DLsite用illustration  イラスト/明日さま



タイトル「最初はキスだろ?!」試読。

 くだらない賭けをして負けた。根津浅里(ねづ せんり)は、今、複雑な顔をせざるを得なかった。
「似合う似合う」
「……こんなの似合ったって、嬉しくもないよっ!」
「でも浅里は賭けに負けたんだから、俺の言うこと何でも聞くって約束、守ってくれないと」
「守ってるから、今こんな格好してるんだろっ?!」
 ヴーっ! と唸りそうになるのを何とか堪えて、洋服の裾をギュッと握る。
 お決まりであっても、なかなか実体験となるとしないだろうな…と言う格好。それは女装だった。
 短めのタータンチェックのプリーツスカートに、何てことない普通の黒い長T。黒いニーハイソックスに黒い靴。それに黒いボアのツバ無し帽。茶色がかったショートヘアに童顔な顔は、唇にピンクのリップをするだけで、可愛い女の子に見えてしまっていた。
「それじゃ、罰としてそこのコンビニでジュースと避妊具買ってきて」
「ぇ……ひ、避妊具?!」
「そ、可愛い女の子がそれ買うのって、かなり勇気いるよね? だからそれ、お願いします」
「かっ、簡単に言うなよっ! 俺、この姿で外に出るってだけでも、すっごい恥じなのにぃぃっ!」
「だからお願いしてんじゃん。負けは負け。潔いのが男と言うものでしょう」
「そっ、それは……そうだけど………」
 反論出来ないでいる浅里をその気にさせるのが旨い男、立松楠朗(たてまつ くすお)は、浅里と同い年。と言うか、同じクラスだ。そして幼なじみでもある17歳。
 どちらかと言えば楠朗のほうが女装が似合うだろうと思えるのに、絶対にそんなことはしない。漆黒の長い髪に銀縁の眼鏡。薄い唇をにっこりとさせて首を傾げると、こちらは唇を噛み締めるしかなくなる。ギュッとスカートの裾を握った浅里は、真剣に床を見つめると、グイッと右手を差し出した。
「んっ!」
「……なに?」
「金っ! 俺、こずかい前だから金がないっ!」
「しょうがないなぁ。じゃあ、はい」
 最初からそういうのを見通していたように、楠朗は胸のポケットから千円札を一枚取り出して浅里の手の上に置いた。それをギュッと握り締めた浅里は、口をへの字にさせてクルリと後ろを向くと出入り口に歩いた。
「いってらっしゃい」
「ヴっー!」
 後ろも振り向かずにそのままガチャリとノブを回す。浅里は勢いよく一歩を踏み出した。表廊下から外階段を降りて道の向かい側にあるコンビニに歩く。今の時間なら知らないバイトが入っているのを知っていた。だからその点では安心なのだが、とにかくこの格好はスースーして風通しが良すぎる。
 コンビニのドアを押して中に入ると、まずジュースの棚に急ぐ。
「どれでもいっか」
 適当に選ぼうとしたけれど、いざそうなると何故か選んでしまっている。
「あいつ、炭酸とかそんなに好きじゃないよな……。とすると、果汁ジュースか、それとも無難に水とかお茶のほうがいいのかな……。ぁ、お茶はさっき部屋にあったか…」
 ブツブツ言いながらペットボトルを見て回る。迷いに迷って右から左と三往復ほどしてから、ようやくガラスドアを開けた浅里は、ミカンジュースを手に取った。それから日常品の棚に歩いて一個売りのコンドームをパッと手にするとレジに持っていった。
「ぃ……らっしゃいませ……」
「……」
 俯いたままレジに二つの品を置くと、握っていた千円札も一緒に置く。相手がどんな表情をしているのか、見たくもないからだ。
 分かってるぞ、分かってるぞ。「ぷっ」って吹き出したいの我慢してるんだろっ。俺だってホントはこんな格好したくないのに、我慢してしてるんだからなっ。言うなよ。「似合いますね」とか「罰ゲームですか?」とか言うなよっ。
 言葉にはしないけど、必死になってそんなことを祈る。浅里は袋に入れられた品物とお釣りを手にすると一目散に店を出た。
 道を亙ろうとしながら上を見上げると、窓から見ていた楠朗がにっこりとして片手をあげた。それを見た浅里も、やったぞとばかりに袋を掲げて見せた。が、相手の手が浅里を制する。
「ん?」
 見ていると、相手がもう一個と指を一本立てた。
「何を?」
 それが分からなくて袋の中のジュースをちょっと出して見せてみる。だけど楠朗は首を横に振った。それじゃなくて、と言うことだ。
「えぇ〜。嫌だなぁ……」
 ホントに?
 ホントにするの? と、もう一度相手を見ると、今度は快く首を立てに振ってみせた。
「あ〜ぁ……」
 ガックリと肩を落とすと仕方なく身を翻して再び店に入る。そしてまたコンドームをひとつだけ取ると、とっとと済ませてしまおうとレジに持っていった。
「これ、お願いしますっ」
「ぁ、はい………」
 出された店員のほうが驚くほど、勢いよくそれをレジに置く。いくらかも分からないままだったから、今度はすぐに金を出すことも出来なかった。
「¥200になります」
「はいっ」
 高いのか、安いのか、それを考える間もなくお釣りの中から200円を出す。そして袋を開いてその中に入れてもらった。もうこの時には頬っぺが熱くなっていたので、きっと赤くなっていたんだろうな…と思う。
「ありがとうございました〜」
 心なし店員の声が明るすぎるような気もする。浅里は両手で頬っぺを押さえると、今度こそ、と次は上を見上げずに道路を渡った。そして来た時と同じように部屋に帰ると、勢いよくドアを開ける。
「お前っ、途中で注文変えるなよっ!」
「追加注文しただけだよ」
「んっ! んでっ、これがお釣りっ! これで終わりなっ!」
「駄目」
「何が駄目なんだよっ! もう終わったじゃんかよっ!」
「頼んだもの、ちゃんと買ってきたか確かめるから待って」
「……ちぇっ、ちっとも信用ないじゃん」
「違うよ。ただ確かめたいだけ。約束だもんね」
「ま、まぁそうだっ……」
 そう言われれば仕方ないな、と諦める。浅里は靴を脱いだ姿で腕組みをすると、相手が中身を確かめるのを待った。楠朗は袋を開けると、中からジュースとコンドームを二つ取り出してレシートとお釣りを見比べた。
「それでいいんだろ?!」
「うん」
「なら、罰ゲームはこれで終わりなっ!」
「駄目」
「えっ! 今度は何を言い出すんだよっ!」
「少し鑑賞させて」
「か、鑑賞?!」
「そ、鑑賞」
 楠朗は腕組みをしている浅里をクルリと回ると、真正面でしゃがみこんだ。
「……なに?」
「別に。そのまま、そのまま」
「そのままって………ぁっ! ばかっ、何見てるんだよっ!」
 楠朗は立っている浅里のスカートの中を覗き込んでいたのだった。とっさに前を隠すが、そんなことをすると今度は後ろに回られる。しゃがもうとしたところに厳しく「そのままっ!」と言われたので仕方なく立ち尽くす。
「お…まえ、何見てんだよっ!」
「いや、下着がね…」
「いーだろっ?! そんなトコ誰にも見えないんだからっ!」
「やっぱりねぇ……」
 今度は立ち上がりながら楠朗のほうが腕組みをする。
「その格好でボクサーパンツってのは、ないよね……」
「もう済んだことだ。脱ぐぞっ!」
「駄目っ!」
「お…まえ、我が儘すぎっ! 俺がどんなに恥ずかしい思いしたと思ってるんだよっ!」
「だってそれは罰ゲームだし。ある程度恥じらいとか、悔しさとか、なくちゃ駄目でしょ」
「そ、それは……そぅ…だけど……」
「ちょっと履き替えてみようか」
「嫌だよっ! それにそんなのないしっ!」
「あるんだな、これが」
「えっ!」
 声を出したとたん、「そういえば」とも思う。
 そもそも何でこの洋服があるのか、そこから不思議に思わなければならないのに、そんなこと何とも思わなかった。浅里は楠朗がクローゼットの中から紙包みを出すのを固まったまま見つめていた。
「はい」
 立ち尽くしている浅里に、楠朗が紙包みを押し付けてくる。それを仕方なく受け取った浅里は、とても複雑な顔をして相手を見つめた。
「………はい、じゃなくて…………。もしかしてお前、女装趣味とか有りなわけ?」
「ないよ、そんなの」
「じゃ…じゃあ、何でそんなの持ってるんだよっ! それにこの服、これ、誰のだよっ」
 今着ている服をビヨーンと伸ばしながら必死になって聞いてみる。だけど相手は動揺もなく、サラリと「浅里のだよ?」と言って退けた。
「俺の? なわけないじゃんっ! 俺、こんなの着ないしっ!」
「でも今着てるじゃん? この日のために買ってきたって言ってもいいんだから、簡単に脱いでもらっちゃ困るんだな」
「えーっ?! たったこれだけのために、お前、こんなの揃えるのかよっ!」
「そうだよ?」
「ウソつくなっ」
「ウソじゃないよ。ほら」
 渡した紙包みをもう一度自分で手にすると、それを開いて見せる。中からは白いピロピロした女物の下着が現れた。それをジッと見つめながら、どう反応していいのか分からずに口元をヒクつかせる。
「た…確かにさ、俺…女みたいな顔してる…とか言われることあるけど、男なんだしさ……。そこまでやらなくても、いいんじゃない?」
 やっぱり、さすがにこれは抵抗がある。
 だから「ね?」と、ばかりに相手に同意を求めるが、楠朗はそれを全然察してくれなかった。
「負けは負けなんだから、さっさとそれ脱いで」
 しゃがんだかと思ったら、スカートの中に手を入れられた。
「ひゃっ!!」
「ツルンッと、ねっ」
 下着に手をかけられると、一気にそれを足首まで下げられる。ポロンッと下半身を露にさせられた浅里は、とっさにそこを手で隠した。
「ばっ、ばかっ!」
「はい。脚、上にやってパンツ脱ごうね」
「ぅわっ…、や…めろって」
「約束約束」
「それは…そうなんだけど……」
 嫌がっていても半ば強制的に片足を上げられて下着を脱がされ、履かされる。片足づつそんなことをされて、楠朗の手がスカートまで上がるころには、下着は男物から女物へと変わっていた。
 前を隠したまま脱いで履いてをさせられて、すっかり恥ずかしくなってしまい、少し前かがみになる。
「はい。出来上がり。こっちおいで」
 グイッと腕を取られて部屋の端にあるベッドに座らされる。
 ここは部屋が狭いから、ベッドはベッドになる時もあるし、ソファーになる時もある。だから浅里もおとなしく座ったのだが。
 楠朗は浅里の履いていた下着を彼の洋服と一緒の場所に置くと、浅里が買ってきたジュースを開けた。一口口をつけると、今度は小さな箱に入ったコンドームを二つ手にして浅里の横に座った。
「これ、何だ?」
「……コンドームだろ?」
「使いたい?」
「へ?」
「俺は、今すぐ使いたいんだけど」
 肩を抱かれて耳元で言われると、何だか妖しい雰囲気になってきたのを感じ取る。だからとにかくこの場から逃げようと腰を引くのだが、しっかりと肩を抱かれているためにちっとも移動出来ない。
「あ…あのさ………俺、そこまで約束してないよな?」
「うん。だから今聞いてる」
「あの…俺……それはちょっと………」
「何で? 新しいパンツまで履かせてやったのに……」
「って、それはお前が勝手に……っ!」
 肩を抱かれながら抵抗していると、気を抜いていた脚の間に手を入れられて股間を握られた。
「ぅわっ…ぁ!」
「ぁ、少し感じてる」
「っ…ぅぅ………ばか、触るなっ」
 触られているのを引きはがそうとするのだが、逆にギュッと掴まれるとモミモミと揉まれる。前かがみになってそれを阻止しようとするのだが、それさえも駄目で、浅里はそのまま横に倒されるとベッドの上で覆い被さられていた。
 両方の肩を押さえられてニッコリとほほ笑まれる、その口にはコンドームの箱が咥えられていた。ポトッとそれが浅里の胸あたりに落ちる。
「約束」
「約束は、もう果たしたっ!」
「うん」
「だったらっ!」
「してみたいんだ」
「なっ…」
 何が、と聞こうとして、分かり切ったことに口を噤む。
「何でコンドームもうひとつ、とか言ったか分かる?」
「分かるわけ…ないっ!」
「一回じゃ済みそうにないって判断したから」
「ってことは………!」
 最初から、そのつもりだったってことかよっ!
 愕然とした。
 最初から相手が、その気で自分にこんなものを買わせに行かせたなんて…。だけど、ぶん殴るとか言う怒りよりも、目の前に見える相手が凜とした清楚さを見せるために、そのギャップに困惑する。
「浅里はさ、そういう格好可愛いと思うよ。今度は連れて歩きたいな」
「俺は…犬じゃねぇっ!」
「そうだね。でも俺の言うことは聞いてくれる。友達だもんね」
「………」
「友達じゃないの?」
「……こんなことする友達なんて…聞いたことないっ」
「そうかなぁ…」
「そうだろ!」
「だけど、こんな格好させられて股間を熱くしちゃう友達ってのも、俺は聞いたことないんだけどな」
「ぅ…」
 それを言われると反論出来ない。
 だけどそれは、こいつがこんなことするからであって、けして俺が望んでこんな醜態を晒しているわけじゃないっ! 
 そう言いたいのに言えない。言えばまた反論出来ないようなことを言われるに決まっている。長年一緒にいるから、そのくらいのことは分かる。
 分かるけど……。
「なぁ、させて。中に入れなくていいんだ。素股ってヤツ、やってみたい」
「ぅぅぅ…………」
 最悪の事態は避けられそうだけど、それもどこまで信用していいのか分からない。
 でも…なんか………。どうしよう……。
 覆いかぶさる形でいた彼が、浅里の腹に腰を落とす。そして片手を後ろにずらすと、はだけたスカートから覗く股間を触ってきた。
「あぅっ…!」
「素股、してみたい。なぁ…なぁ、なぁ」
「ぅぅ……そ…んなトコ弄りながら言うなっ!」
「じゃあ、させて」
「わ…分かった。ただし条件があるっ」
「…………………なに?」
「………俺にも、させろ」
「えーーーー?」
「じゃなきゃ嫌だっ! 俺だけそんなことされるのヤだっ! 絶対ヤだっ!!」
「ふーん…………。いいよ。でも最初は俺、リードね」
「お、おぅ…」
 やっと両者合意したとでも言おうか、楠朗は余裕の笑みで、浅里は引きつった笑みでベッドの上にいた。しかしそうと決まったら行動が早いのは楠朗のほうだ。彼はすぐさま浅里の上から退くと、女装してスカートをはだけさせている姿を見下すように上から眺めた。
「な、何だよ……」
「なるべくさ、悩ましく下着脱いで」
「お…まえっ……。俺、女優じゃねぇって………」
「いいじゃん。『なるべく』ってつけてるんだから、それなりにやって俺をその気にさせてよ」
「……」
 すっかりその気のくせに。と言う言葉も飲み込む。
 浅里は仕方なく、さっき無理やり履かせられた白いパンティーを、いかにも女の子が脱ぐように体をしならせて脱いでみせた。
「こ……れでいいかよ………」
「うん。でもそこ、隠さないで欲しいな」
「む、無理だって、そんなの………」
 いくらなんでもそれは無理! 股間を押さえて言うが、彼は許してくれそうもない。仕方なくその手を外そうとした時、脚で股間を踏み付けられた。
「うっ!」
「さて、じゃあいただきますか」
「なんだよ、その言い方っ」
「つべこべ言わない。ほら、脚開いて」
「や…やだっ。やっぱやめるっ。なんか…お前怖いし」
 這い上がろうとして体を反転させたところに、また覆いかぶさられて身動き取れなくなる。
「またまたぁ……。浅里君、往生際悪すぎ」
 後ろから耳元でささやかれて尻を弄られると、やっぱり観念しなきゃいけない状況なんだと思わされる。



「ぅ…ぅ…ぅぅ………わっ…」
「もうちょっとさ、感じるような声出ない?」
「で…出るかっ……ぁ……」
「ぁ、そうそう。そんなの。もっと言って」
「むっ…無理だってば………ぁ…」
 下半身を晒け出して男に舐められるのってどうよ…と思う。
 浅里は今、ミニスカートを全開にさせて剥き出しの下半身を楠朗にしゃぶられていた。 後ろには入れないなんて言いながら、指だけしっかり入れられて逃げるに逃げられなくなっている。
 必死になって平気なふりを装ってみるが、そんなの全然駄目で、両手でシーツをギュッと握り締める。
 モノをしゃぶられながら指で中を探るように触られると、それだけでビクビクと体が撥ねる。靴は脱いだものの、帽子まで取る間がなくて、体が揺れるたびに帽子も位置を変えていた。
「ぅ…ぅ…ぅっ…………」
 しこたましゃぶられて弄くられると頭が朦朧としてくる。
「ぁ…ぁ…ぁぁっ…ぁ……そこ……ぁんまり舐……めんなってばっ……ぁ……」
「浅里、ノリノリだね」
「だっ…れがっ……ぁ……ぁぁ…」
 次に両脚を抱えられて、くの字に体を曲げられると苦しくて文句も言えなくなる。浅里は先走りの汁を楠朗に吸い取られるしかなくて、この屈辱が早く終わって、今度は自分の番になるのを心待ちにしていた。
「くそ……っ……ぁ………ぁ……」
 出し入れされる指のピストンが早くなり、それに伴って大きな波が自分の中にも来る。
「で…出るっ………! ぅぅ………」
「ぅ…………」
 モノを咥えられたままだったので、そのまま射精するしかなくて。結果、全部を楠朗に吸い取られる形になる。彼にゴクンッと喉を鳴らされた時には、「死にたい……」とか思ったりもした。
「ぅぅぅ…………」
 脱力………。
 でもこれで…次は俺の番。とか思っていたのだが、いつまでたっても相手に動きがない。楠朗は浅里のモノを咥えたまま、まだ舌で転がしていた。そして秘所に差し込んだ指も一向に抜こうとしないのだ。
「ちょ………なに? なんで離れないの?」
「…………ぁ、ごめん」
 言葉を出すついでに口からモノをポロリと吐き出す。そんな感じの楠朗に眉をひそめたのだが、彼は少し照れ臭そうに唇を拭うと、秘所からも指を抜いた。
「ふぅ…」
 これでやっと安心出来る。浅里は、うつ伏せになってから起き上がろうとしたのだが、後ろでカチャカチャと音がしてギクッと体を堅くした。
「ぇ………?」
「ん?」
「なに……やってんの?」
「準備」
「………なんの?」
「何のって…俺、まだ全然何もしてないんですけど」
「ぁ…」
 そうでした。言われてみれば相手は、まだ目的を果たしてない。そうと知った浅里は上半身を反転させながらバツが悪そうに言葉を出した。
「じゃあ…俺は、何すればいいわけよ……」
「………そうだな。そのままうつ伏せになって尻だけ上がるようなポーズ取って」
「ぇ?」
「猫のポーズみたいなの」
「ぇー…………」
 それは服を着てるから出来るポーズであって、ケツ丸出しの今、それをするのはちょっと抵抗がある。うつ伏せになったはいいが、膝を立てられないでいる浅里に、下半身を脱いでしまった楠朗の手が伸びた。
「あっ! ちょっ…なにするんだよっ!」
「ケツ晒しの浅里ちゃん、言われたポーズ出来そうにないから手伝ってやってんじゃん? ほら、しっかり膝を立てて。なんなら四つん這いでもいいんだよ?」
「ぅぅ……」
 言われながら無理やりポーズを取らされる。スカートと言い、ニーハイソックスと言い、余分な付属物がついているせいで、その格好は相手から見たら、さぞ淫らなんだろうな…と察しがつく。
 あまりの恥ずかしさにシーツに顔を埋めた浅里だが、少し開いた脚をより開かれた時、「ぇ…?」と顔を上げた。
 素股ってさ……。
 聞こうとした時、秘所に勃起したモノを宛てがわれて、やっと自分の置かれた立場を知ることになる。
「ちょ…待って。楠朗っ…!」
「せっかく解したから、こっち使わせて」
 ね? なんて、最後可愛く言われても「うん」とは言えない。
「ぅわっ、ばかっ! ちょ…うっ!! ぅぅ………!」
「息、吐いて。力抜いてっ!」
「はぁぁぁぁぁぁ………」
 お産かよっ……! 言いたいのに言えない。
 浅里は、容赦なく突き進んでくる楠朗のモノを受け入れるしかなくて、腰を引き寄せられながら必死になって息を吐いた。
「ぁ…ぁ…ぁ…………」
 一番奥まで入れられて、それでも奥まで入れられないかと突き上げられる。
「ぅ…ぅ…ぅぅぅ………」
 片脚を上げられながら体を横にされると、顔を見られながら突き上げられて、思わず泣きそうになった。唇を噛もうとしても叶わないほど喘ぎ声が出て、恥ずかしさで隠そうとした股間を揉んではしごいている。
「も…やだっ……こ…んなのっ……っ…ぁ………」
「うん。……でも浅里似合ってるからっ……ぁ………いいよ………その顔……」
「くっ……そ………ばかっ……! お前、最低っ……っ…ぅぅ……!」
 痛いのと、突き上げられるのと、どさくさ紛れでしごいてしまっている股間の快感と、いろんな気持ちと感覚が入り混じる。浅里は嗚咽を堪えながら楠朗を受け入れ、自らも二度目の射精を果たしてしまっていた。



「中出ししてないから」
「……」
 ったりまえだっ! 誰がそのコンドーム買ってきたと思ってるんだよっ!
 終わってから。
 すっかりムクれてしまった浅里は、シーツに包まって丸まっていた。それを後ろから抱き締めて、頬を擦り寄せたり脚を絡ませたりしてくる楠朗に、すっかりおかんむりになっていたのだ。
「なんで、こんなことするんだよ………」
「……可愛いから?」
「なんで可愛いんだよ。俺、男なのに」
「男でも可愛い奴はいくらでもいるじゃん? 俺も綺麗とか言われることあるし」
「じゃ、俺はその綺麗な奴を今度は襲ってもいいんだ」
「…いいよ? なんなら今からする?」
 言われて振り向くと、髪を乱した楠朗が眼鏡を外しながら妖艶にほほ笑んでいた。確かに楠朗は綺麗だ。そしてインテリにも見える。だからこんなことするなんて誰も考えないんだろうな…とも思ってしまう。そう思うと浅里は、「ふぅ………」と深いため息しか出なかった。
「なに、ヤらないの? 襲ってもいいよ?」
「……今そんな気力がない。今度にする」
「ふぅん」
 再び丸まると、後ろから抱き着かれて耳を舐められた。思わず身をすくめてしまったが、構うといい気になるから放っておくことにする。
「浅里、恥ずかしかった?」
「ぁ…たりまえだっ」
「でもあんな姿、知ってるのは俺だけだよね?」
「ったりまえだろっ?! もぅぅっ!」
 抱き着いている楠朗を手で離しながら身を起こすと、顔が真っ赤になるのを感じる。シーツのまま起き上がって自分の洋服が置いてあるところまで行くと、シーツを被りながら急いで服を着込んでしまおうとしたのだが、楠朗にシーツを剥がされて「駄目っ」と一喝されてしまった。
「なっ、何でだよっ!」
「脱いでもいいけど、着ちゃ駄目だ」
「だから」
「拭いてやる。汚れたトコ拭いてからじゃなきゃ着ちゃ駄目だって」
「……」
「待ってろ。今タオル濡らしてやるから」
 脱ごうとしていたところを手で制すると、シーツを羽織らせて洗面所に行く。そういうところは誠実なんだけどな…と、その後ろ姿を目で追った。
「ぁ…それとも、シャワーとか浴びちゃう?」
「ぃ…いいっ!」
 聞いてくる声に即座に答える。シャワーとか浴びたら「一緒に入ろう」なんて言われかねない。そして一緒に入ったら、また今の繰り返しが始まるんじゃないかと思ったから即座にNOと答える。それを楠朗も分かっているのか、しつこく聞かずにお湯で絞ったタオルを持ってくるとシーツに手をかけてきた。
「ぃ…いいからっ! 自分でするからっ!」
「……そう?」
 用心深いと言われようが何だろうが、浅里はシーツがずり落ちないようにしっかりと手で掴みながら彼からタオルを受け取った。
 下半身中心にゴシゴシと拭いて、さっさと服を着てしまおうっ。
 思いながら行動する。
「ミノムシみたいだぞ」
「うっさいっ! こっち見んなっ!」
「はいはい」
 笑いながらも少し呆れたように、楠朗はベッドに腰掛けてから後ろに倒れ込んだ。
「浅里さ、俺のこと好き?」
「……………好き…だけど………」
「こんなことする俺は、嫌い?」
「………よく分かんないよ、そんなのっ」
 下着を履いて立ち上がると、後は普通の着替えのように脱いでは着るを繰り返す。一分経つか経たないかで全部を着替え終え、普通の格好である浅里に戻った。
「ケツの具合、大丈夫?」
「わ…かんないよっ、そんなのっ……! それより…さ……」
「なに?」
「………これ、ちゃんとマジで答えろよ?」
「………いいよ?」
「もう一回聞くけど、………何で、あんなこと……したんだよっ」
「…うーん………。何て言うかな……。お前となら秘密が共有出来るから、かな……」
「何だよ、それ………。勝手に決定かよっ………」
「うん。勝手に決めてる。お前は俺との関係崩さないだろうし。ぇ…何、違う?」
「違わないけど………」
 もごもごしながら返事をするが、それっていいことなのか、悪いことなのか、と思ってしまう……。でもやっぱりこの先も楠朗のことは嫌いになれそうにない。俯いた浅里は、彼の判断に口元を緩ませたが、それを知られるのが嫌で、わざとオーバーリアクションで喋りだした。
「ぅ、うーん……っと…………、何だその……………ぅん、まぁ…次は、そぅ…。そうっ! 次は俺の番だからっ! 残ったコンドーム、なくすなよっ!」
「…………ああ」
 仰向けに寝ていた楠朗がうつ伏せになりながら、したり顔で浅里を見てくる。
「なっ…なんだよっ!」
「いや、浅里は俺をどうしてくれるのかな……と思って」
「ぶっ! ……」
 そ…そんなことまでホントに考えてないっ!
 まったく楠朗は何を考えているのか……。浅里には理解不能なことばかりただった。だけどひとつだけ言えることがある。それは。
「でも、俺の場合。最初は、やっぱりキスからだからなっ!」
「ふぅん。………なら、今からでも出来るんじゃない?」
「ぇ…」
「キス。してもいいよ?」
「ぇ……っと…………」
 指で唇を撫でる仕草をされて、一瞬ドキッとしてしまう。それを見た浅里は、思わず目をそらしてしまった。
「しないの?」
「ぅ、うん。また今度」
「へぇぇ……また今度か…。楽しみだな………。でもさ、言っておくけど、他で練習なんてするなよ。やけに旨かったら疑うからな」
「ぇ……」
 他で練習なんて出来るはずもないのに、またそんなことを言う。浅里は脱力してしまい、「こいつ…どうしてくれようか……」と顔を引きつらせたのだった。
終わり 081113  タイトル「最初はキス」→「最初はキスだろ?!」に変更。090411