タイトル「たとえば、これが俺の××」

 たとえば。隣に座ってる彼のことが好きだったら、どうしたらいいと思う?
「津村、消しゴム」
「は?」
「忘れた」
「ぁ、ああ」
「ん」と顔も見ずに手を差し出してくる、その男の名は三島鉄(みしま てつ)。
 ぶっきらぼうな物言いと驚くほど比例している見た目。後ろも前も同じ長さなんじゃないかと思うほどの ボサボサの黒髪に肝心の目ん玉が見えない。
 見えてるのか? と覗き込むと、ちゃんと見えているらしい。口元がへの字に歪んだ。
「んだよ」
「いや、見えてるのかな……と思って」
「見えてなきゃ字が書けないだろうがっ。邪魔すんなっ」
「うん……」
 これには何と言っていいのやら。
 苦笑するしかなかった。
 津村と呼ばれたのは俺、津村砂鳴(つむら さなる)。奴と同じクラスの隣同士。
 奴が女子から人気がなくて極めて目立たない男子なのに対し、俺は何もしてないのによく女子から呼 び出されてコクられたりするタイプ。だけど目下の俺の関心はこいつなので、それにも上の空だったりす る。
「なぁ」
「んだよっ!」
「チュウしていい?」
「はっ?! はっ?! はっ?! 何言ってんの、お前。ここどこだと思ってるんだよっ!」
「教室」
「だろっ?!」
「でも誰もいないし」
「いなきゃいいのかよっ!」
「うん」
「お前ぇぇ……!」
 急にドギマギして顔を真っ赤にするところがまた可愛い三島鉄。
 俺はそんな彼を横からガシッ! と抱きしめて頬ずりをしてみた。
 とたんにギュゥゥッ! と、その頬を押し戻してくる三島鉄。
 可愛い。可愛い。可愛い。
「こ〜の、クソ野郎っ!」
「いいじゃん」
「何がいいんだよっ! 何がッ! だいたいお前、いったい誰のために俺がこんなことしてると思ってる んだよっ!」
「俺……のため?」
 ほんわか笑顔でそれを言うと、「ぐわぁぁッ!」と雄叫びをあげられた。
「それを分かってんなら、いちいち冗談かますなよっ!」
「ごめーん」
 へへへ……とごまかしてみるけれど、やっぱり俺はこいつが好き。

 宿題忘れて自主勉タイム。
 だぁれもいなくなった教室で俺の宿題を代わりにやってくれちゃったりするこいつが好き。
 じっと見つめてると、たじろぐ仕草がたまらなく好きだ。

「日直のノート。代わりに出して来いよ」
「それが終わったら一緒に職員室行けばいいじゃん」
「……終わったらラーメンだからなっ」
「了解」
 ヘラヘラっと笑いながら相手のうなじを盗み見る。
 今度は「どうやってそこに舌を這わそうか……」
 そんなことを考えると俺の胸は高まる。  
終わり
タイトル「たとえば、これが俺の××」 
20101028