タイトル「ささやかな願い」
お揃いのものが欲しい。
そんなことを思いついたのはいつ頃だったか。
いつも一緒にいるくせに「ちょっと女みたいだよ山口」とツッキーに言われそうでなかなか口に出来ないでいる。
関係は深く。
あれから何度も体を重ねてきていた。
それよりも深く長く。山口の心は女の子化されていっているように思える。
どこがって「彼を誰かに取られてしまうんじゃないか」って言う恐怖。
でも実際はそんなことはないってん分かっているのに落ち着かない。
これ以上何をすれば彼を食い止められるのか。
そもそも何から。と思ってしまうのだがも、不安はつきないのだった。
「ツッキー。お揃いのもの何か欲しい」
「…は?」
「だから一緒の何かが欲しい」
「バカですか? 何で僕がお前とお揃いのものなんて買わなきゃいけないわけ。その意味は何」
「……」
「応えられないなら言うなよ」
「ごめん、ツッキー」
「……」
そもそもなんでこんなに不安なのかが分からない。
分からないけど押し寄せる不安に押し潰されそうになる。
バカ呼ばわりされてからのたまの休み。
ひとりで悶々と悩んだ。そし学校が始まる週明けに山口は普段通り月島の家に彼を呼びに行っていた。
「ツッキー」
呼ぶだけで玄関の内側で待っていたかのようにすぐに出てくる。
天気は晴れ。今日のツッキーはいつもの通りブスッとしていた。
「これ」
「え?」
「だからこれっ」
グイッと小さな紙袋を押しつけられて首を傾げる。
「なに?」
「お揃いの」
「え?」
「だからお揃いだってば。昨日一日悩んで考えたんだ。素直に受け取らなかったら殺す」
「う…うん」
何だろうと恐る恐る受け取って中身を確認する。
中にはリストバンドがふたつ入っていた。
「ひとつは僕。ひとつはお前ね」
「…いいの?」
「お前が欲しがったんだろ」
「うん。だけど…」
「何、いらないっての?」
「いや、欲しいよ。欲しい。ツッキーが俺に何かくれるなんてなかったから…」
夢をみているみたいだ…。
もらった紙袋をいつまでも覗いていると「んっ」と手を出された。
「?」
「僕のも入ってるんだから、付けろよ。お前のは僕がつけるから、僕のはお前がつけるんだよっ」
「ぁ、そういうことか。ごめんツッキー」
「謝る前につけろってば」
「うん、ツッキー」
ガサガサと紙袋からひとつだけリストバンドを取り出すひとつを彼の手首に嵌める。
すると間髪入れずに山口の手首にもリストバンドがつけられて、思わずほくそ笑んでしまった。
「これでお揃いなっ」
「ありがとうツッキー」
「そんなもので喜ぶなっ」
「ごめんっツッキー」
「行くぞ。朝練に遅れる」
「うん、ツッキー」
満面の笑みを浮かべて走り出す。山口は彼のささやかな気配りに嬉しさがこみ上げてきていた。
終わり
タイトル「ささやかな願い」
20160821/28