タイトル「恋人でもないのに。」

「ぁっ……ぁっ……ぁぁ……んっ! んっ! んっ!」
 ギシギシと音が出るんじゃないかと思うくらいスプリングが振動している。
松田のベッドは古くて貧弱で男二人が戯れるのには向いてないといつも思う。
 僕はヤツを後ろから受け入れながら、その気持ち良さに酔っていた。
お互いにそうだと思う。足りない部分を埋め合うように求め合う。恋人でもないのに。



 元々僕は萩と付き合ってた。付き合ってたというよりも彼の優しさに甘えていただけかもしれない。
『付き合おう』
 真剣な顔で真正面から言われて、驚きながら頷いた。
関係を持ってしばらくすると『指輪を買おう』と耳元で囁かれ顔を真っ赤にした。
『からかわれるから嫌だ』と言っても、彼は『ちゃんと形にしよう』と譲らなかった。
『サイズは分かってるから』
『……』
 言われて仕方なく、内心デレデレで承諾した。でも彼は僕にそれを手渡す前に、あっさりこの世からいなくなってしまった。
心の拠り所をなくして、これからどうしたらいいのか揺らいでいるところに、彼の頼んだ指輪を持ってきたのは松田だった。
『奴から聞いてる』
『ぇ……』
『お前らの関係』
『ぁ、ああ……』
『引き継いでくれ、とも言われてる』
『えっ?』
『お前の気持ちはこの際関係ない。俺は奴の意思を引き継ぐ』
『いや、これ僕の気持ち大切だと思うけどっ!?』
『俺は大丈夫だからっ』
『僕は大丈夫じゃないよっ!?』
『ほら、指出せ。誓いの指輪だ』
『ヤだよ』
『萩の用意してくれた指輪だぞ?』
『そうだけどっ』
『あいつはもういない。これからは俺が相手だ』
『…………』
 ぶっきら棒だけど慰められてる。そんな気がした。彼だって辛いはずなのに……と思うと何も言えなかった。で、気が付いたらこんな関係になっていた。
言っておくが、僕は意思は弱くないっ。ただ節操がないだけだ。



「もっ……出るからっ」
 言うと、皮肉っぽく「そりゃこっちのセリフだよっ……」と言われる。
「っ……ぅぅぅっ……ぅ!」
「ふっ……ぅぅ……ぅ!」
 自分で自分のモノをしごいていた僕は自らの手の中に、そしてヤツは被せた薄々のゴムの中に射精した。
 ぐったりして後ろから抱かれると荒い息を吐く。ズルッと中からヤツのモノが出ていって互いに仰向けになった。
「こっちのセリフとか。そういうこと、言うか?」
「んだよ。スッキリしてないのかよっ」
「してるよっ。でもさ、もっとこう……」
「分かった分かった。情緒が欲しいワケね」
「ぇ……ぁっ……」
 別にこうして欲しかったわけじゃないんだけど、実際されるとちょっと嬉しいとか思ってしまう。
僕はヤツに肩を抱かれながら、その胸に顔を寄せて抱き着いた。
指には萩からの指輪が嵌められている。松田の指にも萩の付けるはずだった指輪が嵌められていた。
「お前の中、ニュルニュルして気持ち良かったぜ」
「……僕の中も、お前の中も一緒だよ。同じ人間だからなっ」
「そりゃそうだけど」
「なんなら逆の立場になってもいいんだぜ?」
「俺、お前のモノを受け入れられる自信がないから嫌だ」
「それはどういう意味だよっ」
「太くて長〜い立派なお前のモノは、俺の繊細な尻には無理だって言ってんの」
「僕とお前、大きさはそんなに変わらないと思うけど!?」
「いいんだよ、これで。俺がお前に入れたいんだからっ」
 ギュッと抱かれてキスされると、それ以上文句も言えなくなる。
「んっ……んっ……んんっ……」
「ベロチュウ、好きだろ?」
「ばっ……か。ぁっ……んっ……んっ」
 素肌を弄られながらまたキスされると、モノとモノを擦り合わせられる。
生身のモノを一緒に握られてしごかれると、また射精するまで離してもらえない。
せっかくさっきはゴムを付けたのに、後ろの口がクチュクチュと物欲しそうな音を立てるから相手がその気になってしまって、また入れる気満々だ。
大きく股を開いている体勢で逃げようとするがそれもままならない。
結局立ち直ってしまったヤツのモノを緩々のソコに宛がわれて即座に入れられると腰をくねらせた。
「ぁっ……ぁぁっ……ぁっ……」
「やっぱ挿入は生身じゃないとな」
「ぁっ……」
「今度は中で出すからな」
「ぅっ……」
「腰、今度はお前が踊れ」
 言われて仕方なく意識的に大きく腰をくねらせる。
「もっとだよ、もっと」
「出来なっ……。ぁっ……! ぅっ……ぅぅぅっ……ぅ」
 体を反転されると、松田が下になって騎乗位で腰をくねらせるのを求められる。
「やれよ。見ててやる」
「っ……ぅ」
 こうなってしまうと、やるしかないと言う気にさせられてグリグリと腰を動かして自らの快楽に溺れることにした。
「あっ……ぁっ……ぁっ……」
「もっとケツで感じまくってクネクネしろよっ」
「っ……ぅぅっ……」
 言われなくてもっ!
 僕は自分の重みで深く入り込んできているヤツのモノを貪欲に味わうために、右に左に腰をグラインドさせたり上下にバウンドさせたりして暖かさのある肉棒を自らの体に突き刺した。
「ふっ……ぅぅっ……ぅっ……ぅっ……ぅぅ」
「ほら、今度は右だ。右に傾いてから前後に揺れろ」
「ぅぅっ……ぅ」
「爪立てないと出来ないか?」
「ギャッ……ぁっ! ぁぁっ! んっ!」
 握ったモノを飛行機の操縦でもするように握られたかと思ったら、ギュッと割れ目に爪を立てられてビクビクッと体を震わせる。
「バウンドしろ」
「うっ! ぅぅっ……! ぅっ……! ぅっ!」
「くねらせて喘げ」
「あっ! ああっ……んっ! んっ! んっ!」
「ケツに突き刺されるの、好きだろ!?」
「好きっ! ……好きだよっ……!」
「淫乱めっ。汁だくグチュグチュにしてやるっ」
「ぅんっ! んっ……んっ……んっ」
 それから僕はヤツのベッドに大股開きで縛られて挿入を繰り返された。
ヤツが入ってない時はヤツを象ったモノを入れられて、その姿を愛でられた。
それでも僕は興奮してしまって、触られてもいないのに射精を繰り返し披露していた。
「お前はさ、根っからの淫乱だ。だから俺のためだけに存在しろ」
「ぅっ……ぅ」
「俺のためだけに股を開き、尻に精液を注がれ、はしたない体を披露する。ケツを振って窄めた穴から汁を流し、おねだりを繰り返す。それだけでいい。俺のためだけに生きろ」
「ぅっ……ぅぅっ……」
 そんなの無理だって分かってるのに強要してくる。僕は涙を流しながら首を横に振った。
「そ……んなの、無理っ……」
「お前の穴はイエスって言ってるのにな」
「でも無理っ……」
 そんなこと分かっているのに、松田はそんなことを口にする。僕は何度もヤツの精液を注がれて喘いで善がって、そこいらじゅうに淫印をつけられてやっと解放された。


 したいことが終わると下半身はガバガバで、でも変な充実感に満たされてる。
トイレで残液を尻から出すと、ヨレヨレの体でシャワーを浴びる。やっと浴室から出てくると、ヤツはもう身支度しっかり整えていて、僕はヤツの目の前で裸の体を晒しながらノロノロと衣服を身につけていた。
「お前の体、誰にも触らせたくない」
「……僕の体は僕のものだ。お前のじゃない」
「ばか。そういう時は単純にイエス・嬉しいわって答えるんだよ」
「……答えてまたリピートされたら死ぬから嫌だ」
「お前なぁ……」
 お前だって情緒ないじゃん、と言われながらも体が言うことを聞いてくれない。グズグズしている僕を見かねた松田がワイシャツのボタンを嵌めネクタイまで締めてくれた。
「今度は着衣でやるか?」
「…………」
 とてもじゃないが次のことまでまだ考えられてないっ。
冗談じゃないぞ、っと相手を睨むと大袈裟に両手を広げ肩をすくめられた。
「抱っこしてやろうか」
「コロすぞ」
「ゼロさんコワ〜イ。でも歩けないだろ?」
「っ……」
 言い返せなくて言葉に詰まると「泊まっていくか?」と聞かれて首を横に振った。
「今から仕事だ」
「その体で?」
「体は関係ない」
「そうだけどっ」
「タクシー呼んでくれ。喫茶店行かなきゃ」
「喫茶店ってポアロか?」
「ああ」
「行ってみたいな」
「駄目だ」
「ぇ、いいじゃんかよっ。ボロは出さないぜ」
「任務の邪魔するな」
「ちぇっ」
 僕らの中から萩は消えない。
彼の残してくれたものはこの指輪だけだけど、僕にとっても松田にとっても大切なのに変わりはない。
僕の欲求は松田が満たしてくれる。恋人じゃないけど、ほとんどそんな感じのヤツ。セフレとは違う。間に萩がいるんだ。
終わり 20221120
タイトル「恋人でもないのに。」