマリとさせると傑の手を捻じ上げた。
「痛っ! ばっ……かっ!」
「体、反転させろよ」
「だからって、捻じ上げなくたって…………いいだろう?」
「刺さってんだ。ゆっくり動けよ」
「痛ぅぅっ…………ぅっ」
 結局言いなりになって、今度は向かい合っての行為となった。
「こうやって傑の体をギュッと押し潰しながら挿入するのって…………」
「んっ……んんっ……ん……ぁっ」
「いやらしい顔が見れて得した気分になるよ」
「ばっ……ぁっ……ああっ……んっ! んんっ! んっ!」
 開いた脚をギュウギュウ押され間近で顔を見られながら出し入れされる。
 これが一番恥ずかしい。
 夏油の中ではそうだった。
 女の代用品だと思っているからこその羞恥。
それを紛らわすために、ひたすら自分のモノを握り絞めてしごいて目を綴じるが、視線を感じてしまい恥ずかしいものは恥ずかしい。
「うっ……ぅっ……ぅっ!」
「傑。綺麗だっ」
「ばっ……」 馬鹿なのか?
 男に綺麗だとか言う、その気が知れないっ…………!
 夏油は直接顔を見つめられながらズブズブと突っ込まれ体裁の悪さしか感じなかった。



「今後。こんなことは、しないほうがいい」
「何で?」
「だって……身にならないだろう?」
「身にならないからいいんだろ?」
「え?」
「傑はさ、将来のこととか考えたことある?」
「いや。まぁ、漠然とはあるけれど…………」
「だろ?」
「?」
「俺はさ、生まれた家が家じゃん」
「……ああ」
「で、なりがなりじゃん」
「それは…………」
「いいって。アルビノまがいって言うかさ。とにかく目立つ。且つ狙われやすい」
「まあ……」
 夏油も初めて悟を見た時には、「なんて綺麗な」と思ったものだ。
彼は見た目は特別だけれども中身は至って普通の人間だった。そう感じたのは一緒に学生生活を送るようになってからだ。
 一般の学校では適応出来なくて困っているところを夜蛾に引き抜かれてこの高専に来ることになった夏油だったが、しばらくは自分の能力に気付かなくて戸惑ったものだ。
使い勝手が悪くて自分に負担しかない能力に違和感も感じていた。
呪霊を取り込む行為は今でもとても気分がいいものではない。
だけど生まれ持った能力と家柄から、誰にも何も言われない悟は『人としてどこか定まってなくて心許ない感じ』がした。
 友達として、クラスメイトとして、そして親友として、何かがしてやりたいと思っていたのも事実だけど、まさかこういう形で彼の力になろうとは…………。
「傑はさ、しがらみとかないじゃん?」
「ま、まぁな」
「それが俺には羨ましいよ」
「…………そう?」
「そう。俺はもう未来が決まっちゃってるから、それに沿いながらどう生きていくかが課題でもある」
「うん…………」
「俺は、今まで誰にも何にも怒られることなく生きてきた。俺に楯突く人間は、おそらくお前くらいだよ」
「楯突くとか、人聞き悪いな。『意見を言う』くらいにしてくれないと」
「まあ、それでもいいんだけど」
「私は、お前の親友だと思ってる」
「エッチ迫っても?」
「立場上、仕方ないんだろ?」
 どこかで発散しないとやっていけないのは見てて分かっているから、あえて付き合う。
それが親友と言うものだと思ってたし、それは今も思っている。それで彼が喜ぶなら、救われるなら、夏油はそれでいいと思っていた。
「しかし朝からっては、勘弁してもらいたい」
「ごめん。でもそれはお前も悪い」
「私が?! 私のどこが……!」
「その卑猥なところが」
「っ……」
 言われて返す言葉が見当たらない。
『どこが卑猥?』とか聞くと、延々話されそうで怖い気がしたからだ。
「まったく君って奴はっ…………」
「そこが好きなんだろ?」
 ふふふっと抱きつかれて、すんなり許してしまえるところがまた気が置けない。
無二の親友と言うのは、いったいどこまで許してしまえるのか。イマイチそこがよく分かってないふたりだった。
終わり
タイトル「ダーリング -不埒な二人-」
20210723・28