タイトル「季節の変わり目は恋の予感」試読

 春。海道彰人(かいどう あきひと)・二十八歳の会社にも新入社員はやってくる。
「お前の部署には何人入るって?」
「三人」
「男か女か分かってるのか?」
「そこまではな。お前のところは何人入るんだ?」
「俺のところは二人。希望は男にしといた」
「ぁ、性別希望とかあったんだ」
「希望だよ、希望。余白に書いておいた」
「それホント希望だな」
「ああ」
「でも今日は顔見せだけだろ?」
「ああ。研修終わってみないと正式配属にはならないからな」
「うん」
「もっとも、終わるまで在籍していればの話だけど」
 カカカッと軽快に笑う八代に対し、海道はどうでもいいと溜息をついた。
年齢的に教育係もしなくていいだろうし、直属の部下にも不自由してないから、まず自分の身近には来ないと踏んでいたからだ。
 始業のチャイムが鳴り、人事の社員があらかじめ割り当てられた社員を案内してくる。それを部署全員笑顔で顔合わせして研修先に向かうと言うのが習わしだった。
「制作一課の新入社員さんは三人希望でしたので三人。さっ、お名前お願いします」
「畑野菜々絵です。よろしくお願いいたします」
「佐野智花です。よろしくお願いいたします」
「千賀来斗です。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします。まだ研修の途中だけど、無事この部署に来てくれることを願うよ。途中で辞めたりしないでよ。待ってるよ」
「はいっ」
 課長が優しく声をかけると、三人とも大きく返事をして頭を下げた。それを課の連中と一緒に聞いていた海道は人知れず衝撃を受けていたのだった。





「入れますか? 入れられますか? 俺はどっちでも大丈夫です」
 ニッコリと柔らかい笑顔で聞いてきたのは、「セナ」と名乗るデリヘルだった。
恋人と呼べる相手はここ数年いないし、ひとりで完結させるばかりではつまらない。たまには人を頼んで楽しみたいものだと思ったのだが、まさかこんなに上玉が着てくれるとは。正直驚いていた。
 年は聞いてはいけないんじゃないかと思うほど若く見える。そして風貌もアイドルばりの好青年だ。筋肉もいい感じで程よくついているし、仕草も声も申し分ない。加えて言えば服のセンスも良かった。
「ぁ、その前に。俺で大丈夫ですか? チェンジしますか?」
「いや。君でいいよ」
「良かった」
 ニコニコしながら店に連絡を入れる彼の後ろ姿を舐めるように見つめる。尻の具合も良さそうだと口元が緩んだ。
「シャワー、いただいていいですか?」
「ああ。じゃあベッドで待ってるから」
「はい」
 時間を気にしてか、さっさと体を洗ってきた彼が腰にタオルを巻いたままの姿で寝室の入り口に現れた。明かりを消さずにその姿を物色した海道は、近づくとそのタオルを解いた。
「どちらがお好みですか?」
「もちろん、君を抱くほうだよ」
「分かりました。では最初に。俺は商品なので、乱暴な行為はNGです。縛ってもいいですが、跡の付かないようにお願いします」
「ああ。端からそんなつもりはないよ。君を十分に味わいたいからね」
「良かった」
 たとえそれが営業用の笑顔でもその微笑みに酔えた。
既に裸になっていた海道は彼の首元に顔を埋めながらそっと抱き締めた。背中から腰へのラインを指の腹で味わい、そのまま尻の割れ目へと進む。
「今日はもう客取ってんの?」
「……いえ。俺は気が向いた時しか仕事してないので、ここ数日はどなたとも」
「そう。じゃあユルユルじゃないんだ。安心したよ」
 割れ目から太ももへと指を這わせると内股を撫でる。ベッドに誘って脚を開かせると股間のソレにチュッと口づけをすると口に含んだ。
「んっ……んっ」
 商売をしている割には綺麗な色をしていた。
しゃぶってしゃぶって時々歯を立てるとビクッと体を硬直させる。垂れた汁を使って後ろの穴を指で解すと、熱くて柔らかいソコは海道の指をどんどん埋め込んでいった。三本入ったところで抜き差しを激しくするとビクビクと体を震わせる。
「ぁっ………ぁっ……ぁぁっ」
「さすがに感度がいいね」
「んっ……んっ……んんっ……!」
「乳首はどう?」
 ペロリと舐めると吸いついて舌先で攻め立てる。
「あっ……んん……んっ……んっ!」
 乳首と尻を同時に攻めて彼の喘ぎ声を堪能する。
だんだん汗ばんでくるその体の匂いも好みだった。彼は海道が放した股間をギュッと握りながら快感に耐えているようで、それがまたいじらしい。
「もっ……もぅ出ちゃうのでっ! すみませんっ。もう駄目なので! 入れてくださいっ!」
「えっ?」
「だってお客様より先に出しちゃうなんて」
「別にいいよ」
「でもっ……」
「一回出しちゃいな」
「……」
「見ててやるから、出してみな」
「…………はぃ。んっ……んっ……んんっ……んっ!」
 乳首から口を離して彼が自分で自分のモノをしごくのを見つめる。
それに合わせて尻に入れた指を出し入れさせると彼の腰が激しくくねった。それを見て楽しんだ海道は自分のモノをしごいて手の中に放った。
途中指の出し入れが中断したのに気付いた彼が申し訳なさそうな顔をしてきたので、ニコリと笑顔を返した。それから彼の放つのを待って今度こそと彼が張り切る。
「すみません。俺ばかりが楽しんでしまったみたいで……」
「いや。俺も十分楽しいから大丈夫だよ」
「ならいいけど……。あの……だったら『串刺しキス』……とかいいですか?」
「串刺しキス?」
「ええ」
「それは、どういうもの?」
「下から突き上げられながら口づけのご奉仕を……」
「随分積極的だね」
「時間制限あるから……。楽しんでいただかないと…………」
「分かった分かった。じゃあ、乗ってきて」
「はい」
 背中を壁につけて構えると、彼が跨る恰好で向かい合う。自ら尻に海道のモノを宛がって奥へ奥へと埋めていく姿に健気ささえ覚えた。
「ぅっ……ぅ…………ぅっ…………ぅ」
「いつもそんなに大胆なの?」
「そんなことはっ………ぁっ……ぁぁっ……んっ……んんんっ!」
 自分でやっているのに絶対無理してる。根本まで入れる頃には目尻に涙を浮かべる彼を見て愛おしさを覚えてしまう。 
「はっ……ぁっ……ぁっ……ぁぁっ……んっ! んんっ!」
 根本まで入れると間髪入れずに動き出す。本来なら少し慣らしてからのほうがいい行為も今回はこれでいいと思った。
「あっ……ぁっ……ぁぁっ…………!」
 必死になって耐えている。まだ快楽なんて味わえていない。それがよく分かる彼の表情に抱きしめながら下から突き上げる。
「んっ! んっ! んっ……!」
「キスは?」
「はっ……はぃっ。すみませっ…………! でもっ……んっ! んっ! んんっ! ぁっ!」
 しっかりと片手で腰を抱いての突き上げは、とてもじゃないがキスなんて出来る状態じゃない。
それが分かっていても、して欲しいと思ってしまう。彼は海道にしがみついて、その耳元で息を荒げていた。
汗ばんでくる体に指を這わせて、その滑らかな肌を楽しみながら両頬に手を添えると真正面を向かせて唇を奪う。
「んっ……ん…………」
 突き上げがなくなると彼は自ら腰を動かしてもっと深いキスをしてきた。
 擦れていない。最初の印象通りな彼に、普段はもっとセレブ相手で、今回は本当にまぐれで自分のところに来たんだろうと思った。
最初に一度出して、次には中で出してから体中を舐めまわした。
「あっ……ぁのっ……なんでそんなにペロペロするんですか?」
「久しぶりのセックスだからね。相手を楽しみたいって言うの? その爪先までもね」
 言いながら足先を口に含んで舌で舐めると相手が体をピクッとさせる。だから今度は逆に爪先から尻まで舐めて、後ろからの挿入を楽しむとタイムアウトとなった。だから彼は体中舐め回された体のまま帰って行った。彼にとってはあまりいい客じゃなかったかもしれないが、海道は十分楽しむことが出来た。
 あれからまだ半年も経っていない。それ以降金で男は買ってない。たぶんあれ以上の相手はいないと思えたから。





「絶対そうだよな……」
 自宅に帰っても頭は今日来た新入社員のことでいっぱいだった。
三人いた内、唯一の男。あれはあの時呼んだデリヘルの「セナ」だった。考えてみればその位の年齢でもおかしくはないはずで、いつこういう事態になってもいいはずだ。それを考えていなかった……。
「迂闊だった……」
 まさか彼が自分の会社、しかも同じ部署に来るなんて……。
今後どう接したらいいのか。そこが考えどころだ。しかし相手にとっては数ある客のひとりでしかないはずだから、自分のことなどもう覚えてもいないだろう……なんて虫のいいことも思う。そして出た結論は、「ここは知らぬ存ぜぬで通そう」だ。
 自分でそう納得付ければ少しは気持ちが楽になる。
風呂から出て冷蔵庫からビールを取り出すと玄関のチャイムが鳴ったので、勢いでドアを開けてしまう。そこには昼間の格好のままの彼が立っていたのだった。
試読終わり