タイトル「恋するラブドール」試読

 昨今粗大ゴミは電話をして取りに来てもらうのが普通な世の中。なのにこの人形は道ばたに無造作に横たわっていた。最初は人なのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。なぜなら彼は世の中にはびこっているご奉仕ドールの顔をしていたからだ。
「これ、誰かに捨てられたのかな……。だったらもらってもいいよね?」
 誰かに聞くように言葉を出してみるが、現実にここは路地だし人通りも多くない。自宅に帰るのにちょっと近道をしようとビルとビルの合間を縫って歩いていたらご奉仕ロボットを拾えたみたいだ。ここは手っ取り早くさっさと自宅に運んで、それから考えようと思った。動くとか動かないとかは二の次で、とにかく高嶺の花と諦めていたご奉仕ロボットが手に入るのは至極の至りだったからだ。
「よっこらしょっと……」
 まるで人の肩を担ぐようにそれを移動にかかる。思っていたよりも軽いが、それでも機械なので重いことは重い。学校を出ても就職する気がなかったショータスは日銭稼ぎで生計を立てていた。だから毎週週末になるとアパート代が払えるかどうかが問題で、いつも何かしらの心配事を抱えていた。今回このお荷物をこうやって運んでいるのは、こいつが何かしらの金を生むのではないかと言う浅はかな考えからだ。これで役に立たなかったら、またこの場所にそっと捨てに来ようとも思っていた。しかしこの手の商品はどうやって動かすのかも謎。でも憧れの品でもあったので誇らしげな気持ちも否めなかった。



「ふふふ……」
 汗だくになったが、どうにか家まで運び入れた。額の汗を手で拭うとベッドに寝かせた物を改めて見つめてみる。
「やっぱりコレ、あのドールだよな」
 人型・学習能力機能抜群のK-1タイプ。機動の方法はどうするのか……。アニメなんかだと口の中と言うのが多いが、このタイプはどうなんだろうと検索をかけてみた。
「ぇ、デフォ?」
 それにはちょっと笑えてしまったが、これは口の中。しかも舌の下の根本にある赤いボタンをつまようじのような細い棒で動かすらしい。
「そんな細いものうちにあったかな……」
 考えてみるが思いつかない。
「買ってくるしかないか……」
 汗で濡れてしまった服を着替えると極細棒探しにコンビニに出かける。普段立ち寄りもしないコーナーに足を向けるとつまようじを手に取りレジまで急ぐ。時間帯が悪かったのか待ち時間が長い。ボーっと待っていると、ふと思いついた。棒がいるのは一本だけなのに、なんでこんなに買わなくてはならないのか。あー、だったら弁当買えばいいんじゃない? と思いついてしまったのだった。
「うん。そうだな。それがいい」
 ひとり納得してしまうと、つまようじを棚に返して弁当を選別する。何を買っても割り箸をつけてもらえば中に入っているだろうから、最初からこうすれば良かったとホクホクげに家に取って帰る。
 ガチャガチャと旧式の鍵を開けると西日が差し込んでくるようになった室内に手をかざしながら奥へと歩く。玄関ドアからキッチンを通って居間を通ると右に折れて寝室に使っている部屋に到着する。
「あれ…………」
「あの……ここはどこでしょうか」
「あーーーー」
 これは失敗したかも。
 どうやらショータスはただ眠っていたドールを連れて帰ってきてしまったのではないかと思った。
「あなたは?」
「……俺はショータス。お前はラブロイドとかラブドールとか言われるヤツだろ?」
「……分かりません」
「名前は? 持ち主は?」
「私の名前はイッタ。機能は初期化されています」
「うん? 初期化?」
「はい」
「それは何も記憶がないってことかな?」
「はい。マスターはあなたですか?」
「いまのところね」
「ではマスター。私に正式な名前をつけてください」
「急にそう言われても……」
「分かりました。ではそれは後で。私は何に必要とされているのでしょうか」
「いや。ちょっとまて。まだ僕は正式にお前のマスターになったわけじゃないから、そういうのは決められないな」
「そうですか……」
 それは残念…とばかりに寂しそうな顔をすると、今度は周りを把握するために辺りを見回した。
「何してるんだ?」
「状況把握です。ここはマスターのご自宅と言うことでよろしいでしょうか」
「そう」
「生活レベルCと言ったところでしょうか」
「正直に言うんだな」
「あ、お世辞とか口にしたほうが喜ばれますか?」
「まあ。時と場合によるよな。比較的僕は言われたほうが嬉しい。でも言われ過ぎるのも嫌」
「では様子を見て、と言うことで」
「ああ。っと、聞いてもいい?」
「はい。なんなりと」
「お前をここに連れてきた時には、動いてないから粗大ゴミだと思って拾いものだと思った。で、機動の仕方を検索して細い棒がいるって分かったから買いに走ったんだけど、いない間に動き出していた。お前って勝手に動き出すの?」
「いえ。いったん初期化されたものは、あらたにマスターが起動していただかないと動くに動けません」
「でも動いてたよな?」
「それはどうしてだと聞いてるんだけど」
「目が覚めました」
「勝手に?」
「はい」
「それは何か、眠ってて目が覚めたようにと言うこと?」
「はい。長い眠りから目覚めた感じです」
「初期化されてるのに?」
「はい」
「そうか……」
 これは不良品だから捨てられた口なのか……。いらなくったからな捨てられたのか……。
 何に使われていたのかが不信なところだが、動いているうちは使える。動いてる間だけでも使うと言うつもりでいればいいんじゃなないか? と素早く結論づける。
「僕が思うに、お前は起動不良なんじゃないかと思うんだ」
「ではまたすぐに眠りにつきますか?」
「そのサイクルがどのくらいのターンかは分からないけどな。たぶん何回もそれがあって嫌になられたんじゃないのかな」
「どうしますか?」
「何が?」
「私はいりませんか?」
「うーん。難しいところ。眠ったら起きないとかありそうだもんな」
「でしたらお手数ですが、リサイクル部門に連絡を入れてくださいませんか」
「僕が?」
「はい。自分では了承していただけないので」
「あ、ロイド本体じゃ駄目なんだ」
「はい。人間でないとリサイクルシステムが働きませんので」
「へぇ……」とは言ったものの気が乗らない。
「お前ってさ、暴力とか振るえるタイプ?」
「マスターを守るシステムなら装備していますが、マスターに暴力をふるうシステムは備わっていません」
「だったらいっか」
「……」
「お前は誰かに捨てられた。そしてそれを僕が拾った。今お前は僕のものだから、捨てるかどうかは僕が決める。それでOK?」
「はい。構いません。マスター、私はマスターにサイズを合わせたほうがいいですか?」
「何?」
「体型を合わせると洋服を余分に買わなくていいので、いわゆる節約です」
「……そんな気を使うシステムあるんだ」
「生活レベルを見て考慮しました」
「お前ってさ、案外嫌な奴なのかな」
 親切もあまり親切に取れないような、そんな変な気を使われたショータスは怒る気にもなれずに苦笑するしかなかった。
こうしてこのアンドロイドと一緒に住むようになったショータスだが、彼がいつ動かなくなるのか、それを気にしながらの生活にもなるのだった。



 男性型ラブロイドの名前はカノンと名付けられた。
 女みたいな名前だが、これは音楽のカノンコードから取ったものだ。このコード進行があれば名曲が作れるとも言われている。カノンはあれから人と同じ時間帯に活動しているため、一緒に寝て一緒に起きている。でも彼は人のように食事らしい食事を必要としないので便利でもあった。もちろん擬似での食事も出来るのだが、無理してそんなことをさせるよりも効率的に燃料を食わせに行かせたほうが本人も喜ぶと言うものだった。
「マスター。そろそろ私も食事がしたいのですが」
「あ、ごめん。じゃあこのクレジットで行って来いよ」
 カードを手渡したのになかなか受け取ろうとしない。何かが不満なんだなと察したショータスは、小さくため息をつくと時計を見た。もうすぐお昼だ。
「じゃあさ、僕の食事と一緒に食事ってのはどう」
「はい。嬉しいですっ」
 とたんにはにかんだ表情になるのを見ると、彼はどのくらいの年の人間として扱えばいいんだろう…と判断に困る。まるで子供みたいだと思う時もあるし、そうでなく、すごく年を取った老人のような時もある。彼の中に入っている人工知能は誰を基準にしたものだろうと思ってしまうほどだ。
 ドールを傍らに置くのは珍しくはない。だから持ち主に似たような人工物がすぐ隣にいることなど当たり前と言ってもいいくらいの世の中なのだ。だが反面管理された世界でもあるためにカノンのコードが必要になっていた。色々な場所に出向くために持ち主を把握出来るコード。これが最近面倒になっているために貧困で困っている人間をドールとして隣に置く金持ちもいるくらいだ。それはそれで駄目だと思うのだが、人工物も本当はこんなに蔓延してはいけないのだとも思っている。
「マスター」
「なに」
「その料理を家でも食べたいですか?」
「でも色々買うと結構高くつくからな。こういうところで食べたほうが経済的だと思うけど」
「そうですか」
「どうしてそんなこと聞くんだ?」
「はい。私一度口にしたものは再現が出来ますので、その機能を必要としているかと思いまして」
「ぇ、お前そんなこと出来るの」
「そういう機能もあると言うことです。必要ですか?」
「まあ…必要だけど、今日はいいや」
「そうですか。また必要な時にはおっしゃってくださいね」
「ああ。そうする。でもやっぱり材料費のほうが高くつきそうだな…」
 色々な機能が備わっているのは分かった。日常生活の家政婦の役目、家庭教師の役目。または万全ではないが周辺の警備と、極めつけは夜のお共だ。女が良ければその時だけ少し変形する。用事が終わったら本来の姿に戻ると言う機能もあるらしい。それについても何度も問い合わせされているが、まだ一度もいい返事をしてやったことはない。カノンは本来そういうドールなので少し寂しそうだが、まだショータス自身が、この生きていないのに生きているようなことを平気でする人工生命体を全面的に受け入れているわけではなかったのだった。
 本来の目的。それは彼に働いてもらい金を稼いでもらうことだった。だが彼の場合、金を稼いで来いと言われて動くはの本来の機能。一度言ったら体を張って金を稼ごうとしたので、もう言わなくなった。その代わり彼には家の中で出来ること。家政婦の役目をしてもらっている。だから帰ってきたらいつも掃除がされて綺麗になっているし、洗濯も完璧だった。難点は彼の電気料金が発生することくらいか。彼の体は省エネタイプなのでそんなに金はかからないのだが、それでも一週間に一度は充電が必要になる。だから週末はふたりして街のカフェでそれぞれの食事をするのが常となっていた。
「マスターの仕事は何ですか?」
「日銭稼ぎだよ。街の都合屋・御用聞き。でも捕まるようなことには手を出さない。今人間はどんどんいらなくってきてるしな……」
「その代わり私のようなロイドが必要とされるのですか」
「ま、人よりはタフだからな。教えなければ泣かないし、ショゲないし、自殺もしない。壊れても死んだとは言わない。壊れたから廃棄でいいんだから」
「それは悲しいですね」
「そう思うか?」
「はい。私たちロイドの行く末は悲しいものしか待っていません」
「……かわいがってくれてる持ち主なら知能の部分だけ抜き取って新しい体に差し替えてくれるだろう?」
「ですが、そこで不具合が起きたら……」
「起きたらどうなるんだ」
「全面的に生涯フリーズ。または初期化されます」
「ぇ……って、お前ももしかしてそうなんじゃないの?」
「いた場所から考えてそれはないかと」
「ぁ、ま……まあそうだわな」
 そういうことならあんな路地で捨てられてるみたいになってない。
 こいつの前の持ち主は誰なのか。どうしてあんなところに捨てられていなければならなかったのかを聞いてみたい気持ちだった。しかし勝手に持ってきてしまった手前、調べるとしても持ち主と会うのはやめておいたほうが賢明だと思う。今更返せとか言われても困るからだ。それよりもショータスはカノンのコードを手に入れることのほうが先決だと思っていた。誰かに問い合わせられたらアウト。警備の厳しいビルとか入る時には必ずそれは必要になる。だからそういうところにも今のところ近づかないようにしている。
 ショータスはカノンを手に入れてから事実上動く範囲が狭くなっていたのだった。自分だけが単独で動く場合でも、もしかしたら何らかの理由で彼が自分を追いかけてきてしまったら、そしてコードがないことがバレてしまったら彼はリサイクルセンター行きになってしまうかもしれないからだ。今のところ彼は野良ロイドと言う状態だ。
「カノン」
「はい、マスター」
「お前を証明するコードって本当ならウナジにあるのかな」
「だと思います」
「そっか……」
 前に風呂に入れた時、ソコにはなかったのを確認している。証明出来るコードを手に入れるにはどうしたらいいのか……。これはもっと賢い人物に聞かなければ埒が明かないな……と思った。
 誰に尋ねる……。
 周りにそんなに賢い奴はいただろうか……。考えてみるが心当たりはない。酒場のママである華子に聞けば誰かに行き着くかもしれない。そうなることを祈ってショータスは酒場を尋ねた。



「何、急に。今日は仕事ないわよ」
「聞きたいことがあって」
「私に分かるのかしら?」
「繋ぎをつけて欲しい。俺じゃ分からなくて……」
「誰を必要としているの?」
「ちょっと世間に詳しいヤツ。特にロイドに詳しいヤツだと嬉しいな」
「……何かあったの?」
「ちょっと拾い物をしてね。僕あーいうの詳しくないから色々教えてくれると嬉しい」
「年齢は? 問わない?」
「ヘンツクじゃなきゃ別に誰でもいいよ。ただ」
「ただ?」
「少しでも払いは少ないほうがいい」
「相変わらずケチね」
「ケチなんじゃなくて貧乏なの。ただの貧乏。僕は最初から払えないものは払えないから、少しでもリーズナブルなヤツを教えてくれって正直に言ってるだけ」
「正直ね……」
「払えない額は払えない。僕は正直で誠実だよっ!?」
 胸を 張ってそういうと逆に呆れられてしまった。
「いくら?」
「金はそんなにない」
「だからいくら?」
「い……一万でどう?」
「一万ねぇ…………」と言って渋々教えてもらったのが山田来男(やまだ-くるお)だった。



「んだよ。ガキかよ」
「……確かにあんたよりはガキだと思うけど、僕は一応お客だからな?」
「客って一万ポッキリで根ほり葉ほり聞き出そうとしてるヤツのこと?」
「うっ……」
 それを言われると立場は極めて弱い。相手は自分よりもだいぶん年上だし、優しくなさそうだし、第一面構えが怖い。一見するとヤのつく人のかな……と思ってしまうほどだ。ただ周りに誰もいないからガラの悪い探偵かなと言ったところだろうか。
「クルオ」
「お、呼び捨てかよ」
 金を差し出しながら名前を呼ぶと、ちょっとだけ嬉しそうな顔をしながら金を受け取った。
「この間路地でロイドを拾ったんだけど、コードがないんだ」
「コードがないと入れない場所があって困ってる?」
「そう。そもそもコードのないロイドなんているのかな」
「消されたってことかな」
「消された? そんなのいらないって言って処分すればいいだけの話なんじゃない?」
「何かヤバイことに使われてた物だとしても?」
「ヤバイことって?」
「何かの密輸とか」
「ロイドに?」
「ロイドには必要のないものだからな」
「って、麻薬とか?」
「うんまあ」
「でも、それならなおのこと抹消しちゃえばいんじゃないの?」
「……誰かがそうなる前に手を打ったとか」
「どうして?」
「それだけ可愛がっていたから?」
「……だとしたら随分いい加減なことしたよな」
「妙な仏心は罪だよな」
「だと思うよ」
「ヤバイことじゃなくても処分するのは嫌だった。もしくはされる予定じゃなかったのに誰かによってリセットされたとかね」
「そんなことあるのかよ」
「分からないな。それほどそのロイドは誰かにとって疎ましい存在だったとか」
「うーん……」
「じゃ、そういうことで」とニコニコしながら終わりを告げられて「ちょっと!」ショータスは異議を唱えた。
「まだ全然何にも触れてませんけど!?」
「え、俺の役目はそのくらいだろ? 毎度」
「コード! コードの問題はどうなってんだよ。なかったら困るから聞いてるんだろっ!?」
「作れば?」
「え?」
「新しく作ればいいんじゃん」
「……そんな簡単に出来るのか……?」
「リサイクルロイドだっているわけだからね。ポンコツ山から拾ってきて自分で手直ししました。新しいアカウントを取得したいのでコードの申請を申し出ますって言えばいいんじゃないのか?」
「出来るのか、そんなこと……」
「まともなロイドならね」
「引っかかる可能性もあるってこと?」
「紙の上のことだからロイド自身顔は見なくても申請出来る。タイプ必須事項になるだけだろう」
「そっか。ならさっそく……って、それいくらくらいかかるんだ?」
「タイプによって価格は違うと思うぞ。出来ることが違うんだから。高性能になればなるほど高くなる。そいつのタイプは?」
「ラブドール」
「んだよ。よりにもよって一番高いヤツかよ」
「いくらくらいかかる?」
「新たな命の価格でもあるんだから、それなりだろう。調べてやろうか」
「うん」
「チップ」
「後で」
「ホントにくれるのか?」
「もちろん」
「ホントかよ」
 怪しみながらもネットワークで調べ出す。
「自分で調べればいいじゃん」
「金出してんだから、あんたが調べろってこと」
「生意気なヤツだな」
「どうとでも」
「ふんっ」
 ショータスが彼に調べるのを頼んだのには訳があった。彼は「商売として調べました」と言う言い訳が出来るが、ショータスが調べると「個人的に」と言うことがバレバレだからだ。人間の使っている端末にもそれぞれのIPアドレスがついているから、何かあったらすぐにお役所から目をつけられるのを恐れてのことだった。はた目には穏やかな世界でも目に見えないところでは何が行われているのか分かったもんじゃない。特に金持ちでもないショータスみたいな人間は、いつどうなっても仕方ない立場でもあったのだった。
「出た」
「いくら?」
「20だな」
「20?」
「二十万」
「………ちょっと無理かも……」
「じゃあそのロイド。いつまで経っても野良ロイドってことで」
「それは………」
 別に今のままでも、いつ動きを止めてしまうか分からない。だからいいのだが、人格がだんだん形成されているのでショータスにだって情と言うものが湧いてきているのだ。だから出来れば正式にちゃんとした自分のものとして……。
 自分のもの?
 自分で考えたと言うのに、ハタとして立ち止まってしまった。
 僕はあいつを自分のものとしてコードが欲しいのか? それともヤツをちゃんとしたロイドとして扱いたいからコードが欲しいかの?
 大雑把に言えばどっちだって一緒なようなもんだが、ショータス的には大きく違っていた。前者であればカノンは自分所有だが、後者で言えば孤立したロイドと言うことになるだろう。カノンはマスターあってのロイドだと思うから孤立は望まない。だけど何かあった時の為にはやっぱりコードとマスターは必要だ。孤立、独立させるためにコードをもらいたいわけじゃない。しかし二十万は高い。二三週何も食べなければ可能だが、ショータスは食べなければ死んでしまう。カノンだってそうだ。これは貯めるのには時間がかかりそうだと思えた。
「どうせ野良だろ? いつ停止するかも分からないもの大切にしすぎだろ」
「僕、ロイドって初めて見たんだよね。テレビでしか見たことない人工物。最初は金儲けになるかもかと思ってたけど、人と同じなんだよね……」
「いやだね、この人。十分可愛がってるじゃないか。でもな、そういう経緯のあるヤツは信用しないほうが得策だぜ? いつ寝首かかれるか分かったもんじゃない」
「……」
 そう言われればそうなのだが、名前をつけてしまったからいなくならないで欲しいと言う気持ちもある。ショータスは曖昧な返事をしてクルオの家から帰ったのだが、まさかその逆の行為をされようとは、この時思ってもみなかったのだった。