タイトル「たとえば、これが俺の××」part4

 たとえば学園祭。三島鉄がカフェ女に選ばれたりしたらどうなるんだろう……。
「三島君似合うぅぅっ!」
「ぇ………ぁぁ……………」
 脱力感にも似た声を発したのは三島鉄だった。
 来る学園祭。俺の策略通り、三島鉄はカフェ女になった。今日はその衣装合わせだ。どこから借りてきたのか、黒いワンピースにフリフリの白いエプ
ロン。頭にはメイドさんのヘッドドレスをつけられた三島鉄が、居心地が悪そうに鏡に向かっていた。
 ひざ上丈のスカートに黒いニーハイソックス、ピカピカの黒い靴に綺麗に整えられた黒い髪。
「三島鉄、似合うよ……」
 惚れ惚れするね……と鏡の中の彼と実物を見比べる。見られている三島鉄はとても不服そうだが、俺だけが彼を決めたわけじゃないから文句が言
えないのだ。
 各クラスから男子一名を選出してメイドカフェを開こうと言い出したのは、学年主任の飯島だった。もっとも知恵を与えたのは俺、津村砂鳴なわけだが

 学園祭前にあった試験の追試。もちろん三島鉄は追試なんて受けない。だけど俺は追試受けなくちゃならなくて授業終わりに職員室に。学年主任の
飯島は職員室の隣にある準備室にいて頭を抱えていたのだ。
「出し物が決まらないっ………!」と。
 とどのつまり、自分が提案したものが他の学年とだぶって戦いに負けたのだ。
「もう明日には出さなきゃならないのにっ。こんな時に限って!」
 ううう…と頭を抱えていたのに出くわした俺は先生に助け舟を出した。学年は全部で七クラス。男女一名づつ選抜してカフェを開く。ただし制服は男女
入れ替えで。
「面白くありませんか?」
「あ…ああ……」
「俺の提案だって言わなくていいですよ。先生の思いつきだって言ってもらえれば。だけど俺のクラスだけは三島鉄をピックアップしてくださいね。じゃな
きゃ嫌です」
「分かった」
 案外すんなりと話に乗ってくれたので気持ちも晴れ晴れ。その後やった追試は意外にも良い点取れたし、飯島は約束通り三島鉄をピックアップしてく
れたしで、俺の気分はすこぶるいい。
「似合うよ、似合う」
「………俺にはどうにも似合うようには思えん」
「そんなことないって」
 不服も不服。時間が経つにつれて奴の眉間に皺が増える。
「ちょっと! もっと可愛らしくニッコリしてよっ!」
「ぇ………」
「せっかく可愛いお洋服なのに、そんな顔してちゃ台なしじゃないっ!」
 洋服を借りてきてくれた女子が怒りを露にする。それにたじろいだ三島鉄が口をへの字に曲げながらも不平を言わなくなった。
「ニッコリは……なかなか出来んっ!」
「まだ時間はあるわ。しっかり出来るように……してきてよねっ?!」
 最後は俺に向かって言ってきた。
「ぇ…俺?」
「あんた三島君といつも一緒にいるんだから、フォロー入れてあげてよっ!」
「そりゃ…そうだけど………」
 いいのかな……と三島鉄を鏡越しに伺う。すると「仕方ないよ」と頷く彼を見て、俺は笑顔で大きく頷いた。「よっしゃ、任せとけっ」だ。
「じゃ、私帰るからっ!」
「えっ!」
「だーって、今から塾なのっ!」
「あー。それじゃあ無理だね」
「でしょ?! じゃあねっ!」
「ああ」
 それでも少々納得いかないぞとばかりな顔をする三島鉄。俺はわざと真剣な顔をして咳払いをひとつしてみた。
「三島鉄」
「んだよっ!」
「綺麗だ」
「………ぶん殴ってやろうかっ!」
「その姿でぶん殴るとどうなるか、分かってて言ってるんだろうなっ!」
「ぇ…?」
「大事な洋服が破れても知らないぞ? お前弁償出来るのか?」
「そ…それはっ………」
 出来やしないだろっ。
 へへへっと笑うとクルリと奴の回りを一周してみる。うん。実にいいビジュアルだ。
「………っ」
 三島鉄は唇を噛み締めてそれに耐えていたのだが、どうにも我慢出来なくなって地団駄を踏み出した。
「見ーるなっ! 見るなったら見るなっ!」
「………俺が見なくても当日はみんなにいっぱい見られるんだぜ? 今から練習しとかなくてどうするよっ!」
「うううっ………!」
「耐えろっ! 耐えるんだ、三島鉄っ!」
「くっそぉぉっ!!!」
 またまた怪獣になる寸前でフォローを入れる。
「三島鉄、綺麗だ」
「馬鹿野郎っっ!!!」
 俺にとってはフォローでも、相手にとってはフォローじゃない。奴はあまりの悔しさからか目に涙を滲ませて俯いていた。
「………」
「………三島鉄……。そんなに悔しいのか?」
「………」
「お前にこの気持ちが分かるかっ!」
「………分かんないなっ」
「ばっかやろうっ!!」
 バシッ! とケリでも入るのかと思ったら、わんわん泣き出してしまった。
「みっ…三島鉄っ……! どうしたっ! おいっ!」
「だーってお前がぁ……、あんまりいじめるからぁ……!」
「いや、いじめてはいないぞっ!いじめてはっ!」
「うわぁぁんっ! わんわんっ!」
「えっ…っとぉ………」
 これにはどうしていいのか分からなかった。まさかこんな反応を示すとは、思ってなかったからだっ。
「三島鉄っ! ごめんっ、三島鉄。俺、からかってるんじゃなくて本当に……」
「本当もクソもあるかよっ! もぅぅっ! 俺、こんな姿みんなに見られたくないってばっ!」
「しょうがないじゃん。もう決まっちゃったんだしっ!」
「だーって、だってだって………。お前だけなら許せるけどぉ……、学校中の奴らに見られるだぜ?! 保護者だって来るんだろうにぃっ!」
「三島鉄。もう一回。リピートいい?」
「ああっ?!」
「お前だけならってとこ」
「もう覚えてないっ!」
 わんわん泣く三島鉄を抱き締めて「ごめん」を繰り返した俺。
 結局学園祭は奴の代わりに俺がメイド服を着たのでした。まったく俺って涙に弱いんだな。あいつの涙に俺は勝てないっ。 
終わり たとえば part4