タイトル「社長の社畜」 試し読み

 社長が亡くなった。しかも本当に突然に。残された社員たちはこれからどうなるのかと戦々恐々としていたが、社長の補佐役でもあった秘書室・室長の館林愁一(たてばやし しゅういち)はそんなことは言っていられなかった。
「室長。役員会議を開かなければならないですね」
「ああ。早急にな」
 尋ねてきたのは館林の部下である横峰健次(よこみね けんじ)だった。

 一報があったのは一時間前。出先で倒れてそのまま亡くなってしまったと言うことだった。原因はどうやら脳溢血ではないかと言うことだが、詳しいことは分かっていない。館林は社長である柏木君広(かしわぎ きみひろ)の意志を継いで、その子供である柏木連(かしわぎ れん)の元に急いだ。
 彼・柏木連は現在大学生になったところだ。年は19。一年浪人していた。高校のころはそんなに印象に残る少年だとも記憶してないのだが、浪人していた間に弾けてしまい、今ではどこから見ても安場のホストふぜいにまで成り下がっていた。
「はぁ……」
 だから気が重い。役員会議にその姿で行かせるわけにはいかないから事前に少しでもマトモな格好にさせるべくこうして館林が個人的に動くしかなかったのだった。
 館林愁一・31歳・独身。少しウエイブのかかった黒髪を後ろに流し、いつも濃いグレーのスーツを身につけている。ちょっと細面な顔は日本人形のようで、表情が乏しいとか言われたりもする。身長が長けているわけでもなく、才能に溢れているわけでもない。だけど順調に階段を上り、どうにか今の立場にいる。極めてどこにでもいる社会人だった。


「連のところへやってくれ」
「それ…は……」
 どこなのだろう……と運転手が返事に困る。会社お抱えの運転手でも今現在の連の居場所までは把握していなかった。
「まず連のマンションに」
「かしこまりました」
 静かに黒塗りの車が走りだす。館林は携帯を取り出すと横峰に役員に連絡がついたかを確認した。
『館林だ。役員は揃いそうか?』
『ほとんど連絡はついたんですが、まだ数名確認が取れていません』
『そうか。引き続き頼む。会議は夜8時。一時間で終わらせて通夜に向かう』
『はい』
『通夜の準備は言ってあるだろうな』
『もちろんです。今古井が動いているはずですから』
『分かった』
 携帯を切ると前を見る。ほどなくすると広い道路の左側に20階建・レンガ色のマンションが見えてきた。車は地下の駐車場に入るとエレベーター前で彼を降ろし来客用の駐車場に移動していった。館林は左手にしている腕時計で時間を確認するとエレベーターのボタンを押したのだった。
 階数は17階の角部屋・1706号室だった。館林は玄関先のチャイムを押すこともなくカードキーを取り出すとカチャッと鍵を開けて中に入った。
 中はカーテンもしてないので西日に近い夕日が窓から差し込んでいた。大きなワンルームは玄関からすべて丸見えで、ベランダ面がほとんど掃き出しのガラス窓となっている。入ってすぐ左にトイレや風呂などの水回りが一かたまりのボックスになって置かれてあり、少し天井が低い。右側には同様だが対面式のキッチンがボックスとして設置されていた。玄関にカマチはなく靴のまま入るタイプで、真ん中にドンッと置かれたキングサイズのベッドがこんもりとしているのを見て、館林は迷わずそこに進むと布団を引きはがした。
「うーーーーーっ!」
「連。今から家に帰りますよ」
「うーーーっ! 眠みぃんだよっ!」
「メール。その分だと見てないみたいですね」
「うーーーっ!」
「お父様が亡くなりました」
「ぇ……………」
「家に帰って喪服を着てから役員会議と通夜に出ます。葬式の日にちはまだ未定です」
「…………なに? 親父……死んだの……?」
「はい。そのようです」
「ど……して……?」
「脳溢血だか脳梗塞だか、出先で倒れてそのまま」
「お前はついていなかったのかよっ!」
「はい。今日はベッドでのお仕事でしたので」
「はっ……ははっ………女のところで死んだってことかよっ……」
「………」
 情けない声を出しうつむいた連はボサボサ頭のまま丸まって動こうとしなかった。服は遊んだままなのだろうオープンシャツに黒っぽい細身のスーツが乱れている。今時どこで遊ぶのにそんな服を着てるんだと思うほどだ。
 館林は動かないでいる連の腕を取り身を起こすとバチンッ!! とその頬を叩いた。
「っ………」
「行きますよ。下で車が待ってますっ」
「………行きたくない…」
「ダダを捏ねないでくださいっ。もう時間がないんですからっ」
「俺っ………」
「あなたは次期社長なんですよっ?! しっかりしてくださいっ!」
 もう一度頬を叩くと連はやっと素直に従った。決まっていることとは言え、本当に酷な仕事だと思った。何と言っても、彼はまだ社長とはとても言える器ではないからだ。

 エレベーターまで引っ張っていって乗り込むと階下のボタンを押す。その間にもフラフラとして今にも倒れそうになっている連をしっかりと抱え込むと、その腕をギュッと掴んだ。
「しっかりしなさいっ!」
「…分かってるっ…………」
 返事はするもののやっぱり力が入っていない。
 仕方がないと言えば仕方がないのだが、そんなことで呆然としてもらっては困るのだ。これから役員会で認証をもらって、ちゃんと通夜も果たしてくれないと。

 連に母親はいなかった。
 と言うか、誰が母親なのかを教えてもらえなかったと言ったほうがいい。

 社長である柏木君広はとにかく女遊びが大好きで妻との間に子供はなかったが、外に出来た唯一の男子・連を跡継ぎとして本家に入れたのだった。それが原因で妻は家を出て行き離婚。
 連は広い屋敷で乳母に育てられたため母親の愛情と言うものを知らない。知らない代わりに、乳母から母親並またはそれ以上の愛情を注がれて育ったから寂しい思いをしたことなどない、と思ったのだが……やはりどこかで寂しかったのかもしれない。
 高校になって学校に近いと言う理由で一人暮らしをし始めてから、身長や体格も一気に成長し、加えて服装や態度も生意気になっていった。
 最初は思春期なせいだろう…と思っていたのだが、だんだんそれも度を超すようになっていき、さすがに奔放主義の父親も危惧しだしたのが三年前だった。
 そして社長命令で対策に乗り出したのが館林だ。
 館林は連が小さな時から屋敷に出入りしていたので言うことも聞くだろうと言うのが父親の考えだったらしいが、父親の日ごろの行いを知っている連は「面倒を館林に押し付けた」と逆恨みにも近い感情を抱いたらしく、彼に対し厳しい態度を取ってきたのだった。
 それは時に理不尽で、館林を根本から否定するような行為にも及んでいた。



『こ……んなことをしてっ……! 後が酷いですよっ?!』
『何が?』
 くくくっ…と卑屈な笑いをするのは、つい最近まで自分に懐いていた子供だと思っていた連だった。
 社長である彼の父親の命で彼の生活態度全般を監視教育するのを任されていた館林は、その連によって捕まっていたのだった。
 後ろ手に縛られて片方の足首を重いテーブルにまるで犬の鎖のように縛られていた。
 どうしてそんなことになったのか。
 それは珍しく連から『護身術を教えてくれ』と言われたのが始まりだった。喜んだ館林は縄を使った訓練として『相手を縛るにはこうして…』と教えたのをそのまま復習する要領で自分を縛らせてみた。そしたら片足も縛られてそれをテーブルにくくられてしまったのだ。
 そこまでは悪い冗談で済むのだが、そこからがいけなかった。連は館林の下半身を脱がせにかかったのだ。
『なっ…! 何する気だっ!』
『何でしょう……。ふふんっ……』
 やけに上機嫌な連は館林のズボンを脱がすとニンマリとして、今度は下着に手をつけた。
『やっ…やめろっ! やめてくれっ!』
『何で? 別に俺とあんたの仲なら関係ないだろ?』
 言いながらゆっくりと下着を脱がせにかかる連に、焦りと驚きしか沸いてこなかった。館林は片脚にズボンと下着を捏ねたまま、下半身だけを毟られ裸体をさらす結果になっていた。

 そしてされたことと言えば。

 うつ伏せにされて膝を立たせられると萎えたモノをしごかれて無理やり射精させられ、その汁を使って後ろの穴を拡張されたのだった。
『ぅっ…ぅ…ぅぅ………』
 ズブズブと連の指が秘所で蠢く。
 内部を指の腹で確かめるようにゆっくりとなぞられるととても足掻くことなど出来なくて、それどころかしたくもないのに身震いしてしまうほどだった。それは気持ちがいいのではなく、そんなところを彼になぞられるなんて、まったく予知していなかった驚きと屈辱からだった。
 館林は嵌められたと言う思いしかなくて、彼に触られるたびにピクピクと体を反応させた。膝立ちのまま後ろから抱えられる格好で抵抗もできないでいると、連は自分の前立てだけを解放していきり立ったモノを館林の解れたソコに押し当て間髪入れずに挿入を開始したのだった。
『あっ! ぁぁぁ…………』
『やめてくださいよ。処女じゃあるまいしっ………』
『ぅっ…ぅぅ……………』
『でもっ………そうして初々しい仕草してくれるだけでも嬉しいかな……。ぁ……ぁぁ…ぁぁぁ……』
『ぅっ……ぅぅ……ぅぅぅっ………』
 何? 何なんだ……? その言い方はっ……。
 何を言っているのかも分からないまま後ろの穴を占領されて乱されて、まったく最悪の状況でのセックスは気分も最悪だった。
 館林は脱いでない上半身もろとも汗だくになるまで何度も出し入れされてしごかれた。乳首は嫌と言うほど抓られるし、上半身も脱がせられる最大限まで捲られて晒された。汗をかいた体に連の指が這い回り、時々爪を立てる。その度に館林は唇を噛み締めて嗚咽を漏らすまいと賢明になったのだった。
『どう? 俺、案外うまいでしょ?』
『こっ……んなことしてっ……!』
『何言ってんだ。あんたが俺のところに来たってことは、つまりそういうことだよね? 父さんから俺のものになったってことだよね?』
『ぅっ……ぅぅ……』
 言われている意味が分からなかった。
 だって館林は誰かの所有物ではないからだ。だからそんな感覚は毛頭なくて、されている意味さえ分かっていなかったのだ。だけど連のやり方は巧妙で、そんな点は父親にも似てると思えた。
 父親は女との交わりを館林に見せつけるように同席させた。
 それは時に無理やりだが、お相伴に預かる形にもなっていた。館林が望んだわけでもないのにベッドの脇に立たされ動くのを止められてモノだけを女に含まれた。モノをしゃぶられながら女とのセックスを見せつけられる。君広と言う人物はそんな男だったのだ。若い館林が恥ずかしがるのを楽しむ。下劣とも取れる行為を繰り返す男でもあったのだった。
 そんな彼に何故素直に従っていたのか。それは人間性には欠けるかもしれないが、事業を拡大する力には長けていたからに過ぎなかった。君広が拘わると世間では無理だろうとされた瀕死の状態の企業でも回復させられたからだ。自分の会社に引き込むのから始まり、その会社の長所利点を瞬時に把握して行動する力。それを近くで見て盗みたいと思ったからだ。だけど道途中、君広は日ごろのその行いが災いしてか、この世から消えた。そして残されたのは館林を自分のモノと称するどら息子の連だけだったのだった。
本誌に続く
タイトル「社長の社畜」試し読み