タイトル「片時のサマサ」
そもそもこれを怪異と言おうか。
市井サマサは廃墟の一室で呪文を唱えてから僕であるキツを顧みた。
「収まったか?」
「はい……。多分」
「ふんっ…」
色々な噂を呼んだ廃墟に来てみれば変な入り口が口を開けていた。
それを閉ざす作業を時間をかけてしてみたのだが、これはしてみただけであって、またそれなりの力を持つ者がこの地に来れば自然に口を開けてしまうだろう。
力を持つ者は必ずしも自覚があるわけではない。だからこそ厄介なのだ。
「これはこれでいい。後は運に任せるとしよう」
「御意に」
「行くぞ」
「はいっ」
たちまちにして足元からうねりが沸き起こり二人の身を隠す。竜巻のような小さな渦が二人を包んだかと思ったら次にはもう姿が消え始める。
廃墟は廃墟となり、それ以後の時間をまた自然のままにゆだねる時が流れ始めた。
廃墟は廃墟として、それが終わった時点で時を止める。
後は自然の任せるままに。
サマサは「それが正解だ」と唱えていた。
キツもそれが正解だと大きく頷いて、今のこの時間でしなければいけないことに着手したのだった。
終わり
タイトル「片時のサマサ」
20130906