タイトル「福田博士の超マイナーな研究の果て2-好きの続き」

 時間の感覚があやふやになってきている。
福田は岩の中に入ってから何日か経っているのは分かっていても、それがどのくらいだか分からなくなっていた。
と言うのも、ここの生活が案外快適だったせいだ。
欲しいと思うものはコウに言えば岩から出てくる。
これも自分だけの力ではなく二人の相乗効果みたいなものだとコウは言った。
「だから私ひとりでは何も出来ないんだよ」
「…それじゃあ俺と会う前までは何をどうしてたって言うんだ」
「何も。私はお前みたいに何かを欲することがないからな」
「食べ物とか飲み物とか。そういうのしたいと思わないんだ」
「でも食べれるし飲み物だってほら」と湧水を手に取ると福田の前で啜ってみせた。
「それも相乗効果ってやつか?」
「そうだ。私は今まで人の真似をすることしかやったことはない。自分で欲したから食べたいと思ったことは一度もない」
 しかし福田のために出てくる食べ物をおいしそうに食べるのは福田よりもむしろコウのほうだった。
 それについてはどうしたもんか…。
 これはもしかしたら神が俗世間に染まりつつある。と言うか、自分がそうしているのだと言わざるを得なかった。
でも福田は人間なので普通に腹も減るしトイレにだって行きたくなる。
するとどんどん岩の中のスペースは大きくなり、今は四畳半ほどにもなってしまっていた。
もちろんシャワーやトイレも入れての四畳半なので、実際にいられる場所としてのスペースはせいぜい二畳だ。
ふたりで横になれるくらいだった。
ここには布団もないので時間が経って眠くなると横になる。纏わりついてくるコウの温もりに甘えるばかりだった。
 たぶん感覚として四日くらいはここにいると思う。
いい加減に出ないと本当にどうなるのか分からなくなってきている。
「…お前は出たいのか?」
「出たいかも」
「私と一緒では厭だからか?」
「そうじゃあなくて。なんて言うかな…。このままこうしてちゃ駄目なような気がするんだ」
「だから出ると?」
「ああ」
「私を置いてか?」
「置いても何もお前は最初からここにいたじゃん」
「いたけど…」
「何だかはっきりしないな。もしかして寂しいのか?」
「寂しい?」
「ああ。また一人ぼっちになってしまうのが寂しいのか?」
「お前がいなくなればそうだな。私はまた一人ぼっちだな」
「…早く慣れろと言って欲しいか。それとも俺と一緒に行かないか? と言って欲しいのか、どっちだ」
「どっちだろう…」
 しばらく考えさせてくれと言うコウに頷くと背中を向ける。
ずいぶん自分勝手なことを言ったなと思った。だけどこのままここにいると、この岩はどんどんでかくなる。
これはあまりいい傾向ではないように思えたからだ。
 もしかしたらコウに負担がかかっているのかもしれない。元々自分ひとりのための住居? なのだから。
「福田。お前は私のことが好きか?」
「あ…? ああ」
「ではそもそも好きと言うのはどういうものなのだろう。形にはならないんだろうか」
「形…か……」
 それは難しいと言えた。
神を抱くことは冒涜だ。本来してはいけないことだろう。だけど好きというのを形にするとなると愛の証とか痕跡をつけることにもなる。
 したくないかと問われればコウならしてもいいかなと思える。しかし相手がどんな反応を示すのか…。自分もどうなってしまうのかが分からなくて怖かったのだ。
 もしコウとそういうことをした後、コウがこの岩みたいにデカくなってしまったら…。
なんてとても尋常じゃない考えが頭を過る。
「はははっ。それはないだろ」と思ってみてもないとは限らないので怖いのだ。
考えに考えてあまりさし障りのない行為をしてみようと思った。
「好きの形についてだが、色々とあるんだ」
「色々とはなんだ、色々とは」
「色々だよ。最初から順を踏んで行かなければ嫌われてしまう可能性もある」
「それは人間同士の時だろう? 私との場合はズバッと最後からでも構わんぞ? 私はチマチマ小出しにされるほうが嫌いだ。ズバッと最後からやれ。ああ順番だと言うなら最初から全部やれ。許す」
「え〜」
 そう言われても困るばかりだ。
こんなことなら寝ている時にちょっとそれとなく口にしてみても良かったな…と後悔したりした。
 時間ばかりは有り余っている岩の中で真正面に陣取られて答えを行為で示すはめになってしまった。福田はワクワクしているコウとは裏腹に困って迷って最終的にはヤケクソになってことに及ぶことにした。
 向かい合って肩を掴むと顔を近づけて唇を重ねる。
触れた唇が柔らかくて、もう一度触れてみた。
「福田。こ-ういうのは知っているぞ。鳥たちがよくやっている。んっ…ん…」
「鳥のとはちょっと違うんだけどな…。嫌がらないで。ちょっとだけ口を開けて」
「こうか?」
「そう。俺が舌を入れるから噛まないでくれよ」
「分かった。んっ…んん…」
 柔らかい唇は言葉で表現するとしたらプルンッと言ったところだろうか。
福田はこんなに柔らかな感触は今まで味わったことがなかった。
正直女ともしたことはある。赤線の女だったせいかこんな味わい深い感触はなかった。
「福田…? これは…。これには名があるのか?」
「言い方は色々だけど、だいたいみんなは接吻とか口づけとか言ってるな」
「そうか。接吻か…。いい言い方だな」
 ふふふっ…と嬉しそうに言いながら自分の唇を指で撫でる。
他のものがそこに触れるのは珍しいことだからか、コウはニマニマとしばらく自分の唇を撫でていると今度は自分からしたいと迫ってきた。
「別に私からお前にしてもいいのだろう?」
「そりゃ…構わないけど…。するのか?」
「いいだろ?」
「いいけど」
 コウは福田がしたように顔を近づけるとそっと唇を重ねてきた。
そして少し開いている口の中に福田がしたように舌を差し入れてきたのだった。
「んっ…んんっ…」
「んっ…」
「ん……」
 角度を変えて何度も同じ行為を繰り返す。
そして角度を変えるごとにコウの体が密着してきて、終わった時にはもうコウは福田に跨り首に手をまわしている有様だった。
コウは跨ったまま福田の上で腰をくねらせてくるものだから福田は股間のモノを刺激されてしまい自然に次の行為に及ばざるを得ないところまできていた。
「福田。お前の股の中心が何やら堅くなってきているようだが…」
「ああ。お前がギュウギュウ押さえつけたりこすりつけたりしてくるもんだから反応しちゃってるだけだよ」
「反応?」
「そう。人間って言うのはね、神様と比べれば寿命が短いんだ。だからちょっとでもソコを刺激されると種を残そうと必死になっちゃうんだ」
「寿命…か……」
「もしかしたら神様にはないかもしれないけどね」
「あるぞ」
「えっ?」
「私たちの寿命は皆に忘れ去られたら終わりだ。どんどん小さくなっていく。九十九神になれる者も中にはいるだろうが、たいがい小さくなっていったり浸透していったり。つまりは自然に帰るんだ」
「………痕跡もなくなるってこと?」
「ああ。人間は一時屍が残るが神は残らない。ある日突然に自分の存在がなくなるのだ」
「え……」
 それは良いことなんだろうか。そうとは思えなかった。
「だっ…だったらコウはどうなんだ? 村の人々に言い伝えとして言われている内は生きていられるということか?」
「さあ…。私の考えではお前が私の研究をしてくれているから私は現状が維持出来てると思ってるんだが」
「じゃあ他のヒカリゴケは?」
「あいつらは神ではないからな。信仰心とか関心を持たれてるとか関係ない。自分が好きなだけ生きて死ぬだけだ」
「…じゃあ神ってずいぶん損な存在じゃないか」
「そうかもしれないが、自分で望んだわけではないからな。人から言わせれば「選ばれし者」とも取られるだろう?」
「それは…そうだけど……」
 それでも何だか納得いかなかった。
 それじゃあコウは神様なんかじゃなければ良かったのに。
 でもそうすると出会えたかどうかも分からない。
コウの今の姿があるのは自分がコウのことを知りたいと思っているからだと言うのもなんとなく分かった。
結果として、それならこの部屋の大きさもコウを通した自分の欲望と言うことにもなってしまう。
そもそもコウには欲がないと言うのならそうなのだろう。
 俺はコウのことがもっと知りたい。もっと愛し合いたい。でも…。
「どうした。好きの続きをやらないのか?」
「ぁ、うん…」
「どうした。私のことが好きなのだろう?」
「好きだよ。だけど…何だかとても独りよがりな気がして…」
「どうしてだ。私だってお前のことが好きだぞ? それだけでは駄目なのか?」
「駄目じゃないよ。とても嬉しい」
「では良かろう。続きをしよう」
「ぅ、うん…」
 ゴリゴリと股間を股で刺激されると、あまり深く考えるのもバカバカしいかも…と言う気にもなってくる。
福田はコウを押し倒すと唇を重ねながら体を弄った。
コウは福田と同じ格好をしていたが、神なので真っ白な色を着ていた。
出会った頃は確か服らしい服も着ていなかったように記憶しているが、何もかも見よう見まねで福田の真似をしていた。
見よう見まねとは言っても観察能力が優れているのか、コピーのようにしっかりとそっくりだった。
そしてそれが厭味じゃないのが、またほくそ笑む限りなのだが。
そんな彼の行為が可愛いとかいじらしいとか思えてしまっているので、それがまた相手にも伝わるのだろう。
コウは嬉しそうに福田の首に手を伸ばすと暴れることなく福田の行為を受け入れたのだった。
「何故服を脱がすのだ?」
「服は今ないほうがいいと思ったからだ。着てしてもいいんだが、どちらにしても下半身は脱がないと好きという行為が出来ない。やめるか?」
「いや、やる」
 聞いてからそれが理にかなっているとなると率先して脱ぎにかかる。
コウの体は少し輝いているようにも見えて福田はいけないことをしている気持ちと共に欲情もしていったのだった。
「ぅ…うう…ふっ……」
「まるで人のようだな」
「そ…そうか…? ふふ…」
 福田は今コウの秘所に指を差し入れて自分と同じように勃起させている股間のモノをしごいていた。
もしかしたら福田が女だったなら、コウも女の形をして現れたのかもしれない。そんなことを思ってみるが、今は些細なことだ。
福田はコウの足を肩に担ぐと指を引き抜いて自分のモノをソコに押し当てた。
「コウ。今からお前の中に入れる」
「入れる? お前が私の中に入ってくると言うことか?」
「ああ」
「お前はもう私の中に入ってると言うのに……? まあいい、好きにしろ」
「…」
 にんまりと笑うコウに疑問を感じるが、それを悠長に聞いていられるだけの余裕は今の福田にはなかった。
早く彼の中に入って彼を味わいたい。そんな気満々だったのだ。
グイッと力を入れながら中に押し入れる。コウは顔をしかめながらもギュッと福田にしがみついてきた。
「ううっ…うっ…!」
「ぅぅぅっ…」
「キツいか?」
「キ…ツい…?」
「ああ。苦しいか?」
「少し…な」
「でもお前がいるから大丈夫だ」と言われてテンションが上がった。
福田はコウを突きまくりコウもそれを受け入れ、ズレる体をどうにかしようと必死になってしがみついてきた。
その必死さがまた可愛くて福田は彼を突きながら口元をニヤつかせてしまった。
 ああ…。何か…凄くいい感じだ…。
「ぅ…ううっ…!」
「ふっ…ぅ…!」
 何度も突いて体を密着させるとブルブルッと震えて福田のモノが彼の中に放たれる。
コウが同じように射精することはなかったが、彼自身の輝きがこれまでにないほど増したのだった。
「うっ」
 神々しいと言おうか、あまりに眩しすぎて目が開けていられない。福田は片手で自分の目を隠しながら抱きついてくるコウを抱きしめたのだった。
 しばらくするとコウの輝きが収まってきた。抱きしめている体温に変わりはないのに明るさが収まってくると何だか温度まで低くなってしまったように思える。
「福田…」
「コウ…」
「こういうのを好きと言うのか?」
「うーん…。好きのひとつかな」
「うん? 何だ? 好きと言うのはもっと色々あると言うのか?」
「あるけど…。今コウにこうしていいのは俺だけだ」
「…そうか」
「コウ。こんなことをしても俺のことが好きか?」
「ああ。最初から私の中に入ってきたのは、お前だけだからな」
 そういうとコウは、福田のモノを挿入したままにこやかな笑顔をつくりながら再び愛を確かめ合うために唇を寄せてきたのだった。
終わり 20131124
タイトル「福田博士の…2-好きの続き」