タイトル「きっと言える、たぶん言える」

 まだまともに試合にも参加出来てないっ。俺の名前は山口忠(やまぐち-ただし)。
聞いてももしかしたら分からない人もいるかもしれないけど、俺は別に他人にどう見られようと構いはしないからいい。
俺はいつもツッキーの隣にいられればそれでいいんだ。
「山口、ポカリ」
「はい、ツッキー」
 言われればすぐに用意していた水分を差し出す。
時間になるとマネージャーである清水さんが用意しだすのを手伝う。
「あなたはいいのよ?」
「でも俺、まだまだお呼びじゃないし。手伝える内に手伝わせてくださいっ」
「いいけど……」
 清水さんが訝しがる顔をする中、水分を補給するポットの中に粉末ポカリと冷たい水を入れて行く。
その中でも特に「月山」と書かれたボトルは丹念にタオルで拭いて仕上げていく。
ゴシゴシとそのボトルを拭いて、飲み口を拭いている時に清水さんの視線を感じてハッとした俺は、わざと素っ気ない感じでツッキーのボトルを扱うと次のボトルに手を伸ばした。
「山口君くんさ……」
「……は、はいっ?!」
「早くレギュラーになりたいっ、とか思う?」
「えっ?!」
「……だって、時間は限られてるから」
「……」
「高校は三年間。その中でも試合に出られるのって限られてるでしょ? てか、もう二年もないよね?」
「……」
「いいの?」
「何がです?」
「こんなことしてて。あなた、マネージャーじゃないでしょ?」
「……分かってますよ。俺だって試合に出たいっ。だけど……まだ俺にはその力量がないんですよ、きっと。
だからコーチからもお声がかからないっ。俺っ……! このままで終わりたくないんですっ! だから努力してますっ! それがモノになるかどうかは分からないけど……」
 だんだん尻窄みになってく声の大きさに自分でも恥ずかしくなる。だけど、それだけは譲れなかった。

 俺はこのままじゃ終わらないっ! 

 絶対にツッキーみたく試合に出るんだっ! 俺だけ、いつも枠の外から応援だけしてる、みたいなままじゃ駄目なんだっ!
 言葉には出来なかったけど歯を食いしばって努力だけは惜しまないっ。清水さんはそんな俺を見て大きく顔を歪ませてから「馬鹿ね」と小さく口にしてから
励ますように「努力は必ず報われるっ」と笑顔を作ってくれた。
「はいっ!」と大きく返事をすると同時に笑顔になる。

 俺、……が、試合に出たいのはツッキーと同じになりたいからっ。同じ土俵で戦って初めて「好きだっ」って言えるって思ってるから。

 清水さんが時計を気にしながらボトルの数を数えだす。
「山口くん、悪いけど半分運んで」
「もちろんですっ!」
「もうすぐ休憩入ると思うからっ!」
「はいっ!」
 長い廊下を走って体育館への道を急ぐ。
 ツッキー。俺……。自分がちゃんとしたらきっと言うよ。
「ツッキーのすべてになりたいっ!」って……。
終わり
20160810
タイトル「きっと言える、たぶん言える」