タイトル「彼は年上の猫」
梅雨に入ってムシムシするけどいいこともある。北島類(きたじま るい)は今日も降っている雨に傘を差して学校までの道を歩いていた。駅から左に曲がって遮断機を潜ると真っすぐに伸びている上り坂をゆっくりと上がる。途中右側にある喫茶店をチラッと盗み見ると中の人を探した。
類の探しているのは喫茶店の若い店長だった。年は類よりもいくつも上だと言うのは分かっているけれど聞いたことはない。でも十歳くらいは確実に上だろう。何せこちらは高校生。あちらは店長と呼ばれるくらいの年齢なんだから。
「ぁ、いた…」
小声で言うとこっちを向かないかな…とちょっと見つめてみる。が、相手は客の対応に忙しくてこっちなんて気づいてもくれていない。
「ちぇっ…」と舌打ちを打つとまた学校へと行く道に目を向ける。彼の名前は桂木景(かつらぎ けい)。あの喫茶店で店長と呼ばれていることくらいしか知らない。だけど昨日、彼とはキスをした。そしてそれ以上のこともした。
反応がいいのは即座に分かった。こっちが若いからってのは、彼には関係ないのか分かってないのか…。それを知られたら嫌悪感を抱かれるかとも思ってたけど、そうでもなくて…。類は彼の体を十分に味わって別れたのだが、それだけではとても満足出来そうになかったのだっった。
●
彼と出会ったのは、とある公園。
その手の情報では必ず上げられる場所でもある。類は相手を物色するべくソコに行ったのだが、見知った顔を見つけてまさかと思った。それがあの喫茶店の店長だった。
時間は夜八時。
公園のベンチで人待ち顔の手持ち無沙汰。街頭の近くに座っている姿を見て、すぐに彼だと分かった。清廉さを伴う童顔…ってのは、どうやら類にはツボらしく好みの顔は一度見たら忘れやしない。彼が働いている茶店には何度か入ったことはあるが、彼自身に個人的に声をかけたことはなかった。だからか、近づいて行っても気づかれることはなかった。
『あのっ………。待ち合わせ?』
『ぇ………ぁ、いえ…………』
『じゃあ……。あのっ………』
『すみませんっ……。あの……僕…こういうの初めてなので勝手が分からなくて………』
『……じゃあ…あんたもこっち?』
『ぇ…………ええ、まぁ………』
『俺……は、どう?』
『ぇ?』
『俺と………したくない?』
『ぇ………っと…………』
『俺は、あんたを抱きたいんだけど………』
言ってみたら恥じらった。
イケるっ! これは完全にイケるっ!
類は一も二もなく彼との接触をより深いものにしようと試みた。
恥じらう彼に手を差し伸べてギュッとその手を握ると近くの茂みへと誘う。適度に明かりが届いて彼の表情が見える木々の間。そこに彼を寝かせると上から覆いかぶさって洋服の上から体つきを確かめた。
『ぁっ…………』
『遊び?』
『え?』
『ここに来たのは遊びたかったから?』
『いえ。……………出来れば………そう…じゃない人を探してるんだけど………』
『そう……』
そうなんだ……。じゃあ、俺にもチャンスはあるんだ。
なんてことを考えていると、不安げな彼が類を見上げてきた。
『あなたは……どう?』
『俺?』
『うん…』
『俺……も、出来れば遊びじゃないほうがいいな………』
言うと、下にいた彼の顔が嬉しそうに変わった。
可愛いっ………。
年上なのに童顔で、年上なのにウブな反応。けしてゲスくなく、見た目の通り清い感触。だけど欲望には忠実で、触れば触るほど開花しそうな肉体は今までにないほどの興奮を覚えた。
洋服の上から胸の突起を探すように弄り、もう片方の手で股間の大きさを確かめる。彼は猫にありがちな異常に大きなモノは持ち合わせていなかった。いたって普通なサイズで普通な反応。それに反比例するような恥じらう表情はとてもそそられた。
『ここで……最後までOK?』
『………ちょっと……ここじゃあ汚れるし………』
『ならどこで?』
『………もうちょっと落ち着いたところ………?』
『ホテルとか?』
『ぅん……』
『でも俺、金ないんだよな…………』
『僕がっ……出すから……』
お願いと言う縋るように見つめられて、素直に『いいよ』と頷いた。場所は公園に面したビジネスホテル。
『時間。いいの?』
『俺?』
『うん…』
『別にいいよ? そっちこそいいの?』
『僕は…一人暮らしだから………』
『ふぅん』
何げない会話をしながら相手の体を値踏みしてみる。
彼も彼で、こちらが気になるらしくチラチラと見つめてくる。つまり互いに真正面からじっくりと見つめ合って自分の希望に合っているかどうを確かめ合っているような感じだった。
『風呂、先に入る?』
『ぁ、うん…』
『俺は後でいいから』
『それじゃあ』
ちょっぴり名残惜しいまなざしを残して彼が浴室に消えていく。類はテレビのスイッチを押すと部屋の中を物色しだした。安宿だから何もないだろうと、クローゼットを開くと浴衣が二組畳んでおいてあった。冷蔵庫にはビールにジュースにつまみになるもの。カーテンの向こうには夜の公園と灯る街頭。それに時折歩く人の姿が見えた。本当はあそこでも十分良かったんだけど、やはり寒い中露出して出し入れするのは嫌だったからちょうど良かったと言えなくもなかった。
季節は初夏。昼間は暑くても夜になると妙に冷え込んでくる、温度差MAXの季節だったからホテルはとても助かった。それに覗き見されることもないから気持ち的にも落ち着けた。もしあのまま青姦となれば、誰かに盗撮されたり、近くで他人のすえた臭いを嗅ぐことになったりしてたかもしれないから、出来れば射精したくなかった。誰かにどこかから見られていると言う感触は、まだまだ類には不安しか駆り立てなかったのだった。
風呂からはシャワーの音が聞こえている。
彼は類がいなくなるなどと微塵も思っていないのだろうな…と考えると「無垢なんだな…」と顔がほころぶ。
『さっき触った時もすごくいい感じだった』
年齢はあっちのほうが上だが、ゲス具合ではこっちの方が上だな…などと皮肉にも似た感情にさせられるが、これで理由もなく相手を選ぶのもやめられそうだと笑みが漏れた。
数分経つと浴室の扉が開かれて腰にタオルを巻いただけの彼が出てきた。
『………出たよ』
『ああ。寝てて。俺も入ってくるから』
『うん………』
今度は類の方が出てきたら相手がいなくなっているかもしれない恐怖と戦わなければならない番になってしまった。ただし本当にそうなった場合、類には金がないのでピンチなわけだが、そこは彼を信用するしかないだろう。
浴室でそそくさと体を洗うと相手と同じように腰にタオルを巻くと扉を開く。
薄暗い室内。
そのほとんどを占めているベッドの中には、おとなしく待つ彼がいたのだった。
『……お待たせ』
『……うん』
言いながらホッと胸を撫で下ろしてベッドに近づくと彼の横に滑り込む。そして勢いついでに彼に覆いかぶさって抱き締めた。
『ん………』
彼は全裸だった。
抱き締めて唇を重ねて、それを貪りながら体に指を這わせる。
肩から胸、脇の下から脇腹に滑らせて臍の穴を確かめるとそのまま下へと指を這わせてプルプルしているモノをギュッと握ってしごきだす。
『ぁっ……』
『感度いいね』
『そ…んなことっ……っ…ぅ……』
『誰にされてもこんな感じ?』
『そんなこと…』
ないっ…と言われて気を良くする。
実際彼はウブそうだし、脚も開いて来なかったから股の間に脚を入れて開脚させた。しごいてたモノから手を離し股の間に陣取ると開いた脚をもっと押し開き尻の穴が見えるほど開脚させた。
『ぁっ……!』
『……………もしかして初めて?』
『ちっ…』
『じゃあ、久々?』
『ぅっ…うんっ……!』
『ふぅん』
何だかウソっぽかったけど、それはそれで嬉しいと言うか。
類は彼の締まり切った尻の窄まりを見るとほくそ笑んだ。そして内股をギュッと押し開きながらソコに顔を近づけたのだった。チロッと舌でつついてみると『ぁんっ…』と小さく震えてきた。気分がいい。十分に舌で湿らせてつついて焦らすと、彼は腰をくねらせて自分のモノをしごいた。袋を揉みしだき勃起したモノを荒々しくしごきながら秘所への行為に耐え悶える。
押し殺すような息遣いに汗の匂いが交ざり合って、それがまた嫌いな匂いではなかったから押し進んだ。類は自分の指を口に含むとしっかりと唾をつけて彼の中に差し入れた。
『あっ…! ぁぁっ………』
ぐぐぐっ…と一気に根元まで突き入れると内部を探るように指の腹を動かしてみる。彼は努めて力を抜くように息を吐くとしごいていた自分のモノを握り締めた。
『キツい?』
『ぅ…ううんっ……』
首を横には振っているが、明らかに強がっているのは見え見えで。それがまた可愛かった。指でソコを攻めながら体を移動させて舌先で胸の突起をチロチロと舐め回す。
『ふっ…ぅ…ぅぅ……んっ………』
『首に手を回して。俺に抱き着いて』
『ぅん……』
息も絶え絶えに、でもしっかりと言われたまま首に手を回してくる行為は、また可愛くてギュッとしたくなる。それを抑えて、代わりにその気持ちを舌先と指に集中する。
ひたすら指の抜き差しを増やし、舌先で乳首を味わう。チロチロするのはやめてギュギュッと噛んでみたりチュゥゥゥッと吸ってみたりして相手がビクビクするのを味わって楽しむ。そうしてから自分のモノをしごいて彼に突き入れた。
『あああああっ…んっ………!』
『くっ…ぅぅぅ……………! ぅ…』
『ふぅ……ぅ……ぅん…ん…ん……………ぅぅぅ………んっ』
『中でっ……出してもいいっ?!』
『う……んっ! ………いっ…れてっ………! たっぷりっ………あ…んたのモノをっ………!』
ギュッと 抱き着きながらそんなことを言われると、どうしようもなくなる。類は腰の振りを早くすると彼に応えたのだった。
『な…まえっ……』
聞いてなかったな…と聞いてみる 。すると彼は身悶え喘ぎながら『ケイ…』と答えたのだった。
『ケイっ…?』
『うんっ……ぅ…ぅぅぅっ……んっ……!』
『ケイっ……ケイ……ケイ………』
言いながら出し入れを激しくして中で果てる……。類は初めて気になる相手の中に果てて凄く満足していたのだった。
はぁはぁはぁ……。
荒い息をさせながら互いに体を離す。類は出すものも出したしスッキリしていたのだが、相手はまだ途中だったらしく力無くもモノをしごくのをやめてない。だからそれに気づいた類は相手を抱き締めると彼の股間に手をやり彼の手を外すと代わりにしごいてやった。
『ぁ……』
相手にしごかれてひたすら快楽だけを求めればいいとされた彼は類に抱き着きながら甘えるような声をあげて腰をくねらせてきた。類はそれに気を良くしてキスを強いる。息も絶え絶えになりながら口を塞がれた彼はそれに答えてまた身を震わせる。ビクビクッとする彼を楽しみながら、その後体位を変えて朝まで寝る暇もなくふたりして互いを楽しんだのだった。
●
『また会いたい』と言う彼に『うん』と返事をすると携帯の番号だけを渡す。
疲れきっている彼をホテルに残すとひとりだけ先に帰途に着いた。
そして今。
一日の授業を終えて学校から帰る際、類はひとりだけ喫茶店に入ると彼を見つめた。
「いらっしゃいませ」
テーブルを片付けながら声を出して振り返った彼……は、出入り口で佇む類を見つけて笑みを硬直させた。
「…」
「いらっ…しゃいませ…………」
小さく蚊の鳴くような声でそう言うと、ぎこちなく「こちらへ…どうぞ……」と手招きされる。類はそれに従いながらにっこりと作った笑みを崩さなかったのだった。
いったん離れた彼が盆に水とおしぼりを乗せて再び類の席に来る。
「………ご注文は」
『あんた』と答えたら怒られるだろうなと思いながら苦笑する。
「コーヒーで」
「かしこまりました」
オーダー表にチェックを入れながらそそくさと立ち去ろうとする彼の手を取るとギュッと力を入れる。
「ぇ…」
ビクッとして振り返った彼の顔はとても心もとなくて、ともすれば脅えているようでもあった。類はそんな彼に応えるようにもう片方の手も差し出すと両手で彼の手を握り締めて引き寄せた。
「お勘定済んだら裏で待ってるから」
「ぇ………」
それだけ言うとサッと手を離す。
極力目立たないように、だけど彼の気を引くように類は口元に笑みを浮かべたまま厨房に行く彼を見つめた。
コーヒーはおいしかった。
お勘定も滞りなく済んだ。そして出入り口からそのまま喫茶店の裏側の出口まで行くと急ぎ早に彼が出てきた。
「………」
ロングの黒の前掛けが洒落ていて、そのままの姿を抱きたいくらいだ。腰の紐を解いて下半身だけ露にして後ろから前から突っ込みたい衝動に駆られるのを抑えた類はにこやかに彼を見つめた。
「どうも」
「その制服………」
お前高校生だったのかよ……と凄く怪訝な困惑した顔付きだ。だが類はそんなことにはメゲるはずもなく、調子づいて制服の襟を摘まんで見せた。
「年下じゃ嫌?」
「って…それ、淫行じゃん………」
「されといて、それはないだろう」
「知らなかったしっ!」
「聞かなかっただろ?」
「そんなこと言ったって……!」
類は困惑しながらも完全に怒っている相手の顔を覗き込むと「どうする?」と尋ねた。
「ぇ……?」
「まさか年下だから嫌い、とか言わないよね?」
「ぅ……うーん…………」
もっと覗き込んで、その勢いでチュッとキスをしてみる。それに驚いて唇に手をやると目を見開いて類を見つめて、やっぱり駄目だろ…と困惑ぎみの瞳が揺れた。
「だっ…て………」
「昨日は良かっただろ?」
「………そう…だけどっ………!」
「俺たちの関係は、そんなんで駄目になるの………?」
「だっ……て……………」
戸惑う彼に「いいの?」と、もう一度キスをすると、困惑したまま泣きそうな顔をされた。なので類は慌てて彼を抱き締めると何度も何度もキスをして宥めた。
『こんなの駄目じゃん……』とか『高校生なんて……』と否定するけど、肯定出来ないような……。そんな戸惑いだけが大きくなる彼に、類も『困ったな…』と事態の大きさに困るしかなかった。
「高校生って言わなかったのは謝るっ。だけど俺を好きになってよ」
「でも……」
「ふたりだけの秘密にすればいいだろっ?」
「……でもっ………」
「俺はケイのこと、好きだよ?」
「……」
「俺のこと、好きだって言ってよっ」
「……………」
ギュッと抱き締めながら良い返事を聞こうと必死にキスを繰り返す。
ちょっと細めな腰を指で堪能して、そこから尻へと移動ざる。割れ目を探るように何度も指を行き来させるとグイッと腕を伸ばされて真正面から見つめ合う格好になった。
「……………僕だけ?」
「ぇ……?」
「こ…んなことするのは僕だけ?」
「も…ちろんっ!」
「こ…んな風に、好きなのは……僕だけ?」
「ぁ、ああ。もちろんっ!」
「……………浮気、しない………?」
「もちろんっ!」
「秘密に………出来る………?」
「もちろんっ!!」
「………僕…でいい………?」
「もちろんっ!!!」
泣き笑いする彼の顔を見て、最後の言葉でやっとOKと受け取った類は破顔して今までよりももっと強く彼を抱き締めたのだった。
「痛ッ…」
「ぁ、ごめんっ。ついっ……」
「いいよ。抱き締めても」
「うんっ」
「名前………。まだ聞いてないっ……」
「ぁ…言ってなかったっけ……?」
「聞いてないっ。僕は言ったのに……」
「ごめんっ。俺は類。北島類だよ。あんたは?」
「景だよ。桂木景。25歳。類はいくつ?」
「……17」
「17っ?!」
「うんっ」
「随分年上に見えた」
「私服だったからね」
「ふふふ…」
「なに?」
「だから金がなかったんだ…と思ってね」
「何せ高校生だから。バイトでもしよっかな」
「駄目っ。駄目だよっ」
「…なんで……?」
「誰かに取られちゃうと嫌だから」
「は?」
「いいのっ。金は僕が払うから。類は今までのまま、変わらぬ日常を何食わぬ顔で送って欲しい」
「そして秘密であんたとの逢瀬を交わす?」
「そう。何ひとつ変わらぬ日常の中に生まれた僕たちの日常。維持出来る自信、ある?」
「もちろんっ!」
聞かれて類は間髪入れず即座に答えた。彼はその答えを聞いて泣き笑いしながら抱き着いてきたので後ろに転びそうになるけれど、それに踏ん張って耐える。
「景っ」
「なに?」
「好きって、まだ聞いてないけどっ?!」
「……………言わせるの?」
「うん」
「…」
「聞かないと安心出来ないよっ!」
「好きっ」
「…早いな」
「好きっ」
「ほんとに?」
「好きっ! もっと愛して、ずっと愛してっ」
両頬を挟まれるとチュッとキスをして、次には深いキスをされた。唇が重なるだけじゃなくてもっと深いキス。舌を絡ませて何度も角度を変えると奥の奥まで知られ尽くすような濃厚なキス。類はそれを受け止めながら、この恋は間違いではないな…と目を細めたのだった。
終わり
タイトル「彼は年上の猫」20160617
