タイトル「クガ製ナルトモ的トラブルメーカー」

 キシイナルトモは、よくトラブルメーカーと呼ばれている。
それは何故なのか。
本人には分かっていないが、いつも肝心なところでヘマをするからだ。
たとえば一番最近だと、友達と待ち合わせて電車で向かう途中、改札口までは順調なのだがそこで不幸が襲う。

「ないっ! ないないっ!」

 買ったはずの切符が行方不明になり出られなくなり、結局改札の向こう側にいた友達に金を借りて二重に金を払う結果に終わったりした。
 今はカードとか携帯で料金などどうにかなるのだが、それを意識すると今度はそっちを忘れてしまうと言う、どうしようもないジレンマに襲われていた。

「なぁなぁ、こういうのはどうすれば改善すると思う?」

 ナルトモは友達であるクガジンヤに聞いてみた。
奴はナルトモよりもずいぶん博学で学年でもトップクラスの成績を維持している。
それに比べてナルトモはいつも追試ギリギリ、または追試と言うランクの成績維持者だった。

 二人が仲がいいのはこの学校に入ってからだ。
入学式で隣になったのが機ですぐに話すようになった。
しかし相手は弔辞を読むような立場。クラスでも目立つ存在なので取り巻きが出来ていて声をかけるチャンスはなかなか来ないと思っていた。
案外遠くから見ていたほうがいいのかもしれないと思っていたら、あちらから頻繁に声をかけてきてくれて二人の関係は定着していった。

 それももうすぐ一年経つ。
 そろそろ次の学年になる心構えをしなくてはならない時期にきている。
それと言うのも二年になったら本格的に進路に沿ったクラス分けをするからだ。
 大学。
しかもランクの上な学校を選ぶ者は集中コースみたいなものでクラスも一番端の静かな場所が与えられる。
加えて朝晩の特別授業。修学旅行はなしと言う恐ろしいクラスなのだ。
たぶんクガはそっちに行くだろう。
ナルトモは絶対にそちらには行かないし、行けない。だから絶対にクラスは別々になってしまうのは分かっているのだが、考えると辛いのでそれは考えないようにしている。

「あのさ」
「ん?」
「お前それ今に始まったことじゃないんだろ?」
「ぁ、うん…」
「じゃあ駄目だ。改善の余地なしだな」
「…なんでそんなに決めつけるんだよっ」
「言っただろ? それは今に始まったことじゃないんだ。元々お前が持ってるものだからどうしようもないんだよ」
「でも少しくらいどうにかなるって手はあるだろう」
「うんまあ」
「それを教えてくれって言ってるんだよ」
「それはだな。本人が注意すること。それ以外何もないっ」
 いかにも決めつけるように言われてムッときたナルトモは、相手の胸を両手でグッと押しつけるとその場から離れようとした。

「待てよっ」
「なんで待つ必要があるんだよっ。用はそれだけだからっ! 早くクラスに戻れよっ」
「だから待てって!」
 後ろから腕を捕まれて引き寄せられると、あっという間に抱き締められた。

「何す…んだよっ」
 振り払おうとしても全然駄目で、ナルトモは余計に強く抱き締められてしまった。

 場所は屋上の屋上。
 飛び出している階段部分にある貯水タンクの裏側だった。
あまり無茶をすると数メートル下に落下しかねない場所なので、邪険には扱えなかった。

「それってさ、前々から前々からって言うけど本当はここに入学してからなんじゃないか?」
「ぇ…そう…かな……」
「よく考えてみろよ。お前だってこの学校に入れるくらいの実力はあるんだ。ちゃんと受験だってしてきたんだし」
「そりゃ…そうだけど……」
 考えてみればそうなのかな…と言う気になる。

そしてよくよく考えてみたら、こいつと付き合うようになってから色んなことをポシャるようになっているような気もする。
それは何故か。
決まっていた。
それはナルトモがクガに告白されて関係持つようになったからだ。

 意識はしてなかった。
ただちょっとした負い目はあった。
勉強ができる奴と出来ない奴の落差に自分自身が卑屈になっているのだ。
 一般的にこの学校はレベルが高いことで有名な学校だ。
なのにナルトモは入れたのに追いつかない。予定じゃ真ん中くらいの成績なはずなのに…。
 それもこれも言われてみればクガと付き合うようになったから上の空なことが多いからじゃないかと思い当たる。
しかしそれもたぶん二年になれば落ち着くだろうと判断出来る。絶対に彼とは一緒のクラスになれないからだ。

「だとしたらお前が原因だろ」
「かもね」
「そもそもお前は俺に構い過ぎだっ」
「あれ、今頃分かった?」
 明るく笑われてカチンとくる。
 ナルトモは抱き締められている腕をストンッと下にすり抜けるとタタタッと半分ほどハシゴを降りて相手を見た。

「もう俺に構うなっ」
「それは出来ないな」
「どうせ学年が変わればクラスも別々になるんだし、今の内に離れたほうが俺たちのためだ」
「何言ってんだ。お前が変なのは承知で付き合ってるんだし、第一おかしくなったのは俺とつきあい出してからってのにいい加減気づいてほしいものだな」
「………だから?」
「お前、俺といる時よく舞い上がってるじゃないか」
「そっかな…」
「じゃあ聞く。この間動物園に行くのに待ち合わせた時も切符をなくしたとか言ってたよな」
「ああ。なくしたものはなくしたんだから仕方ないだろ」
「それ。俺と会う前に何回もトイレに行ってたからだろ?」
「ぁ、ああ」
「俺と会うのにドキドキしたからじゃないのか?」
「う、うーん…」

 そうかも。

 言われてみればそうかもしれない。
だけどそんなこと今まで考えたこともなかったからピンと来ないのだ。

「でもそ…んなこと言われても…」
「………いいよ。俺はそんなお前が大好きだ。だからそのままでいてくれ」
「……俺は俺だよ。どう変わろうとしても変わりようがないよ」
 何を言ってるのか。と怪訝な顔で相手を見上げると手を取られてもう一度屋上の屋上に引き上げられる。
 トンッと最後の一歩をあがって相手を見ると満面の笑みで抱きしめられた。

「なっ! 痛いっ。離せってば」
「もう少しこのままでいさせてくれ」
「力、強いから嫌だよっ!」
「いいからいいから」
「ちっともよくないっ!」
 そんなわけでナルトモの忘れ物は続くことになった。
学年一番のクガがナルトモのペースに併せて一般学科クラスに留まったからだ。
 なのでナルトモの苦労はまだまだ続く。
でもその苦労を苦労と分かってないところがナルトモの長所であり短所でもあるのだった。
終わり 
20130227
タイトル「クガ製ナルトモ的トラブルメーカー」