タイトル「イチャイチャしよう」

 夏休みの音駒高校。部活に励んでいたバレー部もこの暑さのせいで時間制限が持たれていた。だから去年のように激しい運動はないので時間を弄ぶことになる。
「プール行こうぜ」
「……かったるいから嫌だ」
「夜のプール。ナイトプールって今流行ってんの知ってるか?」
「知らない」
「夜ならさ、そんなに暑くないじゃん。だからさ、いいじゃん?」
「うーん…………」
 部活の帰り。ふたりきりになってから話を繰り出される。研磨はゲームの画面を見ながらも『ナイトプールか……』とちょっとだけ興味を示していたのだった。


「クロって、いつも強引……」
「強引じゃなきゃ、お前動かないじゃん」
「……」
「それよりさ、雰囲気いいじゃん?」
「女の子ばっかだし」
「まあ、インスタ映え重視だからなっ。俺たちは片隅でイチャイチャ浸かろうや」
「イチャイチャ……」
「そこ、気にすんな」
「イチャイチャ……。イチャイチャ…………」
「だからそこ、気にすんなってのっ!」
 グイッと肩を抱かれて浮輪のレンタル場所まで出向くと、シックなごく普通の浮輪をふたつ選んでプールに入る。
「クロは撮らないの?」
「インスタ?」
「うん……」
「俺、それやってないから」
「ふーん……」
「研磨さ、ゲーム機持ってないと手持ち無沙汰?」
「…………浮輪持ってるから大丈夫……だと思う…………」
 ギュッと浮輪を掴むと水面を見つめる。緩く波があるプールは自分の身も彼の身もユラユラと揺らしていた。
「研磨の履いてるの、去年と一緒のヤツか?」
「うん……。何でもいいからね…………」
「そっか。お前にとっちゃ水着は履いてるか履いてないかが勝負だもんな」
「うん…………。クロのは?」
「俺のはナイトプール行くかも、って思ってから買ってきた。今年のバージョン」
「ふーん……」
「ホントはお前の分も買ってきたんだけどな。次のためにもらってくれないか?」
「…………どうして今日じゃないの?」
「だって今日は自分で持ってきたの履きたいだろ?」
「……別にどっちでもいいけど…………」
「だったら! 今から……履き替えてくれるか?」
「うーん…………。まぁ…………」
「そうかっ! そうかっ! だったらこれ、いったん預かってもらって更衣室行こうぜっ!」
「うーん…………」
 本当にどっちでも良かったのだが、やっぱり強引なクロに手を取られて更衣室に戻る。ロッカーのバッグの中から取り出されたそれは、きちんとラッピングされていてちょっと戸惑った研磨だった。
「え…っと…………」
「な? だからちょっと渡し辛かったんだけど……履いてくれるか?」
「いいけど…………。僕もう濡れちゃってるし…………」
 どうしたらいいんだろう……とラッピングされたプレゼントを見つめて困る。でもこうしていても埒が明かないのも分かっているので仕方ない行動に移すことにした。
「あっち向いてて…………」
「あっ、ああ。ごめんっ」
 ちょうど人もいなかったので腰にタオルを巻くと今履いている水着を脱いだ。
「クロ、ラッピング取って。うまく取れない」
「えっ?! あっ、ごめんごめんっ」
 クルッと振り向いて荷物を受け取ると片手に自分の水着を持った研磨を見て、それからラッピングしたままの手の中の荷物を見て鼻血を流した。
「クロッ?! どうしたのっ?!」
「ぇ…あ……だって、お前…………今ノーパン…なんだろ?」
「……当たり前じゃん。今からクロのくれたヤツ履くんだから」
 そう言った時、腰のタオルがパラリと取れた。
「ぁ…」
「研磨っ! 研磨の研磨がっ!! 丸見えじゃないか〜っ!」
「え、別にいいじゃん。毛が生える前から見慣れてるんじゃん?」
「だーけーどっ!! そうじゃなくてだなぁ!!」
「それより早くラッピング取って。僕、丸裸だよ」
「カーーッ!! 分かった! 分かった! 分かったからもっと恥ずかしがれっ!!」
 クソーッ! と言いながらバリバリッとラッピングを乱暴に破くと中から新品の水着を取り出して「んっ!」と研磨に差し出す。
「ありがとぅ」
 研磨は新しい水着を履こうとそれを広げた時、クロと同じ柄だと分かって見比べた。
「クロと同じの?」
「そうだよっ! じっくり見るのは後にして、さっさと履けよっ!」
「……」
 それでも研磨はクロと同じ水着を感慨深く見つめると「ありがとう」と無邪気に喜んで見せたのだった。
「お願いだからーっ! 水着履いてくれーっ!!」と懇願されてしまったのだった。
「仕方ないなぁ……」
 どうして相手がそんなに顔を赤くするのか、それが分からない。
「今、他の奴が入って来たら見られる〜っ! 俺の研磨の研磨が見られるだろうがっ!!」
「みんな同じの付いてるよ?」
「それでも駄目だっ!」
「?」
 どうして? と首を傾げると、言われた言葉を聞いて嬉しくなった。
「お前は、全部俺のもんだからーーっ!!」
「……………………分かった。ごめん」
「あーーーもぅーーーっ!」
 言っちゃったじゃないかっーー! と頭をクシャクシャして嘆く。だけど研磨は、そんなこと知ってるのにな……と思った。
「似合う?」
「似合う。俺と同じだからなお似合う」
「…………クロ」
「ん?」
「プール行こ」
「ぁ、そうだった。そうだったな」



 プールでは波間でチャプチャプ感覚で、女子からのアプローチも無視してふたりして楽しんだ。ちょっと暗い場所に行ってチュッと唇を重ねた。そんなこんなでクロ満足・研磨お付き合いのデートは終わる。
「早く帰りたい……」
「ぇ……」
「もう疲れた」
「研磨細っこいからなっ。でも部活はちゃんと出てるんだから、プールで遊ぶくらいしても」
「ベッドでクロと早く寝たい」
「ぇっ……」
「ベッドでクロと」
「わっ…分かった。分かったから、それ以上言うなっ……!」
「鼻血、出る?」
「色々出るからっ……!」
「……ふーん」
「……お前はいつもそうだな」
「何が?」
「唐突に唐突なことを言う」
「……嫌い?」
「いや、むしろ好きだ」
「…………」
「帰るか」
「うん……」
 しっかりと肩を抱かれて家路に着く。それから先はクロのペースで、研磨は彼の望むがままだ。
 好きってことは知っている。でも好きってことは言ってない。態度で示しているつもりの研磨だった。
終わり
20180811
タイトル「イチャイチャしよう」