タイトル「仮)男人魚と人の子と-1」
 失恋した。

 桜田琳太郎/さくらだりんたろう/は就職が決まって卒業まで後わずかと言う時になってバイト先の女子高生に告白した。
「やだ、桜田さんっ」
 バシッと肩を叩かれて冗談で済まされてしまった。
以後敬遠されるようにシフトをズラされた日が続いた。そのせいで辛くてバイトを辞めた。
と言うのは冗談で、そろそろ時期も時期だからバイトも辞めなくちゃならなかったからいいのだが、
そんな自分の真剣な告白を変なカタチでスルーされてしまいすっかり自信をなくしてしまったのだ。

「旅に行かないか?」

 夢の中で誰かがそんなことを言ってきた。
知ってる人の声ではなかったと記憶している。でも琳太郎はその言葉に誘われるように時間を調整して近くの海に来ていた。
冬の海なんてあまり人も来ないだろうからと言うのが理由なのだが、勢いで来てしまったのでまったくの一人旅だし
予定も立ててなかったから旅館にかばんを置くと歩いて海に行ってみることにした。
いくら冬の海と言ってもサーファーくらいはいるだろうから、暇つぶしに見物でもしようと言う魂胆だ。

 言われるままに石畳の路を海に向かってまっすぐに下る。
途中何匹もの猫に出くわしたりして心が和んだりして笑顔が漏れる。
そのまま数百歩歩くとそこにはもう海が見えていて夏なら走り出したい気分になるだろう光景だった。
ただ今は冬なのでそこから風が勢いよく吹いてきて向かい風に思わず怯んでしまうくらいだった。
それでも負けずに海まで辿り着くと海は荒れていてサーファーなんてひとりもいなかった。

「あーーーやっぱな………」
キョロキョロと当たりを見回すと漁船にも人なんていなくて重く垂れ込める雲だけがもうすぐ雨が降るよと教えてくれていた。
それでもやることのない琳太郎は海を見てから旅館に帰ろうと思って近くまで歩いた。
右に見える漁港を横目に左側にあるサーファーひとりいない砂浜に向かった。
海が荒れているので波打ち際には行かないで漂流物でも探すか………みたいな気持ちだった。
綺麗な砂浜はあまり漂流物もなくて、それなら貝殻とかないのかな………と下を向いて歩いていると人の足が見えて立ち止まってしまった。
「ぇ………? だっ…大丈夫ですかっ……?!」
 男の人が倒れているのだ。
慌てた。
すごく慌てて思わずガシガシ揺さぶって生死を確かめずにはいられなかったほどだ。
「ちょっ……やめてくださいよっ…」
「ぇ……あ、すみません…………。だって倒れてるからつい………」
「倒れてるんじゃなくて探しものをしてるんです」
「さ………がしものですか………?」
「そうですよ」
「こんな日に?」
「昨日雨だったんですよ。だから新しい物が来てるかもしれないでしょ。明日になったらなくなっちゃうかもしれないですからね」
 言いながらも男は琳太郎のほうなんて見ないでひたすら地面に張り付いて何かを探していた。
「あのっ、よろしければ俺も探しますよ?」
「へっ?」
「探しものでしょ?」
「え………ええ、まぁ………」
 あんたにそれが探せるのかな………? と少々疑り深く見られてギョッとなった。
こちらを振り向いたその顔がとてもイケメンだったからだ。
年は自分と同じくらいでたぶん立てば自分よりデカイ。
ハーフとか外人さん並に背が高いんじゃないかと思った琳太郎だが、
そのイケメンがこんなところで這いつくばってるなんていいんだろうか………と言う気持ちになっていたのだった。

「あなた、名前は?」
 言いながら立ち上がると体についた埃をパンパンッと払う。
それにも見とれてしまうほどカッコイイなと思ってしまう男だったが、ハッと気がついて慌てて取り繕うように言葉を出していた。
「俺っ……は…桜田琳太郎………。あんたは?」
「人魚田幸太郎」
「うっ………」
 明らかに嘘をつかれている。
琳太郎は顔をひきつらせたが相手はニッコリと満面の笑みを讃えながら近づいてきた。
顔がつくほど近くまで来られて思わず身を反らすとガシッと両方の肩を掴まれた。

「見つけたよ」
「はっ?」
「探しもの」
「そっ………そりゃ良かった。はははっ………」
 愛想笑いしか出てこない事態にどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
琳太郎は逃げるに逃げられず、ひたすら相手の出方を待つしかなかった。
ハグされてそのまま押し倒されると砂浜に倒れ込む。
覆い被さるカタチを取られてビックリしている内に下半身を膝までずらされてモノを口に含まれていた。
「ちょっ………! あっ……んた! やめっ………! んっ! んっ!んっ!」
 有無を言わせず含まれたモノを舌を使って転がされて吸い上げられて甘咬みされる。
こんな野外の寒い中、見知らぬ男にこんなことをされて喜ぶ男なんていやしないっ!
幸太郎はバシバシ相手の背中を叩いたりして何とかそれを阻止しようとしたのだが、
相手はそんなことお構いなしでこっちの変化を狙ってすごい舌使いで攻め立ててきた。
「うううっ………ぅ………うっ! う………っ」
 相手の行為が旨すぎて抵抗出来ない。
琳太郎は身をのけ反らせ、いつの間にか相手の髪の毛に指を差し入れて自分に押し付けていた。
「こっ…こんなことしてっ……! もっ……もうっ…! ぅぅ………ぅ……っ…」

 こんな刺激をされれば誰だってこうなるっ!

自分を正当化させながらも彼の舌や歯に翻弄される自分を思い浮かべてまた興奮した。


 彼は琳太郎が射精するまでずっと離れずにモノをしゃぶり続けてきたので、
ついに琳太郎は彼の口の中で果ててしまったのだった。
「おっ…前っっ………!」
 バシッと背中を叩くと相手はようやく頭をあげて顔を見せた。
その顔がちょっと照れくさそうにほほ笑んでいたものだから思わず言葉に詰まってしまった琳太郎だが、
いけないものはいけないだろうっ。
 こんな行為が許されるはずないじゃないかっ、と詰め寄ろうとして身を起こす。
砂で汚れてしまった尻を手で払いながら下着毎ツルンと身支度を整えるとまっすぐに相手と向き合った。

「こ…んなことして…いいと思ってるのかよっ!」
「すみません。久しぶりの摂取だったもので…ついついがっついてしまいました………」
「何言ってんだよっ! この…馬鹿っ!」

 こんなことこんなところで恥ずかしげもなく出会ったばかりの、しかも男にするなんて…どうかしてるっ!

 琳太郎はそう言いたかったのだが、それはうまく言葉にならなくて
ウガウガ言っているだけで風にかき消されてしまっていた。
 幸太郎だと名乗った男は琳太郎のそんな思いに関係なく砂場に座ったままお辞儀をすると
「初めましてマイハニー」と口にしたのだった。
「なんだそれ………」
「だから言ったでしょう。探しものが見つかったって」
「意味…分かんねぇ………」
「では、詳しく説明しましょうか。私とあなたの関係を」
「………」

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