タイトル「仮)ゴミ捨て場で美青年を拾ったモブの話」その2
木実の家は賃貸のマンションだった。
築年数多しの一階。防犯上どうなのかとも思うその部屋は、一階と言っても実際は二階同等。窓を開ければ街路樹の葉が目の前に見える場所だった。でもいいのは緑が多いよね、と言うことくらいで、その木を伝ってベランダに入るのはたやすいことだと住んでいる本人さえ思ってしまうほどしっかりした街路樹がそびえていた。
「いい家ですね」
「うん。住むには支障ないよ」
古いし、そんなにいい家とは言えないんじゃないかと思っているのだが、言われれば満更でもない。
「まずお前……。やっぱ汚いよな」
「すんません。あそこにいたからちょっと臭うかも」
「うんまぁ。それに服も汚れてるし……。まずは俺、風呂に入ってからお前な。湯が汚れると思うから」
「はい。すんません……。あの……俺、何か口にしたいです」
「ぁ、そうだった。腹減ってるんだったな」
「とても」
「じゃあちょっと待って」
何かすぐに食べられるものはあったかな……と入ってすぐのキッチンで考える。
寒いから暖かいほうがいいだろうし……。
それで牛乳をマグカップに入れるとレンチンして手渡す。
「そこ座って飲んで」
「ありがとうございます」
「俺はその間に風呂の湯を入れてくるから」
「はい」
「お前、名前は?」
「一季です。沢本一季(さわもと いちき)」
「ふーん。じゃあ一季でいっかな」
「はい」
「俺は木実公親。木実でいいから」
「分かりました、木実さん」
「うん」
今までここで誰かと会話らしい会話なんてしたことなかった。だからちょっと変な感じがするんだけど、何となく孤独から救われたような気がして微笑んでしまう。
しっぺ返しとか食らわないといいけど。
言葉通り、まず木実が風呂に入ってから一季が風呂に入った。
「あいつ俺よりちょっと大きいからな……」
汚れた服をまた着せるわけにもいかないので木実は自分の持っている物の中から彼が着られる物を物色した。下着のサイズはどうだろう。合ってなくても今日は履いてもらうしかない。パジャマ代わりに用意したのはグレーのジャージ上下だった。これなら多少ダボッとしているからサイズは大丈夫だろうと思えた。
「すんません」
「小さいか……」
「はい、ちょっと……」
小さいのを着てます感がアリアリとするけど、ないものはないから仕方ない。
自分の物とは別に男の着ていた物を洗濯機にぶち込むとスイッチを押す。今日中に選択して干しておけば明日の昼くらいには着られる状態になるんじゃないかと思っての行動だった。
炊飯ジャーのご飯で丼物を作ると後は寝るだけとなって気が付いた。
「ぁ……布団ひとつしかないや…………」
「……」
「どうしようかな……」
口にはしたけど方法はひとつしかなかった。
木実はよく知りもしない拾ってきた男とひとつの布団で眠ることになったのだった。
「すんません……」
「しょーがないって」
拾った以上しょうがない。うん。俺が拾ったんだからしょうがないんだって。
自分に言い利かせながら背中合わせで眠りにつく。だけどいつの間にか掛け布団の引っ張り合いになって木実が負けてしまい最後には相手をこっちに向かせて抱き着いた。
「こっち向けよ。俺が寒いだろうがっ!」
「すんません……」
そんなこんなで初日が終わる。
明日も残業あるってのに、こんなん拾った俺ってサイアクかもしれん……。
暖かさも加わって木実はやっと深い眠りについたのだった。
二話終わり
20240224