タイトル「今年の文化祭はチアガール喫茶店で」
日が短くなってきている。音駒の孤爪研磨はひとりで通学路を帰っていた。
夕暮れ。冷たい風。電信柱に灯った明かり。だんだん暗くなってくる空に雲。それにお月様。
研磨は夜空を見上げながらため息をついた。
今日はクロこと黒尾鉄朗が隣にいない。理由は言ってもらえなかったから分からないが、何だか他の部員と親しそうに話して先に帰れと言われた。
「ちょっとムカつく……」
とは言っても本当は「ちょっと寂しい」だ。
「寒っ」
いつもは横にいるクロが風よけになってくれているのがよく分かる。
「クロって俺のこと大切にし過ぎって言うか」
俺だって自分ひとりで色んなこと出来るし、事実している。だけどやっぱり隣にクロがいてくれないと心細いと言うか心許ない。
クシュンッ!
「あー、早く帰ろうっと」
〇
家に帰って風呂に入るとベッドに滑り込んで宿題をしだす。もうちょっと寒くなったらコタツを出すのだが、今は中途半端なのでいつ出そうかなと言うところだ。ノートにペンを走らせていると携帯が震えて誰かからの連絡が来た。
研磨はいったん手を止めるとそれを確認して首を傾げた。
『研磨さん、今何が欲しいですか?』
「なんだ、これ」
送り主はリエーフからだった。LINEで何を聞いてくるのかと思ったら続いてまたLINEが届いた。
『俺、出せる金限られてるんで、あんまり高額な物はちょっとなんですけど……』
「話が見えん」
『別に何も欲しくないけど』と返した。
『だってほら』
『ほら?』
『ぁ、いや。何でもないっす。忘れてください』
「……何だ、これ」
リエーフの問いかけに疑問しか沸かない。だけど時期的に考えて体育大会か文化祭のことかなと思う。特に文化祭は部で出し物もするから、色々と購入する物とかもある。リエーフは今年買い出し係だからもしかしたら混乱しているのかもしれない。
「明日聞いてみないとな」
でも何か困っているのなら聞くのは夜久だと思っていたから意外だなと溜息をつきながら宿題に戻る。以後彼からのLINEは来なくなった。
〇
「今年の出し物は『おでん屋』なわけだが、服装はチアで行こうと思う」
部室で開口一番クロがそんなことを言い出した。
「ぇ、またそんな一部しか出来ない服装を言う〜」
部員はブーブー言っていたが、それは自分のことに対してであって他の部員に対しては期待している部分もあった。だから言葉尻が明るい。
「それ、クロが見たいだけなんじゃない?」 すかさず隣の研磨がそんなことを言う。
「いかにも。それが何か?」
「出来る人、サイズ的に限られて来るじゃん」
「いや。それは似合う人と言うことでしょ。出来る人は全員可能性はある。だけど似合う人は限られていると言うだけの話だ」
そう胸を張って言われてしまうと例年のイカツイ女装姿を思い出して「またアレを見るのか」と力ない笑いをする者もいた。
「俺は研磨と夜久のチア姿見たいから賛成。でもゴツイ奴らの衣装とかあるの? どうするの?」
「それについては探すアテがあるから、ちょっと問い合わせてみようと思う。だからお前らおでんの仕入れ出来るところ探してくれ」
「OK。じゃあ俺は食い物系の仕入れ探すわ」と夜久が言う。
「じゃあ俺は鍋とかレイアウトにいる物のレンタルとか担当しようかな」と海が口にする。
「他には何かあったっけ?」
「じゃあ担当長は夜久と海に任せる。後は好きな方について作業して。俺の方は人手がいるって分かったらまた言うから」
「オッケー。じゃ、さっそく商店街行ってスーパーで相談するか」
「あ、じゃあ俺も行きますよ」
「おぅ」
夜久とリエーフが部室を出て行く。
「今日明日は事前調査で練習は休みだから各自自主練しろよ」
「分かりました」
「じゃ、解散」
「俺と一緒に行く人。リース会社に行くよ?」
「俺行きます」
「俺も」とわらわらと福永を筆頭に海に引っ付いて行く。それを見送ってから黒尾と研磨は鞄を引っかけた。
「俺らはまずどこに行ったほうが正解かな……」
「まずネットで調べてみたらどう? もしかしたら同じユニホーム揃うかもよ?」
「ぁ、そう?」
「調べてみる?」
「今?」
「うん」
今出来るよ? とスマホを取り出すと聞いてくる研磨に、クロは苦笑しながらポリポリッと頬を指でかいた。つまりそれは最終手段に取っておきたいと言うことだ。
「違った?」
「せっかく時間取ったんだから、まずは動きましょうよ」
「うんまあ。クロがそう言うんなら」
「うん。研磨の言葉はちゃんと頭に入れておくからね」
「分かってる。じゃあ今からどこに行くの?」
「まずはやっぱり商店街。学生服扱ってるところに」
「分かった」
黒尾は商店街で学生服を扱っているところからスポーツ用品を扱っているところに連絡してもらってサイズがあるかどうかを確認してもらった。それからサイズと価格の確認と納期もどうなるかを教えてもらって帰途に着いた。
「あったね」
「ああ。まさか同じデザインでみんな揃うとは思ってもみなかった」
「後は納期と価格の問題だよね」
「うーん。ちょっと動き出すのが遅かったかな……」
「価格はどうなの? 予算との折り合いは?」
「たぶんちょっと高い。だけど他のところ、レンタルとか仕入れとかで安上がりに出来ればどうにかなる気がする」
「……クロはさ、簡単にネットでどうにかとようとは思わないんだね」
「ぇ? ああ、まあな。別に俺が得をする訳じゃないんだけど、どうせなら地元第一で行きたいと思うだろ。いつも応援してもらってんだから」
「ああ。……だね」
「ああ」
「そういうトコ、好きだな」
「そう?」
「うん。素敵」
「恥ずかしいだろ」
「ふふふ」 さすが。俺のクロだな。
「クレールのアップルパイ、まだあると思うか?」
「駅前の?」
「うん」
「どうかな……」
「行ってみるか?」
「クロの奢り?」
「だといいな」
「別にいいんだけどね」
研磨はまた「ふふふっ」と口元を緩ませるとクロの腕に手を絡ませた。
「寒くなってきたね」
「夜風が冷たいな」
掴んでいた腕を解かれるとしっかりと肩を抱かれる。二人は駅前のパン屋に立ち寄ってアップルパイを買うと家路に着いた。もちろん研磨の顔は嬉しそうなのだった。
〇
「設備と食品の方はどうだ? 予算的に低く抑えられそうか?」
「設備レンタルの方は鍋とコンロとプロパンくらい。後はテーブルクロスとか買うものは百均でどうにかなるから案外費用抑えられると思うよ?」と海が言う。
「食品は去年おでんやった部に聞きに行って、どの位の量を用意したか聞いてからデパートの食品担当の人と話してきた。単価が上がってるから同じだけ用意するとちょっとキツイから飲み物とかサイドメニューで帳尻合わせしたらどうかって提案された」と夜久が言う。
「そうか……」
「そっちはどうだったんだよ」と夜久が突っ込んでくる。
「ああ。あるにはあったんだけど、ちょっと予算がな」
「どの位?」と海が心配そうに聞いてくる。
「だいたい六人分の用意で二万五千円くらい足りない」
「……」
「あのさ。デカいサイズは無理だけど、普通サイズのチア衣装ならチア部のある学校から借りたほうが良くね?」
「夜久君。あいにくウチにはチア部がないからツテ自体ないんだってば」
「あのーーーー。もしかしたらウチの姉ちゃんの知り合いにいるかもしれません」とリエーフが手をあげながら申し訳なさそうに言ってきた。
「マジ?」
「いやぁ……いないかもしれないんですけど……」
「ぇ、なんだよ。どっちだよっ」と夜久が突っ込む。
「いや、いなくてもモデルの方の衣装でどうにかならないのかなって思ったりして」
「人数分揃うのかよ」
「それは何とも……」
「じゃあとりあえず聞いてみて。その返答次第でこっちの頼む数変わってくるだろうし」とすかさず研磨が口を挟んだ。
「そうすれば予算内に済むな」
「ああ。でもそれ、昨日言ってもらえると助かったんだけどな」
「すみません。姉ちゃんに言ったら友達チア部だったな……とか言ってたんで、今考えが繋がりました」
「うんまあ……いいんだけどね。さっそく頼むわ」
「分かりましたっ」
言われてそそくさとスマホ片手に部室を出ていくリエーフを見送って他の費用で削れるところがないか黒尾、夜久、海で提出された資料をこまなく見つめる。
「ガスタンク「中三つ」って多くないか?」
「ああ、これはちょっと多めに頼んである」
「どうして」
「使った量だけの支払いだから、ちょっと多めに頼んでおいた」
「納得」
「でも火を扱うのは限られた部員にしたほうがいいからな」
「うん。そうしたほうがいいだろうね」
「そうだな」
「とりあえずコンロはおでん用とそれ以外の物としてレンタルしたから」
「これさ、ガスじゃなくて電気とか使ったらどうよ」
「それは来月の請求が凄いことになるから駄目って生徒会に言われてる」
「あーーー。使うのウチだけじゃないからな……」
「それは仕方ないよ」
「そういうこと」
「じゃ、ドリンクは暖かいの何出すの」
「コーヒーと紅茶と緑茶」
「珍しい物何もないじゃん」
「何かあるか?」
「ココアって言うなよ」
「何で」
「コスト高いから」
「珍しいってこともないから省いてもいいんじゃない?」
「珍しどころとして何かないのか?」
「ぁっ、だったらウインナーコーヒーとかは?」
「うん?」
「これなら生クリーム上に乗せるだけだから」
「生クリームか……。生クリーム他に使う品あるか?」
「今年はおでん屋なんですけど」
「だったら今年茶店やる部活と共同で買うようにしたらどう」
「じゃ、暖かい飲料はそれで決まり。冷たい飲料は?」
「えっと……ファ〇タのオレンジとグレープ。サイダーの代わりにラムネ。お茶と紅茶とコーヒー。ファンタは大きいボトルで買ってコップに注ぐスタイル。ラムネは目玉。お茶と紅茶、コーヒーは暖かいのを事前に冷蔵庫で冷やして使う。コップとカップは調理室のを借りる手はずはしてあるけど、他の部活とカチ合って負けたら紙コップになるかも」
「そもそも調理室のコップとか数足りるのか?」
「足りるように回すしかないだろ。それと家庭科の〇〇先生から『くれぐれも割らないように』とお達しは受けている」
「そうだな。それは言われなくても、だ」
「割りそうな奴は最初から担当させるな」
「リエーフとかだな」
「あいつは最初から表だから。本当は運ばせるのも心配だけどしょうがねぇ」
「あいつのチア姿は別の意味で見ものだ」
「いや、あいつモデルの姉ちゃんいるからそれなりに着こなしちまうんじゃないか?」
「うん。まあそれが忌々しいと言おうか、楽しみと言おうか」
色々言い合っていると、そのリエーフが戻ってきた。
「外人用の衣装なら大丈夫なんじゃないかって。今、日にち言ったので空いてるか聞いてもらってます」
「で、おいくら万円?」
「ぁ、それはクリーニング代だけでOKですって」
「やったぁ!」
「じゃあ大柄衣装はそれでOK。それ以外は商店街で頼むわ。で、終わったら生徒会に買ってもらう」
「どして?」
「きっと何年かに一度くらいこんなこと考える奴いるんじゃないかと思って。一割くらいで引き取ってもらう」
「まだ直談判してないだろ」
「今研磨に行ってもらってる」
「あーーーそれは賢明かも」
しばらくするとリエーフが戻ってきて大きく丸のマークを手で作りクリア。そしてほどなくすると研磨も部室に戻ってきた。
「どうだった」
「もうあるって」
「えっ!」
「あー、同じこと考える奴が先にいたってことなんじゃない?」
「まあサイズが合えばってことだけど。だからちょっと入りそうな奴ら連れてまた生徒会行ってくる」
「頼むわ」
「うん」
研磨は柴山と後数人を連れて生徒会に引き返していった。
「これで買わなくても済むかもしれないな」
「まあ、もし買わなくて済むんなら商店街で話聞いた店に謝りに行かなくちゃな」
「入るといいんだけど、どうかな」
「まあ。一般的には女子用だと思うから入るか入らないかはサイズ見てみないとな」
「そりゃそうだ」
数十分して帰ってきた研磨はリエーフとは反対の仕草を取った。部室の出入口で大きく手でバツを作ったのだ。
「ぇ、駄目?」
「全部女子用でサイズも入らなかったからムリ」
「だったらやっぱり購入の手配していいワケ?」
「うん。そっちの交渉はしてきた。一割でいいんだよね?」
「ああ。それ以上は渋るに決まってるからな」
「だったらOK。終わったら洗って生徒会室に持って来てって」
「分かった。だったら今から商店街行くか」
「うん。付き合う」
〇
部活を一足早く抜けてクロと研磨は商店街に向かっていた。
「やっぱ普通に考えればそうだよな」
「うん。体育大会の応援で使ったチア衣装らしい。俺や夜久さんくらいだったら入らなくもないんだけど、パツパツだと思うからパスした」
「破けたら弁償物だもんな」
「そう」
「店で頼んでもらえばちょうどのサイズだしな」
「うん。でもしょせんミニスカだけどね」
「そ……れはチアだから」
「そもそもそれを考えたのはクロだよね」
「ああ」
「去年は茶摘み娘スタイルさせられた」
「似合ってた」
「今年はチアって……。俺、生足見せるんだよね?」
「え?」
「だって普通はそうだよね」
「そ、そうだな」
「だったら生足……」
「研磨は下にジャージ履いてもいいっ」
「良かった。寒いしね」
「でも文化祭前に生足チア姿、俺にだけは見せてくれ」
「別にいいけど……襲ったりしない?」
「うん。しないっ。ただ見たいだけだから」
「そっか。ならいいよ」
〇
行きに約束して帰りにはもう他の店から取り寄せてもらっていたチア服を三着持ち帰る。
これは大雑把に言って身長170以下の部員用だった。出来る限り出費を抑えたいから最低数の三着。研磨と夜久。そして一年の芝山が該当していた。それ以外は今回はリエーフ経由でのレンタルに頼る。似合っても似合わなくても正直どうでもいい野郎のチア姿は想像すらしたくないから割愛。
「似合う。似合うよ」
研磨の家にて。食事と風呂に入った二人はさっそく買ってきたチア服を開封し研磨着用。
「うんまあ。ちょうどいいサイズではあるけれど」
「……」
「なに?」
「あのさ、渡したいものがある。今渡してもいい?」
「何を?」
「誕プレ」
「ぇ?」
「用意してあるんだ」
「なに?」
「ちょっと待ってて」
言うと速攻。クロは自分の家に取って帰ると小さな、手の中に入るような小さな箱を手に戻ってきた。そして研磨の前に跪くとその箱を差し出してきたのだった。
「これ」
「なにこれ」
「開けてみて」
「うん」
研磨は跪くクロから差し出された小さな箱を手に取るとそっと開いてみた。
「ん? なにこれ……」
「イヤーカフ」
「なにそれ」
「耳たぶにつけるヤツ」
「片方?」
「うん。イヤーカフは片方」
「へぇ……」
よく分からないが綺麗な彫り物がされている銀色の物体を手に取る。
「どうやってつけるの?」
「耳たぶに挟むんたけど……やってやるよ」
「ぁ、うん」
立ち上がって向かい合うと向かって右の耳たぶに上手に挟んでくる。
「うん。いい感じ」
見てみる? と鏡の前に誘われその姿を見てみる。そこには片方の耳にキラキラと輝くものがあったのだった。
「痛くないか?」
「うん。綺麗……」
「だろ? 透かし彫りがいいなって思って」
「銀?」
「ああ。似合って良かった」
「ありがとう…………」
「なに?」
「イヤーカフじゃなくて指輪でも良かったのに」
「えっ! あーーーーー!」
「冗談っ。指輪はプラチナがいいから、もっと大人になってからでもいいよ」
「あーーーー。そうさせてくださいっ!」
ガックリ頭を垂れたところで研磨がクルクルッと回ってスカートを靡かせた。
「ところで俺、ホントにこれ着て接客するの?」
「そうだけど?」
「ふーん」
「なに? 何が不満?」
「チアってさぁ、なーんかヤらしいよね」
「ぇ、あ、うん……」
「首元はキュッって締まってるのにパンツ見えちゃうほどスカート短いし」
「うん……」
「ほらっ。ほら」
研磨は片足を目の前で畳に座っているクロの脚の間に入れてきた。
「研磨君?」
「クロはさぁ、俺にこんな恰好させて楽しむために着て見せてって言ったんだよね?」
「ああ」
「だったら俺、今見せてるよね?」
「ああ」
「満足?」
「満足」
「……」
「覗いてみていい?」
「どこを?」
「スカートの中」
「いいけど? それだけでいいの?」
「良くない」
「どうしたい?」
「……」
「久しぶりに、する……?」
「す、するっ」
「服、汚さないでよね」
「分かってるって」
首元がキュッと締まった上着がたくし上げられて胸元をクロの舌が這う。スカートの中に入れられた手が股を弄っている。
「んっ……んっ……ん。ぁっ……あ……ぁ」
あっという間に下半身はスカートだけになり指が入り込んでくる。上着もスカートも汚れるからと研磨は早々にすべてを脱ぎ捨てた。
「もっ……早いってば。待って」
「ああ、ごめん」
「ほら、結局こんなのあってもなくても一緒じゃん」
「でも見たい。研磨可愛い」
「俺は女の子じゃないからね」
「分かってる。けど見たいもんは見たい」
「クロはさ、俺のこと隅から隅まで知ってんじゃん」
「知ってても、だよ。拡張していい?」
「ぅ……ぅん……」
入っている指先がカギを作ると体がビクッとなる。下半身がジェルまみれになってグシュグシュと音を立てている。研磨は大きく股を開きながらクロの手が動くのを息を荒くしながら見つめていた。
「はっ……ぁ……ぁんっ……ん」
クロの手は魔法。いつも俺を高ぶらせる。戸惑わせる。嬉しがらせる。
「そろそろ……いい?」
「うん……」
「では、いただきますっ」
はにかんだ笑みを見せて覆い被さって来る彼。
「ぅっ……ぅぅ……ぅ」
「ごめん。もっと奥まで行く」
「ぅんっ……んっ……んっ、んっ、んっ」
ググッと最奥まで入れてからしばらく留まる。クロは優しいからこっちが慣れるまで待っていてくれていると分かっているのだが、我慢しているのも凄くよく分かる。もうそろそろ……と言おうとしたら中に入っている彼のモノがドクンッと大きく蠢いた。
「ぁっ」
「ごめん。そろそろ限界」
「いいよ。クロ動いて」
「なっ……るべく優しくするけどさ」
「分かってる。俺もう大丈夫だから」
抱き着いて顔を埋めていた首元に舌を這わすとクロのモノがまた一段と大きくなって出し入れが開始される。
「ぁっ……ぁぁ……ぁ」
「くっ……ぅっ……ぅぅ……」
我慢して我慢して我慢して早急に出ないよに努力しながら腰を動かす。研磨も自分のモノをしごきながら貪欲に相手のモノに食らいつく勢いで腰を振った。
「ちょっ……研磨君、だいたんっ」
「だってっ……クロすぐ出ちゃいそうだからっ……ぁ……んっ、ぁ」
一回出してからもう一回したって全然いいのだが、でもやっぱり一発目は特別感があるから大切にしたい。研磨は吸い尽くすような勢いで相手の腰に脚を絡ませるとひたすら腰を振り続けた。
「やんもぅ」
少し嬉しそうに、自分が下になる体勢を取ると研磨を自由にするクロ。研磨はクロの上で大胆に快楽を貪るように腰を振り自らのモノをしごき続けた。
「研磨っ、俺っ……も……無理だからっ。ぁっ……くっ……ぅ」
「うううっ」
ドクドクドクッと研磨の中に相手の精が放たれる。それを感じながら自らのモノをギュッと握りしめて自らも射精していた。
「はぁ……はぁ……はぁ」
「何っ? なんか今回やけに積極的なんだけど」
「成功」
「ん?」
「一緒にイけた」
はははっ……と笑うと、「ああ、そういう?」と微笑まれる。
「一回目は大事だから」と手を伸ばすと抱き合って息を整える。
「も一回する?」
「いいよ。でももう少し後で」
ギュッと抱き締められて肌を合わせる温もりを楽しむ。それから二回二人して楽しんで眠りについた。
〇
翌日。リエーフが大きなサイズのチア衣装を持ってきた。それがちょうどいいか主な面々が試着するのだが。
「あー、見てらんねぇ」
「酷いな」
「でもこれはチア服が悪いわけじゃないからな」
「分かってるよ、そんなこと」
「にしても普通サイズの研磨とか夜久との差よ」
「そんなの仕方ないじゃん」
研磨と夜久、それから芝山は商店街で買ったチア服を着用して鏡の前にいた。それがとてもよく似合うので、余計に酷さが増してみえてしまうのだ。
「脚だな。脚がムキムキなんだ」
「全体的にムキムキだからパツパツに見えるだけだ」
「それが致命的って言うんだよ」
「お前ら、自分が似合うと思って着てるんじゃないよな?」
「分かってるよ。俺たちは夜久様組の引き立て役」
「分かってるじゃないか」
「ただな……」
「ただ何だよ」
「哀れだ」
「宿命だと受け入れよう」
「分かってるよ」
「分かってる」
「それもこれも部の活動費獲得のためだ」
「頑張ろうっ」
「おー!」
「うん、まぁ」
「頑張ろうな」
お互いがお互いを見て苦笑する。とりあえず服の確保は出来たようだ。
文化祭は夜久・研磨・芝山の三人組が際立っていたので、とても盛況だった。
夜久は写真撮影にまで金を取るんだと口にして即採用。お陰で負の遺産になってしまうんじゃないかと言うほど誰かと一緒に撮影した。
時間を待たずして出し物がなくなってしまったので片付けをして制服に着替える。研磨はクロと一緒に校内を回り楽しんだ。
「やっぱみんな終わりかけだな」
「仕方ないよ」
「大盛況で良かったな」
「うん。それもこれも全部俺とか夜久さん、芝山のお陰だな」
「ホンこれ。お前ら可愛すぎだった」
「でも来年はもうしないから」
「何で? また来年も似たような出し物すればいいじゃん」
「来年はもうチアしませんよってこと。それに、来年はもうクロいないじゃん」
「それを言われるとちょっとな」
「来年はもっと面白いこと考える」
「楽しみにしてる」
「うん。ぁ、アイス食べよう。喉がカラカラだよ」
「だな」
肩を抱き合い、と言うよりも肩を抱かれながら二人が学生の群れの中に消えて行く。それを校舎二階の窓から見ていた夜久は隣のリエーフに抱き着いた。
「えっ!?」
「俺、どうだった?」
「……凄く、良かったです」
「ほんとにか?」
「誰にも見せたくないほどでした」
「ぁ、そういう?」
「はい。今日それ持って帰るんですよね?」
「ああ。洗わないといけないからな」
「だったら俺のために今晩着てみせてくださいよ」
「……見せるだけでいいのか?」
「……いえ。それ以上で」
「はっきり言えよ」
「チアお姉さんごっこして抱き締めたいですっ」
「よろしい。だったらお前はスーツ姿な」
「へ?」
「俺だけってのが気に入らないんだよっ。分かれ」
「ぁ、はい」
「よし。じゃ俺たちも何か食いに行こうぜ」
「ぁ、夜久さん。夜久さんは研磨さんの誕プレどうします?」
「どうしますって?」
「俺、直接LINEで欲しい物聞いたんですけど」
「聞くな」
「すんません」
「どうせお前のことだから『何欲しいんですか?』とかダイレクトに聞いたんだろ」
「なんでです!?」
「聞かなくてもいい。研磨には部員全員から誕生日プレゼント用意してあるから」
「ぇ、何ですか? 俺、それ聞いてないですよ? 何あげるんですか?」
「言わない。お前の場合、教えると研磨に言っちゃいそうだから」
「言わないですよ」
「言わなくても教えてやらないっ」
「だから何でですか!」
「その口の軽さ。俺はお前を信用してないからだよ」
「えーーー………!」
酷い。それは酷いですよ? と泣きついてくる。
「そんなことよりさ」と夜久がリエーフの肩を掴んで向かい合う。
「俺たちも校内回ろうぜ。いい加減もう腹減った」
「いいですけど……」
不服そうに口を尖らせたリエーフは「俺、誕プレの金出してないのに……」と不貞腐れた。
「大丈夫だ」
「ん?」
「俺が出しておいたから」
「ぇ、ありがとうございますっ!」
「お前今金ないの分かってるから。次のこずかいで返してもらう」
「ぇぇぇ……」
「さっ、早く早く。何か食べに行こうぜ。俺が奢ってやる」
「え、ほんとに!? やったぁ!」
こうして無事に文化祭は終わり、次は冬休み前の期末試験期間に突入する。
一時の楽しみ、そして新たなる試練に向けての支度を彼らはまだ何もしてない。
終わり
タイトル「今年の文化祭はチアガール喫茶店で」
20250112・24