タイトル「地味に好き」
新しく入ってきた人たちも夏を過ぎれば待ち遠しくなるのは運動会。
とは言っても学校の運動会ではない。会社の運動会だ。名は「大木社祭」と言う。
この大木エンターテーメントでは毎年春よりも夏よりもこの催しが重視されていた。
提携している斉木プロダクションと一緒になって唯一の親睦を深める場でもあるからだ。
しかし逆に憂鬱になっている者もいるわけで。
現在出社したはいいがトイレにこもりっきりになっているのは、主催会社の時期社長である大木トモロだった。
三十近くなってもなかなか認められないのは、提携会社である斉木キヨタケのせいだった。
「おーい。いい加減出てきたらどうだ?」
「まだ時間じゃないんだからいいだろっ?!」
「って、お前さ。他の人のこと考えたことある?」
「何がだよっ!」
「お前がトイレを占領していると用を足せない人が出てるってこと」
「…」
それを言われるとどうしようもない。
元々用が足したくてトイレに入ったのではないトモロなのだから、本来の用事がある人のためにこの場を譲るのは極めて当たり前の行為だ。
その場をごまかすために立ち上がってからジャーッと水を流す。
そしておもむろにドアを開けるのだが、目の前に立っているキヨタケのしたり顔を見るのが嫌だった。
なぜかと言えば満面の笑みだからだ。
数年前に合同企業になり今一緒のプロジェクトチームで働くキヨタケは御曹司と言われなければただの熱血社員で通っていた。
それに比べてトモロは御曹司と言われなければただの地味で根暗な社員だからだ。
親はトモロの心を見透かすように見た目だけでもどうにかしようと派手な服を着せてみたりもしてみたのだが、どうしても負けてしまう。
事あるごとに何もしなくても華やかなキヨタケと自分を比べられるのが嫌なのだ。
それに、納得はしてないが事実は事実。
奴とは高校からの同級生で奴いわくふたりは付き合っていてもいた。
つまりそんな関係なのだ。
ただしトモロは認めていないが。
昨日も呼び出されたかと思ったら触られた。
でもそんなのは高校からあったことだし…と思っていたのがまずかった。
トモロはキヨタケの公言実行と言う言葉を甘く見過ぎていた。
昨日は触られて脱がされてイくまで許してもらえなかった。
自分はチョロッとも服を脱がないのに、トモロにだけ射精させたのだ。
こんなことが許されるのか?! いや、許されるはずは絶対にないと思っていたのだ。
「これで、いいかよっ!」
「いいね。お前さ、入社して何年になるんだよ。そんなこともいちいち言われなきゃわからないわけ?」
言われてムッとするのだが、お前に会いたくないからだとも言えなくて口ごもる。
「あ、いたいた。大木先輩。何してんですか。みんなもう待ってるんですよ?」
トイレに駆け込んできたのは後輩の関西だった。
関西とは奴が入社した時に面倒を見てからの付き合いだから気心も知れていて一緒にいて楽だ。
ナリもそんなに派手じゃにないし、何よりトモロを引き立て役としないところが好きだ。
「ごめん。ちょっと腹が痛くて」
「わかりました。もう用は済んだんですよね? だったら行きましょう。作戦会議ですよ」
「じゃあな、敵」
「敵って言うなっ」
「じゃ、失礼いたします」
手を取られてほとんど引っ張られるように外に出る。
運動場の一番あっち側に自分の会社のブースがあったのだが、そこに向かうまで関西はトモロの手を離さなかった。
「何かあったんですか?」
「何かって?」
「だって先輩何かあるとトイレに籠もるでしょ」
「あ、うーん」
言いたいのは山々だったが、そうなると昨日キヨタケと何をしたのかを言ってしまいそうになるので言うに言えない。
トモロはこのよく気がつく関西を頼もしく思っていたのだが、何でも知られてしまっていそうで怖くもあった。
★
「手」
「駄目ですよ。ちゃんとみんなのところに着くまでは離しませんから」
「俺、幼稚園生じゃないんだぜ?」
「わかってますよ? だけど何だか今離しちゃいけないような気がするんですよね…」
関西にしてはあやふやな物の言い方に首を傾げながらもウダウダ言っている間に自分のブースに着いてしまった。
「何やってるんですか。大木さん一番最初から出るんでしょ? 気合い入れやるんだからちゃんとしてくださいよ」
言ってきたのは関西と同期で入った関東だった。
名前が名前だけにセットで考えられるのをとても嫌っている。
俺は俺。あいつはあいつって具合だ。でもふたりとも仲は悪くない。
関東は大柄で親切そうな男だったが、関西は細身の爽やかスポーツマンってタイプだった。
仲は悪くないが、お互いライバルって感じのふたりだったのだ。
「先輩は大玉転がしで玉を関東に引き渡すんですよ。分かってますか?」
「分かってるって」
市の競技場をわざわざ借り切ってやる社祭は、体を動かしてナンボの運動会参加組と出店で稼いでナンボの組に分かれる。
もちろん出店組での儲けは社員で山分けなのだが、これも大木と斉木の戦いがあり勝者と敗者が位置づけられる。
だから本当ならトモロも目立たないで出店組に参加したかったのだが、相手の会社の御曹司が運動会に出る以上ウチもということで引っ張り出されていたのだ。
それもこれもキヨタケがいるからこうなったのだと思うとナンダカナ………と言う気分だった。
大玉転がしが無事に終わるとトモロの出番はしばらくなかった。
かといってまだお腹が空いている時間でもないので手持ち無沙汰だ。
観覧席に腰掛けていると障害物を終えた関西がタオルで汗を拭きながら帰ってきた。
「お疲れ」
「見てくれてました?」
「ああ。やっぱお前すばしっこいな」
「ですか?」
「でしょ。得点いいじゃん」
「でしょ」
嬉しそうに映し出されている総合点を見ながら隣に座る。別にそれは不自然な行為ではなかった。
しばらく観戦していると前を向いたままふいに関西が言葉を出した。
「先輩、俺の彼女になってくれませんか?」
「………はっ?」
「唐突ですみません。でも今言うのがベストなんじゃないかと思って」
「俺、がなんでお前の彼女なの?」
「好きだから、ですか?」
「俺の気持ちは?」
「今聞いてますけど」
「あ…っと……」
これって告白受けてんだよな…と思ってみるが信じられない。
「だってお前後輩じゃん。てか男じゃん。俺、お前の彼女になんてなれるわけないじゃん」
言ってはみるが、何だか火に油を注いでいるような気分だ。
まるで昨日のトイレでの出来事を見られてたんじゃないかと思うくらい。
「返事はすぐにとは言いません。先輩今キョドってますし」
「う、うんっ!」
「俺、先輩が会社の御曹司だっての抜きで考えてますから」
「そ、そう」
「だから先輩も俺をただの後輩なんかじゃなく交際相手として考えてくれませんか?」
「う…ん…うーん…」
何とも間の抜けた返事しか出来なかった。
その後関西はいつもの関西に戻った。
でもトモロの心の中はヒッチャカメッチャカな気分が全然収まらなかったのだった。
○
昼の休憩になると出店合戦がピークになる。
そこここでチャリンチャリンとカード決済の音がする。
リアルタイムで集計される出店での売上が百円で一点計算で運動会の点数に加算されて表示される仕組みになっているのでどちらも呼び込みの声が半端なかった。
それを見たトモロは「やっぱり運動会参加組で良かったかな………」と密かに思ったりしていたのだった。
あいつら、明日は声出ないだろうな………。合掌。
「ふぅ………」
敵の出店する食べ物を買うのはやっぱ駄目かなと思って努めて自分の会社の店を利用する。
が、食べ物はタブってはいけないルールがあるので敵側のものでも食べたいものはある。
だけどそこをグッと我慢して自社の出店で済ますのが御曹司としてはベストだと自分に言い聞かせて出店の列に並ぶ。
だけどキヨタケはそうでもないらしく、ちゃっかりとトモロの後ろについて並んで後ろから話しかけてきた。
「今のところお前の会社のほうがリードしてるな」
「………得点みるとそうみたいだね」
「お前の出番はもうないのか?」
「…午後一であるけど?」
「借り物競走か?」
「……そう」
それが何か? と言う顔で振り向くとニッコリと笑われてムッとなる。
「俺もそれに出ようかな………」
「そ…んなに急に誰かに変わるなんて…出来ないと思うんだけどなっ」
「そんなに出来るんだな、これが」
「………」
「これも日頃の行いかなっ」
などと口にするので、トモロのイライラは頂点になった。
「それは自分の立場を利用してって言うんじゃないのか? お前、そういうトコ直せよ」
「俺は何の特権も使ってないし、使おうとも思ってないけど? そんなことより昨日の続き、俺したいなぁとか思ってるんだけど、これ終わったらお前ん家行ってもいいか?」
「………駄目っ!」
「何で?」
「お前に……これ以上会いたくないからだよ。そんなことも分からないのかっ?!」
いい加減にしてくれとそっぽを向くと「そんなこと言うなよ」「俺たちの仲だろ?」と小声で言われてど突きたくなった。
「お前、何様のつもりか知らないけど、これ以上俺の体に触るんじゃないよっ」
「………何で?」
「いくら親しくてもこんなの普通じゃないしっ」
「え、そりゃ場所が悪かったって言えば悪かったけど、恋人同士なんだし別にいいんじゃないのかな」
「………俺たちいつ恋人同士になったんだよっ」
「もうずいぶん前からだと思うけど」
違う? と言う顔をされて意味が分からなかった。
「お前の頭の中ってどうなってるんだよ。俺はお前とそんな仲になった覚えはないし、今だって」と言ったところで口をすぼめた。
「え…今だって何?」
「気になるのかよ。その勝手な言動で俺を困らせてるくせに」
「何言ってんだよ…」
お前こそ訳わかんないと肩をすくめられて言い返す言葉がなかった。
「お前って自分の妄想を事実と勘違いしてる奴なんじゃない?」
「そんなことないだろ」
「だって俺たち付き合ってないし」
「そんなことないって。昨日だって俺たちあんなに愛し合ったし」
「便所で……抜かれただけだよっ。そんなことも分からないのか。俺は、お前に勝手に体触られて抜かれてイった。ただそれだけだっ」
自分に言い聞かせるようにそう言うと前を向く。
もう相手が何を言っても振り向いてやらないと決めていた。
「トモロ」
「………」
「トモロ。怒ったのか?」
「………」
「トモロ」
「お前みたいな奴と知り合いだってのは俺にとっては恥だ。それだけは分かっておいてもらいたいっ」
「いじわる」
「いじわるじゃない。だいたいお前は…!」と言ってから自分が振り向いてしまっているのに気づいて大きくため息をついた。
俺ってナンダカンダ言って結局相手と話しちゃってるじゃん。駄目な奴じゃん…。泣けるな………。
後輩の関西には告白されて、友達のキヨタケには恋人同士だと思われている。
どれもこれも選択する気にもなれないトモロはこのままバックレようかな…と頭の中で考えていた。
よし。飯食ったらバックレよう。今日はもうそれで終わりにしよう。
いの一番で家に帰って鍵を閉めて寝てしまおう。
そうすれば明日が勝手にやってくるし、明日になれば新しい気持ちでまた出勤出来るんじゃないかと言う気になれた。
食事を手にするとさっさとテーブルに着く。
キヨタケが隣に座れないように四つある内の三つが塞がっている席を選ぶと迷わずそこに着席する。と、その横には関西がいたのだった。
「うっ」
「どうしたんですか?」
「………何でもないっ」
一難去ってまた一難。
いつものように優しく微笑む関西を見るのはちょっとばかり辛いトモロだった。
「午後から出番あるんですよね?」
「あ…うん…………」
「そんなシケた面しないでくださいよ」
明るくそう言われるとバシッと背中を叩かれる。
「痛っ…」
「ぁ、すみません」
痛かったですか? と聞きながら今叩いたところをさすってくる。
そんな仕草にも敏感にビクッと反応してしまうのを見た関西は、本当にすまなそうな顔をして「すみません」とだけ言ってきたのだった。
「いいよ」と答えながらも、こいつに返事をしなくちゃいけないと思うと気が重い。
「あのさ」
「やめてください」
「はっ?」
「今から返事を聞こうとか思ってませんから」
「え…」
そんなつもりは毛頭ないのだが、相手も相当気にしてるんだろうなと言うのがよく分かる。
トモロはポリポリと頭をかきながら「どうやっても答えは一緒なんだけどな」と思うしかなかった。
○
そんなこんなで昼休みも過ぎて、午後一番からトモロの出番だった。
あー帰りたい…。
そんな言葉を飲み込んで借り物競争に参加する。
「えっ…………」
トモロの紙に書いてあったのは「恋人・もしくはそれに近い者」
「これは…………」
明らかに策略だと思った。
キッ! と目を吊り上げてキヨタケを探すが彼の姿は見えなかった。
代わりに大きな声でこちらを応援してくれている関西の姿が見て取れたのだった。
今ならあいつを選ばなくて済む。
そんな思いが脳裏をよぎった。トモロは関西を見つめてから手招きをするとゴールに向かって突き進んだ。
「先輩。紙にはなんて書いてあったんですか?」
「内緒」
「言いたくないんですか?」
「うんっ」
「ならいいですけど…………」
深入りをしてこないのが、こいつのいいところだとも言えるのだが…………。
心の中で大きくため息をつくとゴールを切る。
切ってから借り物が合っているのかどうかを審判に確かめられるのだが、そこに紙を持っていって固まった。
そこにいたのはキヨタケだからだ。
「紙。出せよ」
「い…いや、いいっ」
「俺、審判なんだぜ? 紙に書かれてることと持ってきたものが合ってるかどうか確かめなきゃならないだろうが」
「じゃ、棄権で」
そう言いながらトラックを出て行こうとするのだが、そんなことは審判が許すはずもなく、また同社の社員が許すはずもなかった。
「先輩。いったいどういうつもりですか。こんなところで相手に点数縮めさせるつもりですか?」
「うっさいなぁ。お前には関係ないじゃん」
「あるから言ってるんでしょうがっ」
「そうだぞ。審判の俺が見せろって言ってんだから見せろよっ」
「いーやーだっ! 俺はもう帰るっ。後はお前らで楽しめ。いいな?!」
手にした紙をギュュュゥと握りしめるとその場を後にしようとする。
だけどふたりしてトモロを引き留めたのでトモロは足だけを空中でバタつかせたのだった。
「おい、お前等っ! 俺は『捕らえられたエイリアン』じゃないぞっ?! クソッ!」
「点数なくなるから駄目ですって!」
「紙を見せないなら立ち去ることも却下とするっ!」
「お前等なぁっ………!」
内心どうしようかと焦りに焦りながらも顔はすましている、ふりをする。
「あ、腹が痛くなってきたっ。全部お前らのせいだからなっ!」
うううっ…………と痛いふりをすると両方の手を掴んでいた各自の手が放れた。
今だっ! とダッシュでそこから逃げると、そのまま球技場から出て道路でタクシーを止める。
「○○まで」
パタンっとドアが閉まって車が走りだすと、これで切り抜けたと安心したせいか体の力が抜けてヘロヘロっとなってしまった。
「誰だ、俺を嵌めたのはっ」
しかし誰でもなかったことは後になって分かる。要するに親しいと思ってる人を連れて来いと言うことらしい。
紛らわしい言葉遣いに閉口するしかないのだが、今のトモロにはそんなことどうだって良くて、早く布団の仲に潜り込んで寝てしまいたかったのだった。
まったくだ、まったくだ、まったくだっ………!
なぜ俺がそんなに攻められなくちゃならないんだ。
てか、あそこであの内容は見せられないだろうっ。あれ、誰か書いたんだよっ! 俺に絶対恨みあるだろっ。
焦っているせいで肯定的に捕らえると言う思考が吹っ飛んでいる。
トモロは改めて握っている紙を見るとそれを広げてみたのだった。
これで後輩とか書いてあれば全然大丈夫なのに…と思ってみるが、そんなことはなく、紙にはしっかりと「恋人・またはそれに近い者」と書かれていたのだった。
「失敗だな」
俺があの時点でキヨタケを探したのも失敗だし、関西をつれて走ったのも失敗だ。
そもそも俺にそんな奴はいないんだから誰もつれて行かなきゃ良かっただけの話なのに………………。
後悔しても始まらない。トモロはそれならどうする…と考えた。
「ぁ、そっか」
紙を書き直してしまえばいいんじゃん?
自分でも考えてから否定しようとするのだが、それが一番安易だと言うので黒くてしっぽの生えた悪魔が「おっ、それいいじゃん」と後ろから抱きつくのを感じたのだった。
さっそく家に着いたら筆跡を真似てみようと思った。
そう思うと気分が晴れ晴れした。
「そっか。それでいいんだ」とニマニマする。
しかしそんな脈絡もなくいい加減な考えはすぐに弾き飛ばされる結果になる。
○
自分のマンション前まで着くとキヨタケが先回りしていたのだ。
それを知らないトモロは浮き足だってエントランスに入ろうとしたのだが、暗証番号を押す寸前で肩を捕まれてそのまま玄関に背を向ける形になっていた。
「え…………」
「お前さ、昔から都合が悪くなると逃げたよな。今回も都合悪いんだ」
「え…っと……………」
うまい返事が出来なくてそっぽを向くと着ていたジャージのポケットをまさぐられてグチャグチャになった紙を取られてしまった。
「あっ!」
「なになに。何て書いてあるんだ?」
もったいぶってその紙を広げたキヨタケは固まってしまった。
「あっと…、それ、お前が書いたんだろっ? てか、お前いなかったから代わりに後輩連れてっただけだからっ!」
あー言い訳してるよ俺…………。
心の中のトモロがそんなことを口にする。
どうなっても知らないよ………。
そうとも言った。そしてその言葉は現実のものとなってしまったのだった。
「誰がこれを書いたか分からないが、これで後輩の関西をつれて来るのはどうなのかな。お前それで合ってると思ったから連れてっんただよな?」
「だ…から言ってんじゃん。お前いなかったからっ…………!」
「俺はお前を見てたんだけどな。残念だよ」
「何が残念だよっ! 残念なのは俺のほうだよっ。そんなにその紙に書いてある奴になりたかったんなら自分から近づいて来いよっ」
「いや。俺何が書いてあるか知りませんから」
「あ、そっか…………」
そこで話が振り出しに戻って結局トモロはキヨタケに懺悔することになってしまったのだった。
「ぁ…ぁ…ぁ………っ…ぅ……」
トモロは今、せっかく自宅に帰れたと言うのにキヨタケに下半身を占拠されていた。つまりズブッと突き入れられていたのだった。
場所は無理矢理引っ張り込まれた寝室。でもベッドの上じゃない。
そこまでたどり着けなくてベッドのすぐ横で下半身だけ脱がされて性交渉されていたのだった。
こんなことをされたのは高校の時以来だ。
確かあの時も色々あって…………。などと考えてはいるが頭が回らない。
「まったくさ……お前が俺に嘘つく時ってすぐ分かるから困るよなっ」
「んっ…ん…んんっ…ぁ……くっ……」
「可愛いよ。だから時々こんなことしたくなるんだ」
「くっ…ぅぅ……」
自分のモノをキツく握って我慢してるのに、その手を取られて直にモノを握られるとおもむろにしごかれる。
それは実に手慣れたもので昨日もされた行為だった。だけど何故だかいつまで経ってもトモロのほうは慣れやしない。
恥ずかしさと気持ち良さとがない交ぜになった感覚に情けなさが増すばかりだった。
「こ…んなことしやがって……!」
「でも気持ちいいだろ?」
グイグイしごかれて思わず「ふっ…ぅん…」と甘ったるい声が出てしまう。
するとキヨタケが「ほらね」みたいな顔をするもんだからしごいている手を掴んでいるトモロは力をなくす。
上半身も捲りあげられて乳首をつねられるとビクビクと秘所の締りが良くなるものだから執拗にキヨタケはそこを攻めてきた。
「あっ………ぁ………ぁぁっ………んっ!」
「素直にそうやって鳴いていれはいいものを、なんで自分で自分を否定するかなっ」
「はっ………ぁ…んっ……。んんっ………!」
「そう。お前は元から俺のものなんだからっ」
「んんんっ………!」
「遊びならいいが、本気は駄目だ。本命はあくまでも俺っ。いいな?」
「くぅっ!!」
ズンッ! と抜き差しされていたモノを力強く打ち付けられてキヨタケの手の中で感じて弾けてしまった。
トモロは弾けた後も許してもらえず、ただひたすら相手が満足して離れていくのを待つしかなかったのだった。
相手がトモロの中から出ていったのはトモロが一度目に射精してから数時間後だった。
その間トモロは二度ほど射精していた。乳首も摘まれて捻られて感じまくっていたし、秘所もズブズブになっていた。
腰も執拗に振ったし、よがり声も上げていたせいで運動会どころではない。
明日は絶対に休みだなと体が言っていたくらいだ。
ズルリと彼のモノが体内から出ていくのをぐったりとしながら感じる。
ほとんど眠りにつく寸前の中でトモロはキヨタケの背中をぼんやりと見つめていた。
キヨタケはベッドサイドにある明かりを点けて背を丸めていた。
悪いことしたな………とか思ってるのかな………と考えている内に眠りについてしまったので結局分からず終いだったのだが。
○
翌日は案の定休みを取った。
関西がしきりに「どうして途中でいなくなったんですかっ?!」と聞いてきたのだが、答えるに答えられなくて「ごめん」を繰り返すしかなくて
「それなら今から行きますからっ!」と言われて「熱があるからっ!」と断った。
電話を切ってベッドから降りようとするのだが、体が言うことを効かないのでそのまま天井を見つめる結果になる。
もしかしたら会社が終わったら関西が来るかもしれない。
そしたら何をどう話したらいいのかが分からない………。
嘘をつくつもりはないのだが、どうやら自分は自分の意思とは関係なくキヨタケのものらしいと言うのを昨日思い知らされた。
またあんなことされたら………と思うと体の芯が熱くなってしまう。
「あー俺って!」
握った拳をバフンッと打ち付けてみるのだが、しょせんそれはベッドの上なので痛くもない。
「あー俺って!」
もしかしたらまた近々ズブズブされるんじゃないだろうか………と思うと危機感とその真逆の期待を持ってしまうところが
どうしようもないな………と深く思うトモロなのだった。
終わり
タイトル「地味に好き」
20151123