タイトル「CinnamonTime」-4
「んッ……ぅん………。ん…んッ…んッ………」
何だか気持ちがいい……。
夢のような……そうでもないような感触に、僕はまどろみの中で声を出しているのに気づいて、半分目を覚ましていた……。
なんだろう……この感触………。
甘ったるいような……。
でもそうでもなくて……。
自分のされていることが理解できないまま、枕の上で頭を左右に振っていた。
下半身が……妙に折れ曲がってる……。
それは自覚出来た。
どうしてそんな格好をしているのか……。
それまでは理解出来なかったけど……確かに僕の脚は大きく広げられていて……真ん中にあるモノをしゃぶられているような感覚に陥っている……。
夢……?
「ぁ……ぁぁ……んッ……」
自分の出した声が聞こえてくる……。
そして…僕の脚を掴んで折り曲げている誰かの手……。
僕のモノを………しゃぶってる……?
よく考えみればピチャピチャと卑猥な音が聞こえてくるのにも気づく。
ぇ………これって……現実………?!
夢だか現実だか分からないまま、それでもこの股間の気持ち良さは、現実にされないとならないだろう変化を遂げていた。
僕は半分眠っている頭を無理やり起こし、重くて開けられない瞼を必死になって開けて自分の股間を見つめてみた。
そこには……。
そこには、考えられない光景が広がっていた。
僕の股の間。
つまりモノ。
それをしゃぶっている人間が本当にいたんだ。
「ぁ………」
でも…信じられない……。まさか……。
なんで……?! なんで理一さんが……?!
見間違いなんじゃないだろうかって、何度もまばたきをして目をこらしてみたけれど、僕の勃起したモノをしゃぶっているのは間違いなく理一さんだった……。
髪の毛をボサボサして眼鏡も外した理一さんが、僕のモノをしゃぶっている……。
それも吸ったり絡めたりして……。
「り……理一さん……ッ……?!」
最初は冗談かと思って呼びかけたけど、こんなこと冗談で出来るわけないッ。
自分だったらとてもじゃないけど出来ないような行為に、僕は混乱するしかなかった。
ど……うして……?!
「あッ……ぁ……」
腰を捻ってどうにか体勢から逃れようとするんだけど、こんな時に限ってなかなか起き切らない僕の体は、力ってもんがまったく入らなかった。
「ぁ……ぁぁッ……んッ………」
しっかりと両方の脚を掴まれて、股に彼の指が食い込む。
とっさに股間にある彼の頭を退かそうと手をやったけれど、咥えていたモノにカリッと歯を立てられた。
「ああッ……! くッ……」
きつくじゃないけれど、それっておとなしくしてないと今度は本気で噛み付くぞってことなんじゃないか……?
そう思うと、それ以上の抵抗が出来なくなる。
僕は一度掴んでしまった彼の頭に、手をやりながら恐々声をかけてみた。
「やめて……理一さん……理一さんでしょ……? ……んッ……」
だけど彼は、僕のモノを咥えているのをいいことに何も言ってくれなかった。
僕はそんな状態のモノを他人に咥えられてる光景なんて見るのが初めてで、ましてや自分がされる姿なんて想像もしなかった。
あまりに巧妙な彼のテクニックに、僕のモノはもう破裂寸前だった。
我慢しようとしても、こんなにされたらどうしようもないッ。
「やッ…ぁ……出るッ……出ちゃうッ……んッ…んッ……!!」
ドクドクッと出た僕の精液を、そのまま彼が飲み干していく。
ゴクゴクと喉に流れていく音を聞いてしまうと、僕は恥ずかしくて、この場から逃げ出したかった。
だけど脚を掴んだ彼の手はそんなこと許してもくれず、僕は大きく脚を広げたままドクドクと高まる自分の心臓の音を確かめるしかなかった。
ペチャペチャと僕を舐め回す音が室内に響く。
もう何度射精させられただろう……。
目は覚めているのに、下半身がやけて重くて身動きが取れない。
理一さんは僕のモノを口の中で転がしたり、噛んだり、吸ったり、と色んなことをして僕の動きを麻痺させていく。
時には掴んだ内股に舌を這わせながら、その一方で爪を食い込ませる。
「も……やめて……」
「……」
それにも何も答えてくれずに、今度は袋を口に含まれた。
「ああッ……んッ……んんッ……!」
口の中であめ玉を転がすようにしゃぶられると、嫌でも腰がくねり出す。
無意識の内に自分の手が、ふやけてしまったんじゃないかって思うモノに伸びてしごき出してしまう。
「んんッ……んッ…ん……」
でも何度も出しているからなかなか勃起もしてくれなくて、出したい衝動だけが高まっていく。
こんなの……。
今まで経験したことのないもどかしさだった。
「ぁ…ぁ…ぁぁ……ん……だめッ……出ないッ……出ないよ…理一さん…んッ……!」
もう勃起らしい勃起もしてくれないモノを、必死になってしごいてみる。
だけど、そこだけじゃイけないもどかしい感じだった。
袋をしゃぶっている理一さんの唇がモノをしごく僕の指に触った。
彼は動きを止めてポロリと袋を口から出すと、モノを握っている僕の指を舐めだした。
ぇ……?
両脚を掴んでいた手が放されて僕の指を包む。
ジッとそこだけを見つめながら、彼が僕の指を一本一本丁寧に舐めだした。
その時、初めて髪で隠された彼の瞳を見ることが出来た。
その目は、何も見てないような…違和感を感じた。
「理一…さん……?」
自由になった脚を摩りたいのに、それより先に彼のおかしさが気にかかる。
僕は指を舐められながらも、顔を近づけて彼を覗き込んだ。
目が合うとにっこりと微笑んで、その唇が僕の唇に重なってくる。
ねっとりとした舌が僕の口の中に入ってきて、僕は押し倒されながら舌を絡めていた。
「ん……んんッ……」
彼の着ていたガウンがはだけて、薄いパジャマのズボンを通して彼の勃起したモノが僕のモノに擦り付けられる。
お……大きい……ッ……!
僕は今まで何度も射精してきたけれど、よく考えてみれば彼は一度も射精してない。
溜まりに溜まった、そのはけ口って……。
考えるとゾッとしてしまった。
指を掴む彼の手が股間に移動して僕のモノをやんわりと触る。
でもその手はそこで止まることをせずに、もっと奥のほうに忍んでいった。
「んんッ……!」
やめてッと言おうとしたけれど、口が塞がれているから言えやしない。
理一さんの指は、僕のお尻の穴を確かめるようになぞり出した。
「地史……お前の中に入りたい……」
やっと唇が離れたかと思ったら出された言葉に、僕は驚くしかなかった。
そりゃ言われた言葉の内容にも驚くけど、その抑揚のない喋り方は、明らかにいつもの彼じゃないからだ。
「地史……」
まるで操り人形みたいな喋り方をする彼に、違和感と何かを感じる。
酔ってる……の?
そうとしか考えられない。
「………!」
これって…目が座ってるんだ……!
でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「やッ…理一さんッ…ちょっと……んッ……!」
ズブッと、なぞられていた穴に指を入れられて思わず体がのけ反った。
「地史……地史……」
「ぁッ……あぁ……!」
ズズズッと僕の中に彼の指が入り込んでくる。
僕は理一さんの肩を掴みながら、体を堅くするしかなかった。
「もっと力を抜いて。でないと痛いだけだよ」
「ぅ……ぅぅ………」
そんなこと言われたって、そもそもそんなことしたくないのに……。
涙が出てきそうになってる反面で、痛いはずなのに、それとは違う感覚が僕を襲っていた。
なに…?
体の中に入り込んだ彼の指が、抜き差しをしながら内側をなぞる。
ぇ……?
僕はこの初めての感覚に体を、ブルブルと震わせて耐えるしかなかった。
痛い…? じゃない。何て言うか………。
「ぁぁ……ぁ……」
「そう。もっと脚を開いて。痛くなくなるから」
「ぅ…ぅ…ん……ッ……」
言われるまま、僕は脚を大きく開いていった。
すると本当に痛みが少なくなった。
でもその分、身震いするような感覚が余計に僕を襲う。
「やッ…指……動かさないで……ッ……!」
必死になって訴えたけど、理一さんは抜き差しする指を止めてくれなかった。
「ぁ…ぁ…ぁぁ……!」
グチュグチュと抜き差しする卑猥な音が、僕の恥ずかしさを煽る。
「やッ…やめて……!」
言えば言うほど、抜き差しする回数が増えているように思う。
いつの間にか指の本数も増えていて、僕は脚を開くだけじゃ物足りなくなっていて、自ら腰をくねらせていた。
「気持ち良く…なりたいだろう?」
「ぇ……?」
よく…聞こえない……。
あんなに射精したのに、僕のモノはまた勃起してる…。
自分のモノを確かめるように股間に手を伸ばし握ってみる。
それを見てにっこりと笑う彼の顔が近づいてきて、同時に僕の開いた脚が耳の横にくるまでグイッと折り曲げられた。
「あ……ッ……!」
しっかりと指で広げられていた濡れて開いた穴の中に、彼のモノがいきなりズブリッとつき刺さった。
「う゛ッ…! あッ……ぁぁ……ッ……!」
微笑んだ彼の顔を間近で見ながら、彼のモノが無理やり僕の中に押し入ってくるのを体で感じる。
す…凄いッ……! なに……この感触ッ………!
内蔵をえぐられるような……。
でもそれとは全然違うような……。
たとえようのない感覚に、僕は顔を歪ませ必死になって耐えていた。
突き進んでくる彼の勃起したモノ…。
それが僕の中でドクドクと暴れている。
脈打つモノを根元までしっかりと挿入されて、なおそれ以上奥に入れようと打ち付けられる。
「う゛う゛う゛ッ……!」
打ち付けられるたびに僕の尻に彼の袋がピタピタとぶつかって、それがまた卑猥な気持ちをかき立てる。
僕は必死になって彼にしがみつき、彼も僕の中に執拗にモノをねじ込んでくる。
汗が……。
彼にしがみついているのに、汗で手が滑る。
僕の場合は冷や汗半分だけど、彼はきっと全部欲望の赴くまま流している汗だ。
「そんなに締め付けるな……」
「そ…んな………ッ……。無理ッ……!」
快楽に溺れながら口元を緩ませて彼が言うのに答える。
こんな理一さん…初めてだ…。
「ケツの中に入れられて……。感じてるお前を見るのが快感だ……」
「ぁ……ぁぁ……んッ……!」
彼が熱にうなされたように口にする言葉に、反応してしまう僕がまたいやらしくて恥ずかしい……。
入れられて抜き差しされるグチュグチュって音にも羞恥心が倍増される。
僕は抜き差しされながら、それでも一度入れられたモノを全部抜かれてしまうのが嫌で、苦しいのに必死にそこに力を入れて彼をくい止めようとしていた。
「経験が…あるのか……?」
彼の顔が苦笑しているみたいに見える……。
「ケツの穴が吸い付いてくるぞ」
「ぃ……言わないでッ………そ…んなこと……ッ……!」
「貪欲な奴だ」
「ぅ……! ぅ……!」
「そして、思っていたよりもいやらしい……」
「ぅぅ……ッ……!」
彼の言う一言一言に、敏感に体が反応してしまう。
もう……どうでもいいッ……!!
腰を振って、もっと奥に彼のモノを誘おうと賢明になる。
僕は……こんな自分がいたなんて今初めて知った……。
ビクビクッと体が痙攣する。
続いて彼のモノが一瞬大きく膨らんだと思ったら、勢いよく中に射精されていた。
「あああッ……!」
「ッ……!」
ドクドクッと彼の吐き出したものが、僕の中に注ぎ込まれる。
それを一滴も残さぬように受け取ろうとしている。
なんて卑しんだ……。
僕の中で射精をした彼はそれを押し込めるように、何度か根元まで突っ込んでからズルリとモノを引き抜いた。
「ぁッ……」
とたんに彼の注ぎ込んだものが僕の中から溢れ出る。
トロトロと穴から出てしまうものを押さえきれない。
閉まりのなくなった僕の穴は、彼に見つめられたまま汁を流すしかなかった。
恥ずかしい……。でも……。
見られていると思うとゾクゾクしてしまう。
僕は自分の半咥ちになったモノをしごきながら、自分の穴を探って指を突っ込んでいた。
「ぁッ……ぁ…ぁ……」
「見せつけか……。物足りないみたいだな」
「ちがッ…」
そんなんじゃなくて……。
言おうとしたけれど、それじゃあ何なんだろうって考えてしまう。
要するに彼の言ってること、そのものが正解なんじゃないか……?
もの…足りない……? 僕が……?
だけど……それ…否定出来ないかも……。
僕の体は…入れられていたモノがなくなって、開いた空間に咄嗟に自分の指を突っ込んだ。
それを……。
見せつけてる……?
そう。僕は……彼に物欲しげに見せつけてる………。
これじゃあ、卑しいだけなのに………。
それでも、どうすることも出来ない。
欲しい。
彼のモノがないと、すごく物足りないような気持ちになってしまっている。
なんで……?
こんなこと、彼にとっては「酔っていたせいだ」「もう二度としない」なんて言ってしまえば終わってしまうことなのに……。
明日になれば、きっと彼はそう言う。
言わなくても、忘れたふりをするに決まってる。
きっといつもの冷静沈着な彼に戻って……。そしたらもう……。
僕は、こんな快感を知ったまま放って置かれるのは嫌だった。
卑しくてもいいッ!
一度だけなんて…言わせないッ!
「何…してもいいから……。僕をこのまま放っておかないでッ……!」
必死になって声を絞り出した。
こんな格好したまま、彼に見つめられたまま、もっとおねだりするなんて……。
考えられないッ。信じられないッ。だけど……!
「淫行か……」
考えるように言葉を出す彼に、いい返事をもらいたくて入れたままの指を開いて腰をくねらせる。
彼は…顎に手をやって少し考える仕草をすると、掴んでいた僕の脚を放り出してガウンのまま部屋を出て行ってしまった。
「理一さん………」
見捨てられた……?
こんなにまだ体が火照ってるのに……?
あまりに唐突な終わり方をされて、僕はどうしたらいいのか分からなくて、体の力が抜けてしまった。
メソメソ泣くのは好きじゃない。
けれどこんな風に放り出されたら……自分で自分の始末が分からないよ……。
布団に丸まって彼の精液をお尻から垂れ流したまま、どうしようも出来ずに震えていた。
どうして…こんなことに………。
僕の体……どうにかしてよ……ッ……!
カチッとドアが開く音がした。
「ぇ……?」
布擦れの音がしてベッドがきしむ。
理一さん……?
布団から顔を出すと、今度はちゃんと眼鏡をかけた彼が僕を覗き込んでいた。
「ケツの穴が締まらない内に、もっとして欲しいか?」
「ぅ……ぅん………」
どう答えていいものか迷いながらも即座に返事をする。
顔を近づけてきた彼の口からは、また強い酒の匂いが漂っていた。
「飲んで…きたの……?」
「飲まなきゃ、やってられるか」
皮肉な笑いをしながら彼が言葉を出す。
バッと布団を剥がれて下半身だけがしとどに濡れている僕の体を、立ち膝になりながら彼が見つめてきた。
彼はガウンの下には何もつけていなくて、さっきまで僕の中に入っていたモノが丸見えになっていた。
「ぁ……」
それを食い入るように見つめてしまった僕だけど、視界の中にさっきまでなかったものに目が止まった。
彼の手に握られているもの。それは……。
紐と……バイブ………?!
「何をしてもいいと言ったな」
「……言った……けど……」
それ、使う気……?
初めて見る偽物の男根……。
それはグロテスクなイボイボがいっぱいついていて、テラテラと光っていた。
そしてストッキングみたいな何本もの紐…。
それって、いったい……。
何に使うなんて聞くのが、すごく野暮みたいだ。
理一さんはビックリしている僕の身ぐるみを引っ剥がすと、片方の膝にそのストッキングみたいな紐を縛って、首の後ろを通してもう片方の膝にも縛り付けた。
そうしておいて、それぞれの足首と手首を一緒に縛る。
その格好と言ったら…まるで実験台に乗った蛙のようだった。
「ぁ……」
「鏡で見せてやりたいくらい、いい格好だ」
自由にならない体のまま彼の前で脚を広げている自分。
彼に見られていると思うだけで、体が震えてしまうほど僕は興奮していた。
彼は縛られている僕の脚の間に座り込むと、緩んだままの穴に偽物の男根を押し当てた。
そして僕の顔とそこを交互に見ながら、ゆっくりとそれを押し進めた。
「ぅ……ッ……ぅぅ……」
「キツくは、ないはずだ」
「んんッ……」
確かにキツくはない。
だけどさっきとは違った感触が、僕の内壁をなぞっている。
しっかりと根元まで入れられて、そのままグリグリと左右に回されると、僕は顔をしかめて体をくねらせるしかなかった。
「やッ…ぁ……ぁ……」
顔を近づけてきた理一さんの目が細くなる。
彼は僕の苦しんでいる姿を楽しげに見つめながら、唇に一瞬触れるか触れないかのキスをしてきた。
そしてそのまま舌を出し、頬を舐める。
「ぁ…ぁ…ぁぁ……んッ……」
ぞくぞくする……。
彼の舌が僕の頬から耳に行き、息遣いを吹き込むように舐められる。
「んんッ……ん…」
その間もずっと彼はバイブを抜き差しして、僕の体は本当にどうにかなりそうだった。
「あ……ぁぁッ……」
耳の後ろから首筋・鎖骨・そして胸の突起に舌が這う。
ペチャペチャと舐められながら勃起してきたモノを握られると、それだけでイってしまいそうになる。
僕はそれが嫌で、必死になって頭を振っていた。
「なんで…こんなに淫らなんだ………」
答えを求めない疑問みたいな……独り言を彼が口にする。
僕は聞こえてはいても、それに答えられるはずもなく、言葉にならない声を出すしかなかった。
「ぁぁぁ…ッ……んッ……ん……!」
巧みにモノをしごかれると、もう出ないと思っていたのに堅くなっていた僕のモノからまた汁が流れ出た。
最初みたいに勢いのあるものじゃなくて、本当に絞り出されてるって感じで、ほとんど透明のそれはトロトロと彼の指と指の間に流れていく。
そしてそれがそのまま潤いになって、またしごかれる。
「も……もぅ……」
「もう…? もう何なんだ?」
「ぁ……ッ…」
バイブのスイッチを入れられて、中でバイブがうねり出す。
「あッ……! ぁぁッ……!」
反射的に体をヒクつかせて、彼を見る目に涙が溜まってしまう。
だけど彼は眼鏡越しに目を細めるばかりで、僕の反応を楽しんでいた。
「おねが……ッ……」
「まだだ」
言う彼の唇が、僕の突起を口に含む。
舌で十分に転がしてカリッと噛まれると、否応無く体がピクピクッと反応する。
「ぅ…ぁぁッ……」
彼は僕の乳首をカリカリと甘噛みしながら、自分のモノに手を伸ばした。
そして何度かしごくと蠢いているバイブから手を放し、立ち膝のままガウンの紐を解いて見せた。
「ぁ……」
露になった股間のモノは、僕の中に突き入った時と同じように、天を仰ぎ汁を滴らせている。
僕は……それをどうするつもりなのか分からずに、でもその勢いを見てしまうと凝視せずにはいられなかった。
「入れて欲しいか……?」
でも僕の中にはもう偽物の男根が入れられている。
抜いてくれるの……?
思いはしたけれど、そうはならないような気がして心が震える。
「これは…お前が口で奉仕するんだ」
言いながら立ち上がった彼が、僕の顔の上でしゃがみ込む。
握られた勃起したモノを口にあてがわれ、無意識に舌を出して、それをしゃぶろうとしていた。
「しゃぶれ」
「ぅ……ん…んんッ……」
言われるままに口に含んで舌で転がす。
僕はバイブの送ってくる人工的なうねりに体を翻弄されながら、熱のある彼のモノを口に含んで、必死になって彼を満足させようとしていた。
「あぁ……」
彼の満足したような声が聞こえる。
僕は……それだけで僕自身も充実した気分になっていた。
「ん……んんッ…ん……」
「うまいな。ケツにも、口にも、モノを入れられて感じるとは……よほど好き者とみえる」
皮肉なことを言われても余計に感じてしまう僕って……って思うけど、僕の意志とは関係なく、僕の体は感じてしまっている。
夢中になって彼のモノをしゃぶり、ほとばしる彼の汁を味わおうとしている。
彼は僕に跨がりながら、そんな僕を観察していた。
そしてもう少しで彼の精液が放出されるって時になって、いきなり引き抜かれて泣きそうになる。
「ぁ……」
目の前でモノをちらつかされて、僕は舌を出してそれを舐めようとした。
「ん……」
そうすれば届くくらいの距離だったから。
でも彼はそれをギリギリのところで、させてくれなくて…。
先っぽが何度かペロリと舐めれたくらいで、それ以上は叶わない距離を保たれた。
「ぁ…」
どうして……?
今にも泣き出してしまいそうになるのを押さえて、彼を見つめる。
彼は何も言ってくれずに、自分のモノを僕の目の前でしごいて低く呻いた。
「ぅ……ッ……!」
「ぁ……ッ……!」
次の瞬間、彼の放ったモノが僕の顔に勢いよく浴びせかけられた。
「んんッ……!」
ねっとりとした感触が僕の顔全体にかけられて、目も開いてられない。
開いていた口には彼の精液が入り込み、思わず味わおうと飲み込んでしまっていた。
「いいね。虐げられた天使のようだ……」
うっとりするような理一さんの声が聞こえる。
僕はそんな彼の声を聞くだけで、体の芯が熱くなり腰をくねらせてしまう。
彼の指が僕の顔にかけられた精液を伸ばすように移動するたびに、股間のモノがヒクヒクと動くのを感じていた。
「どうも私の天使は節操がなくて困る」
ヒクつくモノを指先で弾かれて、恥ずかしくて唇を噛み締める。
本当に僕って……。
彼に何か言われるたびに、喜びで体が震えている。
これは入れられたバイブのせいなんかじゃない。
それがはっきりと分かってしまう。
精液を浴びせられて目が見えない分、彼の微妙な動きにも敏感になる。
微かな布擦れの音が僕の体を移動する。
触れられていないのに、触れられているような…でもそれだけじゃ到底物足りない。
「お…お願い……」
「何をお願いしているんだ?」
「何をって……」
もっと触って欲しいとか……。
もっと彼に触れられたい……。
喉元まで出かかっているのに躊躇してしまう。
「言ってみろ」
顔の近くで言われて吐息がかかる。
僕は開けられない目をギュッと瞑って顔を背けた。
すると彼の手が伸びてきて、濡れた顔を布で拭きにかかった。
「ぇ……」
「綺麗な顔が乾燥してしまわない内に拭いてやろう」
その手が優しく包み込むように感じる。
髪についてしまった精液も綺麗に拭ってもらっていると、その布が彼の着ているシルクのガウンだと分かった。
ハッとして彼の顔を伺うけど、彼は何も言わずに微笑んでいるだけだった。
「ほら、綺麗になったぞ」
「……ぁ…りがと……んッ……」
クチュリと音を立てて唇が重なる。
舌を絡ませて唾液を注がれながら、何度も角度を変えられて激しいキスを繰り返す。
僕は彼に従うだけだけど、もしこの体が自由になっていたら…たぶんしがみつく勢いで抱き着いていたと思う。
これから先は、あまり覚えてない……。
入れられていたバイブを引っこ抜かれて、生身の彼のモノを挿入されて翻弄されたのは覚えている。
そして、また中で出されて意識を失った…。
ガチャガチャと音が聞こえる……。
僕は……それが何なのか分からなくて、顔をしかめながら目を覚ました。
「ん……」
何……?
「おーい。地史ー! まだ寝てるのかー?!」
「…………陣…さん……? 陣さん?! 痛ッ……!」
ガバッと跳び起きそうになって、ギシギシに体が痛いのに気づく。
そして自分が真っ裸なのにも……。
「あ……」
そういえば……。
隣には、僕の肩を抱いたまま眠る理一さんがいた。
「おーい……!」
「……どうしよう……」
「おーいッてばよーッ!」
どうしようも、こうしようもないッ。
僕は理一さんが起きないようにそっとベッドを抜け出すと、スエットの上下だけを急いで着て、クシャクシャの髪を整えながら玄関に急いだ。
「地史ーッ?!」
「は……はいッ。ちょっと待って」
「んだよ。まだ寝てたのかよ。このチェーン開けてくれないか?」
カギは合鍵で開けられたもののチェーンが開けられずに、細く開けられたドアの隙間から彼が声をかけてくる。
僕は昨日のことが悟られたらどうしよう…と言う思いで、心臓をバクバクさせながらチェーンを外した。
「遅いよ」
「…ごめんなさい」
「あいつは? まだ寝てるのか?」
「ぅ…うん……」
ズカズカと大股で、陣さんが理一さんの部屋に向かって歩いて行く。
もちろん彼はそんなところにいるはずがない。
陣さんが理一さんの部屋のドアをノックするのが聞こえる。
僕はどうすることも出来ずに、玄関に立ち尽くしていた……。
「おい、まさかお前までまだ寝てるだなんて言わないだろうな」
少し怒りぎみの口調で、陣さんが部屋に入って行く。
そして数秒すると、すぐに彼が部屋を飛び出して僕のところまで来るのも、僕は動けないで見つめるしかなかった。
「おいッ」
玄関に血相を変えた陣さんが走ってきて、僕の肩を掴んだ。
「痛ッ!」
顔をしかめると、パッと彼の手が離れる。
「お前……まさか……」
陣さんは信じられないと言った表情で僕を見てから、ゆっくりと部屋のほうを向いた。
そして合間を置かずに歩を進めて、ガチャリとドアを開けていた。
「じ…陣さん……」
「お前は、そこにいろ」
「でも……」
最初から返事なんか聞いちゃいない。
陣さんはバタンッとドアを閉めると、当然ながらベッドで寝ている理一さんのところに歩いて行ったんだと思う。
しばらくすると部屋の中から、相手を怒鳴る声が聞こえてきた。
それに続いて殴る音も…。
僕は、いたたまれなくなって部屋のドアを開けていた。
「やめてくださいッ…!」
「お前は黙ってろッ! こいつッ、あんなに注意したって言うのに…!」
「………」
注意って……?
もしかして昨日僕に教えてくれなかった、あれだろうか……。
理一さんは寝ていたところを無理やり起こされて、まだ相手が何をわめいているのか分かってない状態だった。
「陣……」
「何だよッ!」
「私は……何をしたんだ……」
「何をしたかも分かってないのか?! 状況をよく見てみろッ!」
言われてもまだ頭がズキズキするのか、理一さんは顔をしかめてゆっくりと回りを見回した。
そして自分がどこにいるのかを理解して、入り口にいる僕を見るとグシャリと顔を歪めた。
「夢……じゃなかったのか……」
「ああ、たぶんなッ。お前が、そこに寝てるってのがいい証拠だッ」
「まさか……」
「まさかじゃないッ! いったいどうするつもりだッ!」
「……どうするって………」
自分のやったことを必死に理解しようと、理一さんは考え込んでいる様子だった。
僕は……僕はその姿に、分かっていたことだけど、何か言って欲しかった。
夢なんかじゃなく、本当に抱きたかったから抱いたんだって……。
だけど理一さんは首根っこを掴まれた猫みたいで、まったくいつもの歯切れの良さがなかった。
「本当に……夢…じゃないのか……?」
「………分からないなら、見てみればいいッ」
言い捨てるように言った陣さんが、ツカツカと僕のほうに歩み寄る。
「ぇ……」
無言のまま、その場でスエットの腕をまくり上げて、縛られた跡を確認する。
やっぱり……って表情は、近くで見るとこっちが辛くなってしまう。
ギリッと歯軋りをして理一さんを振り返った彼は、僕の傷ついた手首をベッドにいる理一さんに見せつけた。
「これ、お前がつけたんだろッ?!」
僕の体についた跡を見る理一さんの顔は、事実をやっと把握するように愕然としていた。
「お前は……自分の弟に何してるんだよッ! いくら可愛いからって……! 明らかにこれはやり過ぎだッ!」
矢継ぎ早に言われて、情けなさで顔を歪ませていた理一さんがギュッと布団を握り締める。
僕は陣さんに小声で「ごめん」と言われると、まくり上げられた腕を元に戻されていた。 僕は二人のやり取りを唇を噛み締めながら見守るしかなかったけど、でも……でも、どうしても言っておきたいことがあった。
陣さんが再び理一さんのほうに歩いて行って、うなだれる理一さんに拳をあげる。
それが振り下ろされる瞬間に、僕は思わず叫んでいた。
「やめてよッ…!」
あげられた手がその場で止まり、険しい顔の彼が僕を振り向く。
「陣さん…さっきから僕のこと無視してるッ。僕が何も言わないからって……僕を無視して話をしてる…」
「お前は、ただの被害者だろ」
「そんなこと…誰も言ってないッ!!」
「ぇ……」
「………地史……」
理一さんが、初めて僕のほうを向いて名前を呼んでくれた。
その顔はちょっと困ったように心配していたけれど、もう僕は彼が一方的に責められるのを見ていられなかった。
「そりゃ…始まりは一方的だったけど……。それに理一さんは、かなり酔ってるみたいだったけど……。けど陣さん、僕………途中からは僕が誘ったんだ」
「………」
口に出してしまうとすごく恥ずかしい……。
でも今きっちりと言っておかないと……うやむやに済ませてしまうと、これで理一さんとの関係も崩れてしまう気がして……。
僕はギュッと拳を握って、まっすぐに陣さんを見つめていた。
彼はそれを聞いて、どう答えたらいいのか迷っている風でもあり、ビックリしている風でもあった。
「誘った、だって……? お前が……?」
「そ、そうだよ……」
すぐには信じられない。って言うか、明らかに『こいつをかばって、そんなこと言ってるんだろう』と言う顔で陣さんが苦笑した。
「馬鹿言え」
「ホントだもんッ!」
「お前にそんなこと……」
でも真実が分からなくて、言葉はそこで止まった。
「地史……無理しなくていい。すべては、私が悪いんだから……」
ポツッと理一さんが寂しそうに口を挟んだ。
「ウソじゃないッ!」
「それは私の口車に乗せられただけの話だ。もうこれ以上一緒に住むことは出来ない。お家に帰りなさい。そしてもう…二度と会わないようにしよう……」
「俺も、それがいいと思う」
「…僕は嫌だ。そんなのぜーったい嫌だぁーッ!!」
ドスンッと地団駄を踏んだとたんに体がズキッと痛む。
それでも僕は陣さんに向かって、と言うよりむしろ二人に向かって叫んでいた。
「勝手に僕のこと決めないでよッ! そりゃ僕は二人より年下だけど、言う権利はあるし、選ぶ権利だってあるんだからッ!! 僕は……僕は理一さんのことが好きだよ! 酔ってても酔ってなくても別にいいもんッ! 夢じゃなかったってのは、イコール本質的には僕とそうなりたかったってことでしょ?! 答えてよ、理一さん!」
もう半分泣きながら、今度は理一さんに向かって訴えていた。
「地史………」
「俺たちは…お前をこっちに引き取る前から、ずっとお前を見つめてきていた」
「ぇ……」
「こいつは、お前がまだ小さい時からずっとお前を見つめてきたんだ。俺よりもずっと前から関心を示してたから……。でもまさかこんなことするなんて、思ってなかった……」
「……私だって、まさか自分がこんなことするなんて……。最初から思ってるもんかッ」
「だろうな。あんたみたいに石橋を叩いて渡るような奴が、弟にこんなことするなんて」
「…だから……わざと一番遠い部屋を用意したのに……」
「ぇ……」
「…陣………」
「何だよ」
「…いつでも…触れるほど近くで見るのと……遠くから眺めるのとは、……こんなに差があるもんなんだな……。押さえても押さえても、どこかで露見してしまう……」
「理一……」
今にも泣き出しそうに顔を崩しながら、それでも何とか笑おうと無理する理一さん。
陣さんは、そんな彼をもう殴ろうとはしていなかった。
僕も……言うことは言ったけど、心細さが残るばかりだ。
「昨日…地史の首に赤い跡があっただろ」
「ぅ…うん……」
「あれ、たぶんお前が寝てる間に、こいつが付けたんだぜ。だから昨日注意してやったのに、やっぱりこいつ酔っててよく覚えてないんだ」
「注意……」
「ああ。お前どうしてって聞いたけど、こんなこと本人も認識してないのに教えなくていいと思ったから……。そしたらお前、飛び出してっちゃうしでさ……。俺だって、昨日は色々考えたんだぜ」
「……じゃあ、やっぱりあれ……夢じゃなかったんだ……」
「お前ら、お互い都合がいいのな。まっ、そういう点が似てるって言えば似てるのかもしれないけど」
クスクスッと、今日初めて陣さんが笑顔を見せた。
僕もそれにつられて微笑んでしまったけれど、あれは本当に痕跡もなかったんだから夢でもおかしくないと思う。
「どうする」
「………何がだ」
「地史は、頑として自分の意見を曲げそうにないぞ。そして隠し事も嫌いだ」
「……どうするって……私は……」
「僕、出て行きませんからッ!」
「だってよ」
「地史……」
「はい…」
「言っておきたいことがある」
「はい…」
「私は…どうもその………表現能力が乏しいらしい」
「………」
「違うね。自分に正直じゃないだけだ」
「お前は黙ってろッ」
「はいはい…」
陣さんは口元を緩ませて大袈裟に両手を上にあげると、首を横に振ってベッドから離れた。
そしてそのまま僕の横を通り過ぎると、パタンと音を立てて部屋を出て行ってしまった。
すれ違う時に、ニコリと笑った彼の顔は「うまくやれよ」って言ってくれてるようで、僕は単純に『嬉しい』って気持ちと『そうじゃないだろう』って気持ちがないまぜになっていた。
「地史…こっちに」
「はい……」
呼ばれるままに理一さんの近くまで踏み寄る。
すると彼はベッドから手を伸ばして、僕を優しく抱き締めてきた。
それに答えるように、片膝を立たせてベッドに上がる。
酔いは残っているかもしれないけれど、初めて真剣にこんな感情で彼と向き合う。
彼は…理一さんは、何て言ってくれるだろう……。
「お前とその……こういう関係になったのは…酔っていたからじゃない」
「ぅん…」
「ただ……酔いの力を借りなければ、行動が起こせなかったと言うか……。やはりいくら義理と言っても弟だし……」
「気にしてたんだ」
「そりゃ気にするだろうッ」
「…陣さんが言ってたこと……本当かな。僕は夢だって思ってたんだけど……」
「……何となく、したような気もする……」
「ふぅん……」
「…すまない……。はっきりしなくて……」
「でも……そうなると、回数重ねてるってことだよね」
「ぅ…うーん……」
「じゃあ、責任……取ってもらおうかな」
「ぅん……??」
理一さんの体が一瞬ピクッとして僕を見てくる。
僕は…きしむ体が妙に心地よくて、顔を緩めて笑顔で彼を見つめていた。
「僕を好きでいてくれる? 酔ってなくても、僕を好きでいてよ」
「…当然だ。だがさっきも言ったように……私は…どうもその……そういうことを表に出すのがヘタと言うか……」
「いい。別にいい。僕のこと好きでいてくれれば、僕は何されても別にいいんだ」
「ちょっと聞くが……私は、そんなに酷いことをしたのか?」
「覚えてないの?」
「……朧げにしか………」
「ぁ…でもそれじゃあ、アレはどうして持ってたんだろう……」
「アレ?」
「って、まだその辺に転がってるかもしれないけど……」
キョロキョロと回りを見回してみたけれど、昨日突っ込まれたバイブは見当たらなかった。
「何を…探してるんだ?」
「………バイブ。昨日突っ込まれたヤツ」
「えッ……! そ…んなことまでしたのか……?!」
「あれ…もしかして使い古し?」
「いや、そうじゃなくて……」
しどろもどろになりながらも否定する理一さんに詰め寄るのは、とても面白い。
きっとこの人、酔うと凄いんだな……。
クスクスッと笑い出す僕を見て、恥ずかしそうに顔を赤らめる彼もとても新鮮でいい。
僕は彼の首に手を回して、顔を覗き込みながらチュッとキスをしてみた。
「地史ッ」
困った顔もまた素敵だ。
昨日までは、そんなこと思いもしなかったって言うのに……。人って不思議だな……。
「じゃあ、趣味で収集してるヤツだ。違う?」
「ま…まぁ、そんなところだ」
コホンッと咳払いをしてそっぽを向く彼に、笑みが絶えない。
「好きでいてくれる?」
「何度言わせるんだ」
答えはそれだけしかなかったけれど、彼はそっと僕を抱き締めると、僕がしたヤツとは違う濃厚なキスをお返しにしてくれた。
そして最後に照れ臭そうに「好きだよ」と口にしてくれた。
僕はその顔を見ながら、『こんなのも、ありかな』なんて微笑んでいた。
●
あれから一年ちょっと。
望月君は、学園物のドラマに出演して大ブレイク。街もマトモに歩けなくなるほどになっていた。
そして当然のことだけど、陣さんも主役級で映画の話がきていて毎日忙しい。
これも万田さんの優れたマネージメントあってこそだった。
僕はと言えば、高校も無事に進級出来て今でも理一さんのところにいるし、あいかわらず事務所の手伝いもしている。
「望月君もあれだけブレイクしてしまうと、次の候補を考えていかないといけないな」
「………僕を見て言わないでください」
万田さんが事務所で仕事をしている僕の目の前で、物有りげに独り言を言う。
これって最近よく聞く言葉なんだけど、僕は表舞台よりも万田さんや理一さんみたいに裏方で頑張りたいと思ってるから……。
聞くたびに申し訳ないなって思うけど、いい返事は出来そうもない。
第一、僕じゃ務まらないよ……。
理一さんの事務所は今表向きは安定してるように見えるけど、こういう芸能事務所って大手って呼ばれるようになるには、100人以上タレントを抱えてるようにならないと本当の意味での安定はないんだって。
事実この事務所が今抱えてる問題は、コンスタントにタレントが排出出来ないこと。
卵は何人かいるけど、今すぐに稼げるタレントがいないとクルクルと歯車が回ってくれないみたいだ。
だから理一さんは大きな賭けに出ていた。
それは今度陣さんが出演する映画の数%を出資すること。
映画が売れれば、倍どころではない資金が出来る。
だけど転べば、どうなるのか……。
陣さんは、「俺のギャラがなくなるだけ」とか言ってるけど……。
僕が心配してるのと同様、万田さんもそれを心配してるんだと思う。
先手を打ちたい気持ちは分かるけど、それって陣さんに失礼な話でもあるから、僕はどうとも動けない。
それに僕には無理だと思うんだよね、第一に欠けているものがあるから……。
「地史、今から動けるか?」
「ぁ、はい」
社長である理一さんがデスクから僕を呼び寄せる。
僕は万田さんに会釈をすると、彼の元に急いだ。
「望月の現場がだいぶん押してるらしい。先に次の現場に行って準備をしてやってくれないか?」
「分かりました。場所は」
「Yテレビの第三スタジオだ」
「何か特別に持って行く物はないですか?」
「……万田ッ」
「はい」
理一さんは万田さんを手招きすると、チェックを入れるように指示をした。
「望月は、昨日あまり寝れてないはずだな」
「はい。朝まで連続ドラマの撮りが入ってて、それから仮眠しか取れてないはずです」
パラパラと手帳を捲りながら、綿密に書かれてある箇所を再確認してから万田さんが顔を上げる。
「だ、そうだ」
苦笑しながら言う理一さんを見て、笑顔で頷くと腕時計を見る。
「分かりました。それじゃあ目を覚ますためにも、シャワー室が使えるかどうか確認しておきます」
「そうだな。時間的に使えるかどうか分からないからな。確認しておいてやってくれ」
「分かりました。じゃあ今から行ってきます」
望月君が動く時には、必要な物は車に積んで移動しているはずだった。
だから本当に特別必要な物がない限り、途中から動く僕みたいな奴は、手ぶらで現場に向かうことが多い。
財布と携帯、それに首からかける通行証をポケットに入れると事務所を飛び出す。
階段を使って勢いよく降りると、地下鉄の駅へと歩きだした。
もうすぐで駅だって時になって、後ろからクラクションが鳴る。
誰……?
振り向くと、運転席で理一さんが手をあげていた。
「どうしたんですか?」
駆け寄って行って、ドア越しに声をかけた。
「車に乗りなさい」
「ぇ……?」
「後ろから車が来てしまう。早く」
「ぁ…はい……」
せかされて仕方なく車に乗り込むと、ハンドルを握っていた理一さんが後方を確認して車を発進させた。
何を考えてるんだろう……。
別にいいんだけど……。
理一さんの行動は、僕には時々意味不明なところがあるから、もういちいち気にしてなんかいられなかった。
助手席に座ってシートベルトを締めながらチラリと御機嫌を伺う。
午後の光が銀縁の眼鏡に反射して、僕の好きな彼の顔をより魅惑的に映し出す。
「………」
黙って正面を向いていると、交差点で違うほうに曲がったり、真っすぐに行ったりと、どうも目的地が違うように思えてならない。
「理一さん、行く場所違いませんか?」
「……よく分かったな」
「普通分かります」
「……あれからすぐ、望月のいる現場から連絡があった。至急動ける奴が欲しいんだそうだ」
「……それって、何ですか?」
「ただのエキストラだ」
「エキストラ?」
「ああ。たとえエキストラでも足りないと進行出来ないからな」
「って……僕出るんですか?」
「そのくらいいいだろう。たまには万田の顔も立ててやらないとな」
「………分かりました」
相変わらず、僕たちの関係は今も続いている。
表ではお互い敬語しか使わないようにしてるけど、家に帰ればイケナイことばかりしている始末だった。
裏表があるって言えばそうだけど、メリハリあるって考えればいいから、あまり気にしてはいない。
ただ…家に帰ると僕はぬいぐるみ状態で、なかなか手放してもらえない……。
事務所の仕事を手伝うようになって、僕は主に陣さん付で動くことが多かった。
だから今回みたいに望月君の仕事に出て行くことなんて数少ないんだけど、学校じゃ、よく顔を合わせているから僕としても動きやすい。
でも……彼を見ると、時々自分を見ているようですごく恥ずかしく思うことがある。
それは理一さんとこんな関係になって、少ししてから知ったことからだった。
やっぱり今回みたいに、急に望月君の現場に行かなきゃならなくなった時のこと。
共演している女優さん待ちで、暇を持て余していた望月君と一緒に控室にいた時だった。
突如として彼が言った言葉に、僕は驚くしかなかった。
「僕と陣さん…付き合ってるんだ」
「ぇ……えぇッ……?!」
「社長はもちろん、万田さんも……言わないけど気づいてると思う」
「………」
僕は言葉がなかった。
ただ開いた口が塞がらないって言うか……。
「今も……僕の中にはプラグが入ってるんだ。他の奴に犯られないようにってね……」
「ぷ……プラグ……?」
って、何……?
頭の中がパニックになりそうだった。
だけど考えてみれば理一さんと僕のことが分かった時も、驚いてはいたけれど嫌悪することはなかったし……。
普通ならもっと怒ってもいいのに、そんなに『怒涛のごとく』ってほどじゃなかったし……。
これで、すべてが納得いくって言うか……。
僕は僕の目の前で顔を赤らめて告白する望月君に、何も言う言葉が浮かばなかった。
ただ、それが自分に重なってしまって……彼の痴態が自分に重なるのを想像してしまって、こっちが顔を赤らめてしまったくらいだ。
「君のことは、彼から聞いてるから……」
それだけで十分だった。
つまりは彼も、僕と理一さんとの関係を陣さんから聞いたってことだろ?
僕は耳まで真っ赤になったまま俯いて、それでも「プラグって何?」って聞いてみたくて仕方なくなっていた……。
それから一年以上経っている。
陣さんと望月君との関係も相変わらず続いている。
今の恐怖は、「犯ってるところを見せ合わないか?」って言われることだった。
そうなったら僕は、どんな痴態を晒すのか……。
それが、すごく怖かった。
「どうした。拗ねてるのか?」
「ぇ……? そ…んなことは……ないですけど……」
思わず考え事をしてしまっていたみたいだ。
僕は思い返していたことを恥ずかしがりながら、コホンと咳払いをして席を正した。
「望月の現場が済んだら、母と会う段取りを取ったからな」
「ぇ……何で……?」
久しぶりに聞く「母」と言う言葉に首を傾げる。
「もうそろそろ進学のことが気にかかっているんだろう。どこの大学に行きたいのか聞いてくれと言う電話が、この間私のところにかかってきた」
「ああ……」
大学か……。別に行きたくないから断ろうか……。
大学に行くよりも、もっと重要なことがある。
それよりも、理一さんの仕事を手伝うほうが重要だと思えたから断ろうかと思った。
どうしても大卒の免許がいるのなら別として、僕は早く彼の片腕になれるようになりたい。
万田さんのように事務所を切り盛り出来る人間になれるために、全力を尽くそうとしていた。
「その後は、イイところに連れて行ってやる」
「………どこですか?」
「会員制のナイト倶楽部だ。生入れ調教ショーがあるんだ。お前にも見せてやろうと思ってな」
「ぇ………」
すごく楽しそうに言う彼に固まってしまう。
昼間モードでしょ?
最近ではあまり頓着なくなっているのか……。
理一さんは二人だけになると、時々無鉄砲なことを平気で口にする。
僕は……不意打ちを食らって、恥ずかしくなるばかりだった。
体の芯が熱くなるって言うの?
俯いて顔を真っ赤にしているくせに、アソコをヒクつかせている。
「感じてるのか?」
「そ…んなこと……!」
指摘されると余計に体が熱くなってしまって、しょうがなくなる。
「やめてくださいッ!」
「ふふふッ……」
「もぅ……!」
終始プラグを入れられている望月君よりはマシだと思うけど、会員制のナイト倶楽部までこの体が持つかどうか……。
途中で我慢出来なくなってしまったらどうしようか……。
それだけが不安になってしまった。
だから今言いたい。
言葉にするならば、「これ以上、僕をいぢめないでくださいッ」と……。 終わり
「まったくのおまけ」
小説を読み終わった方だけが出来るインスタントゲーム…。
タイトル「奪われた地史」。よろしかったらどうぞ。。