タイトル「欲張りな夏の終わり」
道端で蹲っている男と言えば、たいていは飲み過ぎて吐く寸前の姿だと思うだろう。だから
「………」
昼間っから酔っ払いかよ……。
横を向いて行き過ぎようとした瞬間、ガシッと足首を掴まれて転びそうになりながらも何とか踏ん張る。
「ちょっ! 何、お前っ……?!っ」
「たすけ…て……」
「えっ?!」
明らかに自分に言われている言葉にギョッとするが、転びそうになった手前恥ずかしくてキョロキョロと回りを見る。そして誰もいないと分かると、ようやくその男と向き合ったのだった。
「ぇ……っと……………。あんた……誰? 俺と知り合い? じゃないよな」
「……」
「てか、どうしてそんなところにいるんだ? 酔ってるのか? ぁ、それで助けてって?」
「………違う」
「じゃ何で……」
「………」
うるうるっと見つめられて思わずたじろいでしまう。来太は足首を掴まれたまま困り顔で頭を掻いた。
「ぁ…あのさ、俺今からコンビニ行きたいんだけど」
「俺も」
「ぇ?」
「俺も行く」
「………それは…あんたの勝手だけど…酔ってるわけじゃないんだよな?」
「うん」
「じゃ、何で助けてなんて」
「…」
今まで足首を掴むためにしゃがんんでいた男が一気に立ち上がる。当然のことだが直立すれば背丈はそれなりになるだろうと思っていた。ただそれが思っていたよりも大きかったりすると、ちょっとギョッとなるわけで……。来太は反射的に手で身を守るようなしぐさをしてしまったくらいだ。
「……ちょ…デカくない?」
「コンビニ、行こ?」
「ぅ…うーん。いいけどぉ…………」
自分もそんなに小さいほうではないと思っていたのだが、頭ひとつ分くらい差があると、さすがにちょっと驚いてしまうと言うものだ。相手に驚いているのを気にしてもらえずにちょっとがっかりした来太だが、表向きはそんなの気にしてないふうに歩きだす。後ろからくっついてきた大男は、坊ちゃまと執事よろしく、まるで最初から一緒にいるように違和感がなかった。
●
コンビニの弁当コーナーに行くと、男もついてくる。
「んー」
陳列されている弁当を物色していると、後ろから同じように男も陳列棚を隅から隅まで眺めてきた。
「ぁっ…」
「ん?」
「もしかしてもしかしたら腹…とか減ってて行き倒れ寸前だったんじゃね?」
「……………」
ニコッと笑った男を見た来太は、ようやく事の成り行きが分かって大きくため息をついた。
「だったら最初から言えよ」
「………ごめん」
「いいよ。あんたも買って」
「………ほんと?」
「ああ。ただし俺、あんまり金ないから高い物パスな」
「………うん。あんたいい人」
もう一度ニコリと笑った男は、一番安い鮭弁当を手に取り来太に渡して来たのだった。
「ほんとにこれでいいのか?」
「うん。でも……」
何かが言いたそうに言葉を濁らせる男に、来太は振り向きながら顔をしかめた。
「お前な…。俺が親切に言ってやりゃあ、いい気になりゃあがって」
これ以上高い物ねだってみろっ?! と睨みつけると、困った顔をして違う違うと両手を横に振った。
「んだよっ!」
「俺、料理出来る。ご飯と野菜ちょっとあれば料理するよ?」
「………」
「そうすれば、きっともっと安い」
「………」
最後の一言に負けてしまった。
来太は男の言う通り、白いご飯と、もう少し歩いたところにある八百屋で野菜を手に入れると家路についた。
●
「って! それじゃ、お前を家の中に上げなきゃなんないじゃんかよっ!!」
「そういうこと。でも俺、悪さしない」
「あったり前だっ!」
男の言葉に流されて買った荷物は、いつもより多い。が、確かに値段はいつもより少なかった。
男をつれて帰って来た来太は、半分やけっぱちで玄関のドアを開けた。
「どうぞっ!」
「ありがとう」
来太が先頭になって部屋に入り、男が後ろから続く。玄関で靴を脱ぐと、部屋に向かって歩きだすが、振り返りながら男を見てみた。
自分よりも背も高くてガタイもしっかりしている彼は、少し伸びた黒髪を後ろで縛り、そんなに身なりも汚くない。それよりも来太のほうが色々と汚いかもしれなかった。部屋がそのいい見本で、脱いだ服がそのまんまになっていたり、ゴミ箱がゴミで溢れていたりと、人よりも物の占める面積のほうが多かったのだ。来太はそれを脚で退けながら照れ笑いをすると男に話しかけた。
「あんた…名前は?」
「………雉」
「雉? 鳥の?」
「そう」
「ふーん………」
「………」
「ん?」
その次を期待する目で見られて、思わず言葉を詰まらせる。
「俺?」
「うん」
「俺の名前は来太。松瀬来太」
「あんたの名字は? 俺、フルネーム言ったぜ?」
聞くと、男は「どうしようかな…」と顔をそらしてから、もう一度来太を見て「
「………なんだ。ちゃんとした名前あるじゃん。しかも俺よりカッコイイじゃん」
「………でも」
「………あのさ。その途中で話やめるの、やめてくんないかな。イライラするから」
「………うん」
「じゃ、飯作ってよ」
「うん」
ワンルームしかない部屋のちょうど風呂の横に作られたキッチンは、部屋と対面式になっていて小洒落ていたのだが、ほとんど使われていなかったために綺麗だった。
来太はいつものように部屋に座り込むとテレビのスイッチを入れた。
「雉」
「うん?」
「お前、今いくつ? 俺、20」
「俺…は………24?」
「なんだ、年上じゃん。で、何であんなところで蹲ってたんだよ。家近いのか?」
「…………うん……。近かった」
「えっ? 何、その過去形」
「……」
「……もしかして家、追い出された系?」
「………へへへ」
「あー………」
雉が言うには、仕送りも滞りぎみにになり、かといって自分で稼ぐ金には限りがあって、結局生きていくのに精一杯で家賃を払えなくなって追い出されたと言うことらしい。
「じゃあ、学生なんだ」
「うーん。……だった?」
「………じゃ、今はなに?」
「フリー?」
「プーだろっ?! じゃ、こんなとこいないで、さっさと故郷に帰ればいいじゃんっ!」
「でも帰っても仕事ない」
「で?!」
「…」
「道端で行き倒れてちゃ何にもなんないじゃんかよっ!」
大声をあげてしまったが、雉は力無く笑うばかりで、来太の言った言葉の意味を真剣に捕らえている感じはしなかった。
「分かってんのかっ?!」
「うん……」
「じゃ、何かしようとしろよっ!」
「うん。………今ご飯作ってる」
「そうじゃなくてっ! あーもぅぅ……」
あんまり危機感がないのかもしれない。雉は来太をチョロチョロと伺いながらも、けして嫌そうな顔はしなかった。
「出来た」
「こんな短時間で何作ったって言うんだ」
あんまり期待はしてなかった来太だが、部屋中に漂う匂いは紛れも無くおいしそうで、実物も見ていないのにゴクンと生唾を飲み込んでいた。
「出来合いだから、そんなに満足なものは出来なかったけど」
と言って出したのは、炒飯とスープだった。
「ふ…ふんっ…」
たかが焼き飯と汁くらいで。
旨そうだとか言ってしまうと、もうそれだけで負けてしまったような気がした。来太は、強がって鼻で笑いながらそれを受け取った。
「皿、ひとつしかなかった」
「当たり前だ。俺は一人暮らしなんだから、余分な皿なんてありゃしないってのっ!」
「だから俺、フライパンで食う」
「ぅ…うーん………」
相手を気にしながらもパクッと一口食べてみる。
う…旨い………。
認めたくはなかったが、同じものを使っても自分は今までこんなに上手に出来たことがない。ガックリと頭を垂れるとじっくりと口の中のものを噛み締める。
「う…旨いですっ………」
「そう? 良かったぁ………」
心底嬉しそうにただ喜ぶ雉を見てしまうと、邪念とかないんだろうな……と思えてしまう。猜疑心を払い去った来太は、今度は好奇心を丸出しにして相手と向き合った。
「雉、お前もしかして料理屋とかで働いてた?」
「んっ?」
「いや、飯旨いから」
「……うん。厨房入ってたこともある。でもバイト」
「へ…へぇ…。じゃあ職なんて見つけようと思えばすぐに見つかるんじゃないのか?」
「それがなかなか……」
最後に「住所ないし」と付け加えた雉は、悪気もなく笑うとフライパンの飯をほお張ったのだった。
●
いつの間にか、本当に自然に来太の部屋には雉がいた。
自称賄夫(まかないふ)の雉は、食事の支度・洗濯・掃除をこなし、デカイ図体が邪魔にならないようにと対面式のキッチンの中で寝起きを繰り返していた。
「あのさ、別にお前そこで寝起きしなくてもいいんだぞ?」
「うん。でもここが一番ちょうどいいから」
「………そうか?」
「うん」
別に気負っているわけでもなく、綺麗に片付けられたキッチンはサイズ的にも雉が寝るにはちょうど良かった。
雉と一緒に住むようになって、来太の部屋はゴミがなくなった。男が二人で住んでいるのだから面積的にも残るスペースは決まっていると思うのだが、何故か狭さを感じない。 それもこれもたぶん雉が掃除を怠らないでやってくれたり、彼自身がキッチンから自分の生活スペースを出そうとしないからだ。それには有り難いとも思うし、当然とも思う。けど、自分より大きな体の彼がそんなに狭いところで生活しているかと思うと、ちょっとばかり可哀想にもなってきてしまうのだ。
「やっぱりさ、お前もこっちで寝起きしろよ」
「…………生活費、払えるようになったら」
「うん、まあそうなんだけど……。何て言うか………何か俺、お前をいじめてるみたいで嫌なんだよっ」
「……俺は、そんなことないよ?」
「うん、でも……」
言う言葉をなくしてしまった来太だが、どうにもしっくり来ないからキッチンまで歩いて相手の使っている寝袋を引っ張った。
「俺が来いって言ってんだぞっ?! いい加減言うこと聞けよっ!」
グイッと寝袋を引っ張りながら暴言を吐く。それを取られまいと引っ張り返していた雉が「駄目だよっ」と申し訳なさそうに口走った。
「何で駄目なんだよっ! 俺がいいって言ってるのにっ!」
「だ…って俺………、そんなことしたら自制が効かなくなっちゃうからっ………」
「…………ぇ?」
「あの………ごめん…。俺…………」
ビックリして握っていた寝袋を手放してしまった来太は、言われた意味がよく分からなくて口をぽかんと開けたまま疑るように相手を見た。
「今…何て? どういう意味?」
「ぅ…ウーン……。何て言うかな……。俺、近くに誰かがいると抱き締めたくなっちゃうっていうか……………」
「………それって、抱き締めてスリスリとか?」
「ぅ…うーん………」
「うぉぉ……何お前、ナントカフェチとか言うヤツ?」
「なっ…なんだろう、それ……」
でも抑えが効かないほど抱き締めたくなっちゃうんだ、俺を。
それを思うとブルブルと夢中で頭を横に振ってしまった来太だが、すぐにそれにも打開策を思いつく。
「だったらアレだよな。おっきなぬいぐるみとかあればいいんだっ」
「………ぅ…うん……まぁ、たぶん……」
「そっか、そうだよな。さっそく誰か持ってないか聞いてみるかっ」
はははっ! と得意になってみるが、何かがどこかずれている。だけどそれがどこだかはっきりしないまま来太は笑ってみせたのだった。
●
でもそんなこと言っても、そうそう簡単に大きなぬいぐるみなど見つかるはずもなかった。やっと見つけたとしても、目的があるから所有しているのであって、いらないわけではないものばかり。
「なぁなぁ、それくれよ」
「ふざけんなよっ。俺の可愛いメメコを何でお前なんかにやんなきゃならないんだよっ!」
「なら貸してくれよ」
「どのくらいっ?!」
「しばらく」
「お前の『しばらく』は、どの程度なのかが明白じゃないっ! よって却下っ!」
「えぇぇっ……………」
せっかく友達である鹿島のアパートで大きめなぬいぐるみを見つけたと言うのに交渉にもならない。普段行き当たりばったりばかりの生活をしているので、仕舞いには誰に聞いてもOKは取れなくなってしまっていたのだった。来太は茶色の髪の毛をグシャグシャに掻き乱して叫んだ。
「あー、誰も貸してくんねぇぇ!」
「それは単に日ごろの行いが悪いからだろっ?」
「がぁぁぁー!! ムナクソ悪いわっ!」
散々鹿島の家で不平不満を叫んでから仕方ないので家路に着く。するとそこには女房よろしく、いつでも暖かい食事が待っていたのだった。
「おかえり」
「うん。ただいま」
玄関を入ると、いつも明るく声をかけてきてくれる。そんな雉が大好きだった。
「今日もさ、おっきなぬいぐるみ探せたわけよっ! でも誰も貸してくんないのっ! どうしてだと思う?! 俺の借り方が悪いからかな」
「………そんなに無理しなくても大丈夫だよ? 俺、ここででも寝られるし、生活出来るから」
「いや。そういう問題じゃないっ!」
「……?」
「これはだな、俺の面子と言うか…。とにかく、今のままじゃ、俺の気が収まらないんだよっ!」
「……ふーん」
「だからなるべく早くお前をそこから出して、ちゃんとしたところで寝かせるっ! それが俺の使命だったりする」
「…ふーん………」
小首を傾げ、相手の意図を掴もうとする雉に、バツが悪そうな顔をして咳払いをするとそっぽを向く。どうしてこんなに躍起になっているのかが自分でも分からないのだが、どうしても来太は現状を打破したかったのだ。
●
「や…や……やったぁ! 本当か?! 本当に貸してくれるのか?!」
昨日は頼み込んでも貸してくれなかったのに、今日になってコロッと態度を変えてきたのは鹿島だった。鹿島とは同じ学部でアパートも近かったから、何かにつけよく頼み事をしていたのだ。見た目がちょっとインテリくさくて、何かにつけて理屈っぽいところを除けば、とてもいい奴だと言えた。
「あ…ぁぁ。何か昨日のお前を見てたら哀れになってきたからな」
「何だ、その哀れって」
訝しげな顔で相手を見ると、鹿島は苦しげに笑って「ただし」と付け加えた。
「んだよっ!」
「ただし、一日だけだぞ」
「一日?! たったそれだけ?!」
「ああ。嫌ならそれで終わりだ。そもそも俺が俺の可愛いメメコをお前なんぞに貸してやるなんて気になったほうが、奇跡に近いんだ。嫌なら即座にそれで終わり。一日でも貸して欲しかったら今から来い」
「うん。行くっ!」
これについては、迷わずに「うん」と即答できるのだが、やはり借りる日にちが短すぎる。道すがら考えた来太は、いったん借りてしまって、それからズルズルと日にちを延ばしていけば、少しは長く借りられるのではないだろうか…とか悪巧みを企てていた。要は「借りてしまえばこっちのもんよ」と言う考えだ。
「鹿島。お前っていい奴だよな」
「今頃分かったか」
「いや、前から分かってたよ」
などと褒めちぎる。だけど「一日な」と念を押されて、うわべだけ「うんうん」と返事を繰り返した。
「メメコぉぉぉ」
ラブ。と最後に付きそうなくらいデレデレな顔をした鹿島に、内心ウゲッとなりながらも顔には出さない。後ろから友達とぬいぐるみの抱擁を我慢して見ていた来太に鹿島が振り向いた。
「一日だけだからなっ?!」
「ぅ…うん」
「じゃあね、メメコ。一日旅行に行っておいで」
チュッと唇を重ねると、もう一度ギュッと抱き締めて無理やり来太に押し付けてくる。押し付けられた来太は、ぬいぐるみに顔を圧迫されながらメメコを受け取ると顔をヒクつかせながら礼を言ったのだった。
●
「やったよっ! やっと貸してもらえたよっ!」
鹿島の家から自分のアパートまで、大きなぬいぐるみを抱えながら狂喜乱舞する。その姿はちょっと異様にも見えるだろうが、そんなことは構っちゃいられなかった。
「やった! これで雉の奴、キッチンから出せるぞ!」
それで何が得になるわけでもないのだが、何故か嬉しい。たぶん一緒の部屋にいるのに分裂しているみたいな感覚に違和感を感じていたのだ。
だから平等でいたいんだ。
そう思うと自分の行動にも納得出来るものがあると思えた。
「雉っ! 雉!」
「……」
喜び勇んで自宅に帰って来ると、カギは空いているのに雉はいなかった。
「どこ行ったんだ……」
ベランダか? と思って目を向けるが、そこにも雉がいないのは一目瞭然で、だったらどこにいるんだろう……と首を傾げる。
「………」
そういえば俺、俺がいない間の奴の行動全然知らないし………。あいつ、どこで何してるんだか………。
そもそも相手にカギも渡してないことに気づきもしないで、来太は抱えていたぬいぐるみを床に放り投げると口をへの字に曲げたのだった。
それから三十分。大きめな荷物を下げた雉が自宅に帰って来た。
「あれ? 来太、早いね」
「早いねじゃねぇっ! どこ行ってたんだっ!」
「……ごめん。ちょっと食料を探しに……」
「食料?!」
「うん」
「………」
見ると雉は履いているスニーカーを泥で汚していた。よく見れば着ているシャツも汗ばんでいるし、徒歩で結構な距離歩いて散策がてらの食料探しをしている様子だった。
「お…まえ、どこまで行ってんだ?」
「うーん。土地勘養うために歩いてたから、よく分かんないんだけど……二駅・三駅は歩いてるかもしれない」
「って…何やってんだよっ!」
「ぁ、カギ? ごめん。カギもらってなかったから、トラップ仕掛けてったんだけど……」
「トラップ?」
「ほら、それ」
指さされた方向を見てみると、そこには一片のテッシュが落ちていた。
「これをドアの上のところに挟んで閉める。外に出たところは突っ込むとか千切るとかしておけば大丈夫。誰か入ってきて何かなくなったら困るから、あんまり出歩かないようにしてたんだけど…ごめんね?」
「……………ごめん、俺……。お前のこと、考えてるようで実は全然考えてなかったのな」
「………そう?」
「うん。…ごめん」
言われて自分が雉にカギひとつ渡してなかったのに、ちょっとショックを受けていた。
何が対等だ。何が平等だ。
これじゃ俺が奴を閉じ込めてるだけみたいじゃないかよっ。
誰にも言われてはいないが、まさにそんな感じに来太には感じられたのだ。だから照れながら「ごめんね?」を繰り返す雉にムッとしたりもした。
「どうして……」
「ん?」
「どうしてお前は、いっつもそんなんなんだっ!」
「ぇ…何が?」
「どうして…そんなにヘラヘラしてるんだよっ! 俺、お前のこと」
「ストップ」
「え……?」
「それから先は言わないで。俺、来太と一緒にいたいから。ケンカしたくない」
「……………ごめん。悪かったよ。カギひとつ渡してなかったなんて……。自分が情けなくて………」
「俺も勝手に家出て不用心でごめん」
「俺…俺さ、ほんとごめんな。嫌がらせとか、下僕扱いとか、そんなんじゃなくて、ただ単に忘れてたってだけだからっ! それに俺、満足にお前に食費も渡してやれてなくて…。お前、それでも立派にちゃんと食事作って…。それ、何でか全然考えなかった。ごめん」
「………来太が俺のこと好きでいてくれるから一緒にいられる。俺、ここに置いてもらえて幸せだと思ってるんだけど、それは間違い?」
「間違いじゃないよ。でも…」
「今もそれ、借りられたから急いで戻ってきてくれたんだよね?」
ニッコリとして床のぬいぐるみを指さされると、ハッとメメコを抱き上げた。
「そ…そう、これっ! これ、友達から借りてきたんだ。だから雉、今夜はこっちで寝ろよ?!」
グイッとそれを差し出して「抱け」と催促する。出された雉は来太とぬいぐるみを交互に見ると、苦笑して、戸惑いながら抱き締めたのだった。
「どうだ? その感触」
「……ぅ…うーん………。微妙に違うような……」
「何が違うんだ? やっぱり素材とかか? でも俺、もうそんな大きなぬいぐるみ持ってる奴知らないんだ。それも無理言ってようやく借りてきて…」
「うん。分かってる……」
「じゃあ約束な?! 絶対だぞ?!」
「………うん」
最後まで雉は困ったように踏ん切りのつかない顔をして来太を見つめていたが、来太はここで折れるわけにはいかなかったので、何とかにしろ返事をもらえたのは嬉しかった。
「じゃ、俺学校にもどるわ。夕方には帰るから」
「うん」
苦笑しながらも何となく嬉しそうな雉を見た来太は、やっと安心して学校にもどったのだった。
そして夕方。なけなしの金から合鍵を作り自宅に帰る。自宅には大きい体をキッチンでせかせか動かしている雉がいた。
「おかえり。食事まだだよ?」
「うん。それよりこれ」
ポケットの中から探り当ててジャラリとそれを取り出す。
「………」
「これ、持ってないと大変だろうから」
「でもさ…。俺をそこまで信用しちゃ駄目だよ」
「何で? 他人だからか?」
「…うん。俺、どこの馬の骨か分からない奴なのに………」
「………でももう俺のルームメイトだし」
「ルームメイトじゃないよ。ただの居候だ」
「そんなのは俺が決める。とにかくこれは受け取れ」
グイッとその手に握らせると、上から自分の手で開けないように握る。
「いいのか? そんなに信用して」
「ああ。って言うか、何日一緒に暮らしてると思ってるんだよっ」
「ぅ…うん………」
またまた困った顔をする雉にニッコリとほほ笑んだ来太は、その場にそのままいるのが恥ずかしくて背中を向けた。
「俺、風呂入るから」
「ぁ、まだ湯を入れてないんだけど」
「入れながら入るから大丈夫だよ」
後ろを振り向けないまま言葉を出す。それは自分でもちょっと顔が赤くなっているのではないかと思ったからだ。
何で赤面してるのか。その意味を聞かれるのが困るから振り向けない。来太は足早に部屋に行くと着替えを持って風呂場に急いだ。
秋近くなったとは言え、まだまだ暑い。来太は違う意味で出た汗に首を傾げながらも口元は笑っていた。
「俺って馬鹿かな………。馬鹿でもいいや。雉がいてくれれば」
食事をしてしまうと、いつもはキッチンから出て来ない雉を部屋に引きずってきて一緒にテレビを見ていた。
「………」
「………」
来太は雉に借りてきたぬいぐるみを抱かせて座らせ、その膝に頭をおいて逃げないように腰を抱える格好で横たわっていた。
「………さすがに、これは暑いんだけど………」
「うん。俺も暑い。だけどいいんだ。離れるとまたすぐにキッチンに戻っちゃうといけないから」
「ぅ…うーん………」
考えていたことを当てられたのか、雉はポリポリと恥ずかしげに頬をかくと、テレビではない別の方向を見た。
「来太。カギ、ありがとう」
「うん。気が付くのが遅くてごめん」
「………カギもらったから、俺も仕事探すよ」
「ぇ………?」
そんなつもりでカギを渡したつもりはなかったのだが、引き留めることもちょっと違う感じがする。来太は雉を見上げながら何か言おうとして口を開けたが、そのまま何も言わずに雉の膝に顔を埋めた。
「………」
俺、今なんて思った?
家に帰ってくれば雉がいるものだと思い込んでいたことに気づく。それが当たり前だとも思っていたと気づく。
俺………。こいつに何求めてんだろう………。
それが何かが分からなくてちょっと複雑な気持ちになってしまった。
「来太?」
「………うん。それもいいかもしれないな。けど………俺、雉って俺が帰ってくればいつもいるものだと思い込んでた。ごめん」
「……」
「…そうだよな。雉だって金稼いで自分のしたいことしなくちゃいけないんだよな」
うん。そうだよな。
自分に言い聞かせるように言葉を出すと雉の顔を見る。雉は素っ頓狂な顔をして来太を見返してきた。
「そうじゃなくて?」
「ぇ?」
「俺に早く仕事を探せってことじゃなくて?」
「俺がカギを渡したのは、別に仕事探して早くここ出てけみたいなことじゃないんだぞ?!」
「…」
「俺がカギ渡したのは、昼間出歩く時に不便だろうって思ったから」
「うん。でも真実はそこじゃないって思えたから……。俺、深読みし過ぎ?」
「……………うんっ!」
俺は、お前にそばにいて欲しいの!
言おうとしたが口には出さずにギュッとしがみつく。来太は雉の考えていることが分からなくて戸惑うばかりだった。
●
「ありがとう」
「いや、いいけど………」
一日と言う約束で借りてきたメメコのお陰で、一日雉をキッチンスペースから脱出させられた。昨日は二人して隣り合って寝られたのが何だかすごく幸せに思えてしまったが、二人の間にはぬいぐるみのメメコがドシンッと陣取っていたのだった。
来太にしてみれば寝起きの気分は最高に悪い。だけどメメコの向こう側に雉がいると思えばデカイだけの布一面にも耐えられた。
雉にしてみれば、とりあえず大きな何かを抱えて眠られた幸せは大きいらしい。遠慮してキッチンから出てこなかったと言うのに、今日は朝から嬉しそうだからだ。
「これ、一日しか借りられないんだけど……俺、交渉しようか?」
「いい。感触覚えたから」
「………そうか?」
「うん」
本人がそれでいいのなら来太としては承知するしかないのだが、それにしてもどうしてこの布に綿が入った感触がいいのかが分からない。来太は雉からぬいぐるみを受け取ると学校に行くついでに鹿島の部屋に寄っていた。
チャイムを鳴らすと半分眠っている奴が玄関から顔を出す。
「ふぁい………」
「なんだ、まだ寝てるのか」
「んー」
「ほい、これ。ありがとな」
「おー。お前にしちゃ、やけに律義なんじゃないか? 一日って言って一日で返ってくるなんて」
ぬいぐるみを受け取りながら言う鹿島に、来太がカチンときて顔をしかめる。
「お前は、言っていいことと悪いことの差が分かってないらしいなっ」
「分かってるさ。お前みたいな奴にそんなことが言えるのは、俺様くらいだってのも分かってるつもりだけど?」
瞳の奥が笑ってない笑顔をされて、ちょっと身が竦む。来太は顔を引きつらせながら自分も笑って見せるのが精一杯だった。
ぬいぐるみを返してしまっても引き続きキッチンから出て生活してもらうにはどうしたらいいのか。考えたが答えは出ていない。来太は夕食を食べると、夜のバイトに出掛ける前に雉に話しかけた。
「俺、今からバイト行くけどさ。帰ってきてキッチンで寝てたら水かけるからな」
「…」
「ちゃんと俺の横で寝てくれよ」
「………うん……」
「絶対だぞ?!」
「うん……」
こそばゆいような言葉だな、などと思いながらも言わずにはいられない。確認して、もう一度確認して、ようやく胸を撫で下ろす。そんな感じで来太はバイトに出掛けたのだった。
●
「………」
バイトから帰って来ると雉は言われた通りちゃんとリビングで眠りについていた。ホッと胸を撫で下ろして彼の横に敷いてある布団に自分も横たわる。疲れていたのでそのまま眠りについてしまったのだが、しばらくすると自分が抱き着かれているのが分かった。
雉……?!
一瞬ビックリして跳び起きそうになってしまったが、どうやら相手はまだ夢の中らしい。気持ち良さそうな息遣いを聞いていると、自分の上から彼を退かすのがためらわれてしまった。
「ぅ……んっ………」
小さく頷きながら何やら返事をしているようだ。
夢でも見てるのかな。
自分も夢うつつで考えて、また深い眠りにつこうとした矢先、雉の指がモゾモゾと動き出したのに「ん?」と違和感を覚えた。その指は最初来太の肩と布団の上にあったのに、今は来太の体のラインを確かめるように動き回っている。上から下に、はたまた腹から背中を確認するような奇妙な動きに、されている来太の目は確実に覚めていった。
「ちょ…雉……? 何やってんだ………?」
聞いてみるが返事は返ってこない。それどころか今度は覆いかぶさっている体が明らかに起きている時のように動き出したのでタチが悪かった。雉の息遣いが粗くなり、何かを味わうようにペロペロッと舌が動く。
「き…雉っ…! やっ…やめっ…!」
それでも雉は来太の体を弄り続けた。来太は抗いながらも股間を探り当てられて下着の上からモノを揉まれると息を荒くするしかなかった。
「やっ…やめっ……雉っ……雉っ……」
手に手を重ねて引きはがそうとするが、相手は反対の手で下着を脱がせてきた。来太は簡単に下半身を脱がされてしまい、直にモノを触られ、しごかれながら後ろの穴に指を突っ込まれると、体をヒクつかせた。
「こ……んなっ……」
こんなことって……。有りなんだろうか……?!
自分がされていることが理解出来なくて戸惑うばかりの来太だが、雉はまだ覚醒してないのか、目を瞑ったまま行為を続けている。
「雉っ…雉っ……!」
「………」
「雉っ…たらっ……ぁ………ぁ………」
されれば感じる体に最初は恥ずかしくてたまらなかったが、しごかれて後ろの穴を刺激されると、別の何かが目を覚ますような感覚に陥った。自分の顔の近くにあった雉の顔がだんだん下に下がっていって胸の突起を口に含む。
「んっ…」
舌でペロペロと舐めあげて、形をなぞるように舌先を動かす。それから吸ったり歯で噛んだりと執拗に責め立ててくるので、来太は初めてむせび泣いた。
「ぅ……ぅぅ…ぅ…………」
嗚咽をこらえて胸に止まる相手の髪に指を絡ませる。それが合図のように雉は来太の秘所への攻めを強めた。ズブズブと差し込む指を増やし、もっと奥へと攻め込んでくる。だけどしっかりと根元まで入れられた指は、それ以上入るに入れなくて行き場がないから出し入れが開始される。
「やっ…雉っ……雉ったら……ぁ………ぁ…!」
来太は体を弓なりにするとビクビクッと体を震わせて射精していた。
「ぅ…ぅぅ………」
吐き出した精が雉の手の中に溜まり、指の隙間から流れ出てくる。それを気にしていると、雉が顔をあげて唇を近づけてきた。
「ぁ………んっ…ん…………」
気づいても抵抗する気が失せている。来太は、股間を握られたまま首の根っこを掴まれて口づけを受けていた。ペロリと唇を舐められると舌と舌を絡ませる。
「ん……んんっ……」
何度も角度を変えてキスをしている内に、握られている股間のモノがまた元気になりかける。
この時になると来太は雉の首に手を絡ませながら、自分のモノを握り続ける雉の手に手を重ねていた。そして彼の手ごとモノをしごきだし、粗い息を隠そうとはしなかった。それどころか、後ろに入れられた指の出し入れのせいで、どんどん気持ち良くなって欲張りになる。来太は自ら体を寄せて相手の腰に脚を絡ませると体を密着させる。
「ん……き…雉っ……。もっと……。もっと強くしごいてっ……。ぁ……もっと……指、奥まで入れてっ……」
「ぅ……んっ…ん…………」
だんだん積極的になってきた来太に対し、今まで攻めていた雉のほうが若干弱気になっているようにもみえる。それでももう途中で止められない。来太は秘所に差し込まれている指の出し入れを「もっともっと」とせがんだ。すると雉はうっすらと目を開き、来太の中に入れている指を引き抜くと、代わりに自分のモノをあてがってきたのだった。
「ぁ…」
「いい…………?」
「ぅ……んと………」
「駄目……?」
「そ…んなこと…ない。………………いいよ、入ってきても…………」
それを聞いた雉の顔がにっこりとほほ笑む。目を開けた雉は徐々に覚醒しているようだが、まだ完全ではない様子で。それでも来太の要望に応えようとしてくれているのが伝わってきたので、大胆な言葉も難無く言えた。雉は押し当てていた先端を穴の回りに塗りたくると、躊躇なく一気に奥まで突き入れてきた。
「ぅ……」
「ぅぅぅっ………!」
勢いよく入ってきたそれは、今まで入ってい指とはまったく違う感覚で太くて熱い。体を貫く勢いで入り込んでくるそれに、来太は息も絶え絶えになりながらも自分のモノをしごいて気を紛らわせていた。
「もっと?」
「ぅ…ぅぅんっ……! ぅんっ………」
「もっと?」
「ぅ………ぅんっ…! ぁ……ぅ…………んっ! んっ! んっ……!」
何度も同じことを聞かれながら腰を打ち付けられて答えらしい答えも出来ない。来太は圧倒的な勢いに戸惑いながらも与えられる快感を貪るように味わっていた。
「ぁ…ぁ…ぁ……きっ……雉、俺でっ…出るっ……!」
「ぅっ…!」
ほとんど二人同時に、来太は自分の手の中に、雉は来太の中に精を吐き出していた。双方の体が脈打つのがいやでも分かってしまう。来太は今まで握っていた自分のモノから手を離すと、雉に抱き着いていた。そして雉はと言えば、口をぽかんと開けて呆然としていたのだった。
「雉っ…俺……………」
「ごめん来太。俺、こんな………」
「してから謝るな」
「でも俺っ………」
「いいからちょっと黙ってろ」
「ぅ…うん……………」
それからしばらく雉は黙り込み、来太は余韻に浸っていた。ギュッと相手を抱き締めると、まだ出していない彼のモノを咥え込む。
「来太………」
「まだだ」
「ぇ…」
「まだ黙ってろ」
「うん…………」
自分の気持ちが落ち着くまで。来太は雉を抱き締めて咥え込んだまま考えた。
どうして………。
どうして雉が自分と一緒に寝たがらなかったのか。その意味がようやく分かった。雉はこうなるのが分かっていたから、きっと自分なりに防衛線を張っていたのだ。それなのにそれを自分が取っ払ってしまった。
だから雉は何も悪くない。うん。きっとそうだ。
来太は大きく深呼吸すると、抱き着いていた体を離し、自分の中に入り込んでいる彼のモノをズルリと出しながら立ち上がった。
「来太っ…!」
「黙れ」
「ぁ…うん………」
心配して声をかけてくる雉を残してトイレに駆け込むと、腹の中にある相手の出したものを絞り出す。そうしてからやっと落ち着いて相手と向かい合ったのだった。
「雉」
「ぁ、はい」
「お前、俺にしたこと悪いと思ってるのか? いや、その前にお前、自分のやったこと覚えてるのか?」
来太は真剣な顔で相手に訊ねた。雉はその場で正座すると、膝の上においた拳をギュッと握り締めてうつむいた。
「う…うん……。ごめん、来太」
「悪いと思ってるのか?」
「……うん」
「悪いと思ってるのか?!」
「ぅ…うん………」
「じゃ、俺の気持ちはっ?!」
「………ぇ?」
「俺、お前のこと失いたくないんだけどっ!」
「それは…俺だって…………」
「なら謝るなよっ!」
「だっ…だって!」
「俺、今お前にいなくなられたら困るっ!」
「それは…家政夫として?」
「ばっかっ!」
情けないことを言うもんだから、ついつい手が出てしまった。来太は雉の頭をポカッと叩いてから、慌てて「ごめんごめん」と撫でていた。
「あんまりお前がとんちんかんなこと言うから……」
「…………でも、俺の価値ってそのくらいしかないし………」
「あのさ、俺、言い方変えればお前に犯られちゃったわけよ? それを非難してないんだけど」
「……ごめん」
「………これじゃ最初に戻っちゃうから、俺の言うことにイエスノーで応えろ」
「ぅ、うん」
「じゃなくて?!」
「ぃ…イエス」
「お前、俺のこと好き?」
「…イエス」
「じゃぁ、さっきの行為は、意図的・作為的じゃない」
「イエス」
「自分じゃ、どうしようも出来ない」
「イエス」
「あのせいで、今までキッチンから出てこなかった」
「………イエス」
「今までも何度か…こんなことがある……」
「………イエス」
「雉は、抱き締めるものに執着する?」
「…………たぶんイエス」
「嫌いなものは…抱き締める対象にならない」
「イエス。うん、イエス」
「雉は…俺のこと好きだからあんなことしたっ」
「……たぶんイエス」
「でもそのことをよく覚えてない」
「イエス………」
「悔しい?」
「イエス!」
「もういいよ。これはお前も悪いかもしれないけど、俺のほうが悪いと思う。だから謝るな」
「だ…けどやっぱり俺は来太を傷つけたと思うから…」
「お前、もっと自分のこと心配しろよっ」
「えっ?」
「それ、病気だろ?」
「分かんないよ、そんなの……」
「じゃ、俺に迷惑かけた代償として命令していい?」
「ぇ? ぁ、うん………」
雉は何を命令されるのか、ドキドキしている様子だったが、逆に来太はにんまりとしていた。
「以後、俺以外の奴と一緒に寝ないこと」
「それだけ?」
「…それだけって、よく言うなぁ。お前、違う奴と一緒に寝て、もし今回みたいなことになったら、もう後はないんだぜ?」
「そ…れはそうだけど………。俺、来太に悪いことしたって言うのに……」
「だから言ってんじゃん。もう俺以外の奴とは駄目だぞって」
「………」
「分かんない? 俺たち、今からまた始まるんだよ。今度は恋人として」
そう言うと来太は、にんまりとしていた顔をもっと笑顔にして雉に抱き着いた。そしてチュッとほっぺにキスをすると、相手の顔をのぞき込む。
「ほんとに?」
「ああ。ただし浮気したら許さないからなっ」
「ぅ、うんっ!」
雉の顔は驚いていたのだが、来太の一方的な恋人宣言に心底嬉しそうにほほ笑み返したのだった。
終わり 20100216
タイトル「欲張りな夏の終わり」