タイトル「デートだよね」

 ちょっとだけ不安になる気持ち。
 山口はいつもほんのちょっとの不安と戦っていた。
月島はいったいどこを見ているのか。いつも彼の視線追いかけてみる。
だけどそこに女の子がいることはなく、胸をなで下ろすのだが、もしかしたらまだ意中の人に出会えていないだけかもしれない。
などと思慮深くなってしまうのも自分の悪いくせだと分かっていた。
「ツッキーはどんな子が好き?」
 部活の帰りに聞いてみる。
「…それ、本当に応えて欲しいわけ?」
「…いや。いい」
「じゃあ逆に聞くよ。お前はどんな子が好きなの?」
「え…っと…。ツッキーかな」
 なんて言おうものなら、鼻で笑われることは分かっているのについ言ってしまう。
「僕はお前に意地悪で、いつもお前を泣かせて楽しんでいるのだけれど、それでもそんな僕がいいなんて、なんてバカな奴なんだろうと思うけど」

「けど好きなの?」と言う顔をされると「うんっ」と応えてしまうあたり相当だと思う。

「今度の休みだけどさ、ツッキーの観たそうな映画があるんだけど行かない?」
「行かない? じゃなくて一緒に行ってくださいの間違いなんじゃないの?」
「うん。一緒に行きたいっ」
「お前が映画代出すなら一緒に行ってやってもいいよ」
「うん。分かった。じゃあ出すから一緒に行こうよ。約束だよ?」
「…いいけど。まだ内容も聞いてないんだけど」
 ちょっとはじらうようにポリポリと頬をかく姿が可愛い。
こんな彼の姿は自分しか見られないと思うと余計に嬉しさがこみ上げてきた。



 映画はホラーもので画面の迫力と音の大きさで逃げ出したい感いっぱいの内容だった。
思わず怖くなってギュッと彼の手を握ると即座に握り返してくるあたり、やっぱり相手もビックリしてるんだなと言うのが伝わってくる。
山口はふたりして同じ感覚になれたのも凄く嬉しかった。
「怖かったね…」
「…まさか山口がこういうの観たいとは思わなかったな」
「あ、嫌だった?」
「別に嫌じゃないけど」
 食事をするのにグルグルグルグルグルメ街を回ってやよくう見つけた落ち着いた場所は、ひとつひとつのテーブルが壁で仕切られている洋食屋だった。
ふたりして何にしようか散々迷い、山口はオムライスを・月島はパスタを頼んでいた。
 山盛りに盛られた食事が数分後には届き、ふたりして食べ始める。
「ツッキー。パスタの味はどう?」
「…ああ。一口欲しいってことね」
 いいよ。と皿を差し出されて一口もらう。
「ぁ、おいしいね」
「まあ不味くはないな」
「ツッキー俺のも一口どうぞ」
 同じように皿を差し出すと、彼はクルリと皿を回して山口が食べたところから一口すくい上げた。
「ぇ…」
 綺麗なところ食べればいいのに…。
 そんな顔で相手を見ていると、彼は「これでいいんだ」と口に頬張った。
頬張ってからペロリとフォークを舐めるところを見せつけてくるのを真正面から見てしまった山口は、まるで挑発されているようで顔を真っ赤にした。
「山口の、うまーい」
「意味深なこと言わないでよ」
「うまーい。山口が口にしてるオムライスうまーい」
「だからツッキーってば」
 恥ずかしいよ…と耳まで赤くしてうつむくと、クスクスと笑われて何も言えなくなってしまった。
結局映画代は山口が出したからと言う理由で、食事代は月島が払うと譲らなかったのでごちそうになった。
「たまにはこんなんもいいかもね」
「うん」
 誰も一緒じゃなくて月島とだけ一緒。
「あれ。これってデート?」
「デートにした?」
「だってこれ、デートだよね?」
「うん。帰りにチュウしたらデートだって言わせてあげるよ」
「ぇ…」
「どうする?」
 返事に困っていると月島が肩を組んで耳元でささやいた。
「チュウ。誰もいないところでしようよ」
「ぅ…うん…」
 いいけど、それだけじゃ済みそうもなかったから顔がどんどん困る。
月島は山口のそんな顔をとても楽しそうに眺めながら呑気に「パスタの味がするかな。それともオムライスの味かな」などと口にしていた。
終わり
タイトル「デートだよね」
20160821/28