タイトル「好きの証明」

 好きって言葉は言うには言えるんだけど、それを証明するのはちょっと難しかったりする。

「昨日は散々好きって言ってくれたじゃない」
「うん。そりゃまあ……」
「あれは単にエッチしたいだけの誘い文句だったの?!」
「そうじゃなくて……」
 けしてそうとは言えない。
 昨日はただただムラムラしてたので……とはとても言えずに「ごめん」を繰り返す。
俺の名は中本気宇(なかもと-きう)。そしてさっきから喚き散らしているのは恋人の塔野菊之助(とうの-きくのすけ)だった。
 キクは名前がダサいから「キク」と呼ぶようにと再三口にしていた。
確かに今の時代「菊之助」と言う名前はダサいと言えばダサい。でも気宇から言わせれば「何て読むの?」と言われるよりはマシなんじゃなかと思うのだが、端から見ればどっちもどっちな些細な出来事に見えた。
「だいたい気宇は僕のことちゃんと見てないよね?!」
「ちゃんと見てると思うけど?」
「外っ面のことじゃないよ?!」
「だったら何っ」
「内面! こんな時は僕はどういう気持ちなのかとか、恋人なら分かるよね?」
「……あのさ、じゃあ聞くけど。そこまで言うなら、お前は今俺が何を考えてるか分かるよな?!」
「ぅ……うーん……」
「俺は何を考えてる?」
「『つまんないことばっか聞いてくる奴だな。そんなこといちいち口にしなくちゃ分からないのかよっ』ってところかな」
「……」
「正解?」と聞かれて渋々ながら気宇は頷くしかなかった。
 すると「ほらね。僕は大概のことは分かるんだからっ!」と胸を張られる。

 たまったものではなかった。

「好きの証明。出来る?」
「それって形にしなくちゃ分からないものなのか?」
「違う。あえて形にして欲しいって言ったら、どんなものってことを聞いてるの」
「そんなのないね」
「空気ってこと?」
「まあそんな感じ。キクの側にはいつも俺がいて当然ってこと」
「うっ。それは…………」
 やられたって感じでおとなしくなったキクと向かい合うと抱き締めてキスをする。
「分かったか」
「うん……」
「分かったなら黙れ。お前の隣はいつも俺だし、俺の隣はいつもお前なんだから」
「キザ……」
「何とでも」 
終わり
タイトル「好きの証明」
20201103