タイトル「曖昧な関係・不覚な俺」

 目覚めたらやられてたなんて理不尽なこと、お前にはあるか?
たぶんだいたいの奴はないと思う。
だけど今、俺の現状は最悪だった。

 俺・稲垣燐(いながき りん)は友達の町田更生(まちだ さらお)にどうやらされてしまったようなんだ。

何をって、ナニをだよ。

 いや、正確に言えば中には入れられてない、と思う。
でも股は奴の精液でカピカピしてるし、第一にして俺らは裸だった。
「おい。おいってばよっ!」
「ぅ…うーん……」
「起きろって!」
「んだよ…。うるせぇなぁ……」
 声をかけても起きようとしないこいつに苛立った俺は、大きく奴の肩を揺らすとこちらに向かせた。
グイグイやられた奴は仕方なく片目を開けると怪訝な顔を隠さなかった。
「んだよっ!」
「お…前……。昨日のこと覚えてるか?」
「昨日のこと?」
「ああ。正確に言えば昨夜のことだ」
「飯食って寝た」
「それだけ?」
「あーーーーーっと……」
「故意にか? それとも意図せず? 俺たちの関係は?!」
「友達?」
「そっ…そう。友達。友達か…」
「お前、どうしたんだよ」
 変なの、と今度は笑みを浮かべながら手を伸ばしてきて俺の首に回す。
グイッと引き寄せてギュッと抱きしめられると思い切り髪の匂いを嗅がれた。
「ちょっ! 何すんだよっ!」
「何って朝の挨拶じゃないかよ」
「ないかよって…。お前、昨日俺にしたこと覚えてないの?!」
「うーん………。あーーー。てかさ、お前こそ、俺としたこと覚えててそんなこと言ってんの?」
「えっ…?」
「俺とお前、昨日結ばれたんだよ」
「なっ…何言ってんだよっ! 俺たちは友達同士なんだぞ?! そっ…それに男同士だし!」
「でもちゃんと出来ただろ?」
「出来た?!」
「正確にはまだその手前だけど、相手に負担をかけないで楽しむ方法としては良かったと思ってるんだけど?」
 クスクスとからかうように笑われてムッとしまう。
「俺とお前、そんな仲じゃなかったはずだっ!」
「昨日まではね」
「何だよ、その昨日まではねって!」
「何だよ。そんなことも忘れちゃったのかよ」
「忘れた?」
「ああ。あーーー。しょうがないなぁ。一から説明しないといけないなんて…。俺って不幸なんかな」
「……」
 正直なところ奴の言っていることが分からなかった。自分としては違う世界にでも来てしまったのか? と思うほどだ。
「俺とお前は友達だったけど+恋人になったんだよね。つい数時間前」
「俺は承知してないぞっ!」
「でも事実は事実だ」
「経緯を言えっ! 経緯を!」
「経緯も何も…お前が言い出したんじゃないかよ」
「えっ?」
「俺の気持ちを分かってないとか。どうしてもお前とひとつになりたいとか。あーーー他には…お前のモノもっとじっくり見たいだとか、舐めたいだとか。そんなことも言ってたな」
「うっ…ウソだっ!」
「ウソじゃないっ」
「何で俺がそんなこと言わなきゃならないんだよっ!」
「それを俺に聞く?」
「おっ…俺はそんなこと言った覚えがないからなっ!」
「言った覚えがなくて、どうしてこんなになってんだよっ!」
「それが分からないから聞いてるんだろうがっ!」
「お前が言い出したことを俺に聞くのは大きな間違いだってことに、いい加減気づけっ!」
「だっ……て……」
 ますます頭が混乱した。
何がどうなってこんなになってるのか………。

 俺は、こいつをそんなつもりで好きだったのかどうか………。

 好きだったけど、それは友達として好きだっただけで、けして恋人になりたかったわけじゃない。
だけど……。

「お前は俺のこと好きだって言った。そんで抱きついてきた。それは何を意味するのか、分かってるよな…」
「えーーーっと……」
 言っている意味は分かっているのだが、自分がそれをしたのかどうかは分からないし、知りたくもなかった。
だってそれはイケない道だからだ。


「俺……」
「自覚ないって言うのかよ」
「う…うーん……」
「責任取ってもらうからな」
「えっ…」
 それって本来俺のほうが言う言葉なんじゃ……。

 思いはしたが、口にすると倍返しされそうなのでやめた。
俺は俺のしたってことに納得いってないし、したとも思っていないんだが、相手を納得させるためにその場しのぎをしたんだ。
でもそれがいけなかったのかもしれない。
事実は事実として奴は俺に付き合うことを要求してきた。

「ぇ………何て?」
「付き合うんだよ、俺たち」
「何で?」
「相性が良かったから」
「ぇ………っと………」
 付き合うも何も俺はそれを覚えてないってのに、奴はとっても乗り気だった。
「燐」
「うん…? んっ………!!」
 顎を取られたかと思ったら、いきなり唇を重ねられた。
驚いている内に口内に奴の舌が割り入ってきてレロレロと中身を確かめるように這い回る。
思わず噛んでやろうかとも思ったが、口内で動き回る異物に躊躇している内にキツく抱きしめられて股を割られると、あっという間に組み伏せられていた。
「んっ………んんっ! んっ………!」
「ふっ………」
 黙ってろとばかりに体を弄られて尻の肉を鷲掴みにされた。
「んんっ! んっ!」
 この時になってようやく気がついた。
俺はやっぱりそんなこと一言も言ってないってのに。

 奴の目が嬉しそうに細められている。
だけどその眼の奥は全然笑ってなかった。
「やめっ………!」
「駄目っ」
「んんんっ………!」
 グイグイ体を押し付けられて奴の手が俺の体を這いずり回る。
占領されていく……!
「やっ……ぁ…。あっ…あ……」
「きっきだって感じてたくせに」
「ぅ…ぅぅっ……」
「お前、俺だけが出したと思ってるんじゃないだろうなっ」
「っ……」
「お前だって、俺の手の中にいっぱい出したんだぞ。失礼な奴だ」
 ギュギュっとモノを握られてしごかれて耳を口に含まれた。
「うっ…! ぅぅっ…」
「俺たち、友達だけど恋人でもある。言わば両性対応型運命共同体だ」
「なっ…に言ってんだよっ!」
「文句は言わせねぇよ。お前から誘ったんだからっ」
「そっ…んな……」
 俺はまだ萎えているモノを奴の手によって無理矢理勃起させられて、後ろの穴にも手を伸ばされた。
「やめっ…」
「駄目。お前はもう俺のものなんだから」


 俺は落ちる。
たぶん否応なしに。

 だってこんなの初めてだし、相手が巧み過ぎるから。
こいつって、こ………んな奴だっけっ………?!
迫られて、口説かれて、擦られて、入れられて………。
俺は沼地に足を踏み入れたみたいに、どんどん深みに嵌っていく。


「んっ………んんっ………ん………」
「もっと喘いでいいんだぜ」
「ううんっ………! んっ、ん………!」
 俺は口を押さえて必死に首を横に振っていた。

 入れられているっ。
今度は確実に。

 俺の気持ちなんて関係なく、ただ気持ち良さだけを追求した行為。
責任を取れって、やっぱりこういうことなんだ。

 俺、こいつに何かしただろうか………。
それともこいつが俺に固執してるだけなのか?

 どっちにしても始まったばかりのこの行為に二度目はないと言いたいっ。
今はそれだけだっ………………。
終わり
20141201
タイトル「曖昧な関係・不覚な俺」