タイトル「罪な同僚」

「ぎゃ〜ッ! だっから…やめろってば、そういうこと〜!」
「何で? 俺たちそういう仲だし、いいんじゃねぇの?」
 そう言われるとツライものがあるが、だからと言って昼間っから事務室でこれはないと思う。
 日比野光介(ひびの こうすけ)は、事務机に体を押し付けられながらチュウをしてきそうになっている野島達也(のじま たつや)を必死になって阻止していた。
 だいたい昼間っから、こんな誰がいつ来るか分からないところで迫ってくるなんて非常識極まりない奴だと思う。
 あまり回りを気にしてないと言えば聞こえはいいが、そうではない。たぶん奴に言わせれば、『己の愛に忠実なだけだ!』とほざくだけだろう。
 バシッ! と片頬が赤くなるほどの力で叩いてやると、ようやく少し動けるだけの余裕が出来る。
「いい加減にしろよ!」
「誰も来やしないって。それにチュウくらいしたっていいと思うけど?」
 悪ぶれもせずにニッタリとする達也に、言い返すだけの言葉が見つからない。光介は歯軋りをしながら相手を押しのけると、取りに来た書類の束を持って部屋を後にしたのだった。もちろんのことだが、後ろは振り返ってやらない。



 何がどうしてこんなことになったのか…。
 考えてみるのだが、あまりにありきたりで馬鹿馬鹿しいので頭を振って仕事に集中しようと思った。
 光介と達也の働くここは、大手の広告代理店の下請け企業だった。おこぼれをもらっていると言うと聞こえは悪いが、今の御時世ではそうとしか言いようがない。その中でも、二人は同期と言うのもあり、最初から仲はよかった。それがどうしてこんな仲ににってしまったかと言えば、今はあまり歓迎されない王様ゲームからだった。
 親睦をかねてある慰安旅行は、普通なら新緑の季節ではなく、紅葉の季節が多い。だが、この会社は経済的に考えているらしく、観光の閑散期にあたる六月にあった。
 当然のことながら六月と言えば雨期。
 雨の降りしきる旅館についても、露天風呂に入るか、卓球ゲームしかない古びた温泉で、昼間から酔い潰れたのは上司の管野だった。
 付け加えて言っておけば上司は女だ。彼女は普段サクサクと仕事をこなす心強いタイプの女性だったのだが、どうも酒癖が悪いらしい。少し酒を飲むだけで態度が豹変してしまうタイプだったのだ。
『それでどれだけ仕事を落としたことか…』と、そのまた上司がなげいていたが、それは事実だったらしい。
「おいッ、そこの新入社員二人! こっち来い!」
 開け放たれた入口から大声で呼ばれて仕方なく部屋に入ると、酒の相手を強要されてしまった。回りには酔い潰れて寝転んでいる女の子たちが数人。普通ならこれはおいしい光景になるのだろうが、そんなものは見る暇もなく、注がれた酒をあおるように飲み干さなければならなかった。
 一人対二人のはずなのに、女対男のはずなのに、立場の違いと言うのは恐ろしいもので、言われるままに飲んで飲んで飲まされた。
「よしッ。今から王様ゲームを始める!」
 言い出したのは管野だった。
「………」
 そこで嫌な顔でも見せようものなら、また酒を飲む量が増えるだけだ。三人で王様ゲームもないだろう……と思いながらも口には出せない。そして案の定、負けたのは光介と達也だった。
「王様の命令〜! お互いに愛の告白」
「え……?」
 なんじゃい、そりゃ…。
 それが顔に表れてしまったようで、管野はとたんに怪訝な顔をして二人を交互に睨んできた。光介は男相手に愛の告白もないだろうと思ったのだが、ヘタに「チュウしろ!」とか言われなかっただけマシだと思わなければ……と即座に考え直した。
 コホンッと咳払いをしてちょっと芝居がかった雰囲気で達也の手を握ると、ジッと相手の瞳を見つめてつぶやいてみる。
「実はお前のこと……ずっと前から好きだったんだ。愛してるよ………」
 どうだ。この演技!! と思ったまではよかった。
 上司管野もこれに対し小躍りして拍手をくれたし。でもよくない奴が一人だけいた。それは言われた達也のほうだ。酔っているせいもあるのだろうが、目がうるうるとしてて焦点が定まらなくなってきていたのだ。
 考えてみれば、達也は光介よりも余計に酒を飲まされているはず。それを知った光介はこれ以上ここにいたら、救急車を呼ばれるまで飲み続けるのか?! と恐怖を感じ、トイレに行くとウソをついて達也を引きずって外に出た。
「すぐ戻ってきます」
「絶対よ!」
「はいはい」
 こんなウソは相手も酔っているので新しいカモが現れればすぐに忘れてしまうだろう。
 ズリズリと自分よりガッシリしている達也を引きずりながら、光介は必死になって自分たちの部屋までを急いだ。早くしないとこっちの体が持たないし、こんなところでゲロゲロやられても困るからだ。
「しっかりしろよっ……」
 酔ってる奴って、どうしてこんなに重いんだか……。
 言いたくもない愚痴が口をついて出そうになった時、ようやく部屋まで辿りついた。旅館だから引き戸は軽く開けるだけで用は足りたし、中にはもう布団も敷かれてある。これでゴロンと横にさせれば朝までぐっすりだな。とニコリと笑った時、達也の目はギラリと光っていた。
「達也。おい、着いたぞ」
「……愛してるって言ったよな、お前」
「って、あれは管野さんに命令されたから言ったんだろ? 何言ってんだよ」
 はははっと笑い飛ばそうとした光介だったが、達也は悪酔いしているのか真剣な眼差しで顔を近づけてきた。
「なぁ」
「なぁって……。わッ…!」
 ビックリしたまま後ろに押し倒されると酒臭い息が近づいてくる。
「やめろってば!」
 言いながら相手を押しのけようとするのだが、ここまで相手を運んで来ただけで体力を使い果たしてしまっている。光介はされるがまま布団の上で達也にのしかかられていた。
「ぎゃお〜ッ……!」


 酔いが回っていると言うのは、時として恐ろしい結果を招くことがある。それが今だと知ったのは、すっかり身ぐるみ剥がされてしまった時だった。
「お前、何やってんだか自分で分かってるのか?!」
「……分かってる。俺は愛してるって言った奴を抱く。これが道理と言うものだろう」
「道理?! それがか?! 冗談! 俺はお前になんか抱かれる気はないぞ! あっち行けよ!」
「ふふふっ…。かわいい子羊ちゃんが何を言う」
「かっ……かわいい子羊ちゃん……?! お前、目ぇ大丈夫なのかよ! 俺のどこが子羊ちゃんなんだよ!」
「ウブいな。そんなところが、この俺様に食いたいと言う衝動を起こさせるんだ」
「なッ…に言ってんだよ!!」
「フッ…。最初は多少痛いかもしれん。なにせ処女喪失だからな」
 舌なめずりをしながらそう言ったかと思ったら、いきなり飛びつくように股間のものを握られた。握られながら肩を引き寄せられて、あっと言う間に貪るようなディープキスが襲ってきた。
「う゛っ…う゛う゛ッ……!」
 ひさしぶりのディープキス。なのに相手が男だなんて……!
 嘆きたいのもあるが、この状況下そんなことは言ってられない。目尻にチョロリと涙が出てきたが、これは嘆きの涙と言うよりはギュッとモノを握られて痛いでしょうと言う涙だ。
 絶対。絶対そうだと思う!
「俺、キスうまいだろ?」
「ぅ……ぅ…」
 キスをしながら言われても、返す言葉なんてあるわけがない。達也の下で、もがきながらも握られたところが徐々に熱を帯びてきているのを感じていた。
 触られれば、人間嫌でも感じるさ。
 達也はそんな顔をしているように光介には見えた。
 それも相手次第だろう…!
 光介は頭の中で強く思ったのだが、頭で考えるのと体が違う反応を示しているのは、どう解釈したらいいのだろう。口の中をまるでヘビが出入りしているような感覚にもがきながら冷静に物事を考えようとした。
 おかしい……。相手次第なはずの俺の体は、何故ニギニギされてるところがムクムクなるんだ……?!
 深く考えれば考えるほど、その矛盾は大きくなっていく。
 クスクスッと鼻で笑われて、カッと頬が熱くなった。
「お前っ……」
 相手が何を言いたいのか簡単に分かってしまうところが情けない。
「んだよっ……!」
「光介、感じてんじゃん」
「だッ…! だってしょうがないだろ?! お前がそんなことするから……!」
「やる気満々って?」
「そ…んなこと俺は……!」
「いや、俺が」
「!」
 相手が指さすところに視線を落とすと、その意味は即座に分かった。達也の股間は、衣服の上からも明らかに大きく固いものがそびえ立っているのが伺えたからだ。
「ちょッ…。それ……」
「誰にも触ってもらえずに寂しい思いをしている俺の分身だ。こんな時こそ解放してあげなくちゃな…」
 ねちっこい口調で言いながら達也はジッパーを下げると勢いよく分身を取り出した。
 ぬらりと光っているように見えるのは、廊下からの照明しかないせいなのか、それともそれが異色の生き物だからなのか…。光介は後者の考えの方が正しいのではないかと思うほど、そのものの形に顔を歪めていた。
「ゲッ…」
 大きさが違うだろう…。それにそのエイリアンのようなヌメリは何だ……?!
 光介は知らず知らず後ずさりしていた。ズリズリと、それも入り口とは反対の方にだ。
「俺の愛を受け取れ」
「愛って…それかよ!」
「これ以外に何があるって言うんだ。お前は俺のものになる。それが一番の幸せと言うものだろう」
 そうか〜?! ホントにそうなのかぁ〜?!
 疑問符いっぱいの光介の気持ちなど相手は気づいてもいない様子で、ひたすら自分の満足のためだけに動いているように思えた。もはや光介は、達也に抗議の言葉を言う暇もないほど立場的にも追い詰められていた。
「もう後がないようだけど、そろそろ先に進んでもいいかな?」
 壁に背中を付け、もう逃げ場がない光介に、にっこりと笑いかける達也。その目は暗がりの中でも光っているんじゃないかと思えるほど、今の光介はヘビに睨まれたカエル状態だった。
「く、来るなッ」
「俺とお前の仲だろう?」
「って、どんな仲なんだよ…!」
 この場合、それを言葉にしてほしくないのに、自分でわざと振っているようなことを言う。こういうのを墓穴を掘るって言うんだ、と思いながらも光介はギリギリと歯を食いしばるしかなかった。
 そんな光介の気持ちを知っているのかいないのか、達也は追い詰めた光介に覆いかぶさる形で迫ると、片方の手を肩に置き、もう片方の手を股間にのばしてきた。
 股間にのばされた手は、さっき握ってちょっと固くなってきているものを通り過ぎ、そのまま後ろの入り口を弄りだした。
「嫌だって…!」
「嫌じゃないくせに」
「お前酔ってるんだってば!」
「酔ってなきゃいいのかよ。冗談。酔ってなきゃ出来ないことだってあるんだよ」
 真剣な目が、より真剣になる。
 それを間近で見てしまった光介は、もしかしたら本当に相手は本気なのかもしれない…と思った。
 酔ってなきゃ出来ないことがあるって…?
 それはどう考えても、前から好きだったことを意味するだろう。
 俺まで酔いが回ったって言うのか?!
 そう思いたい現実。
 光介は後ろの穴を弄られているのに、達也の言った言葉にすっかり動揺されてしまっていた。
 感じたことのない痛みの中、困惑したまま達也の表情をじっくりと見つめ返す。暗がりの中で、その瞳はさっき感じたものとは別のものを感じるのは自分だけなのだろうか…。
「お前…マジ……?」
「………いまさらカッコ悪いこと言わせるなよ。酔った勢いでやりたかったのによ」
 言われると余計に頭がパニックになってしまう。
「で、でも……」
「いちいちうるさい奴だな! 終わるまで黙ってろよ」
 グイッと肩を押されて、達也と壁との間に無理やり寝かされたかと思ったら、穴に入っていた指がその勢いで抜け、代わりにさっき見た彼の分身があてがわれていた。
「あんまり俺、余裕ないから痛いかもしれないけど、そのくらいは我慢してくれよな」
「なッ! おいッ! 俺、いいって言ってないってば…! あぅッ!!」
 突然鋭い痛みがお尻に走り、光介は反射的に達也にしがみついていた。
「力抜けって」
「ッ……!」
 言われて簡単に抜けるのかどうか。
 今はそんなことを考えている間もないくらい、ほとんどパニックに陥っている。光介は口をパクパクさせながら、ひたすら相手にしがみついていた。
「ぁ…ぁ…ぁ……」
 ズリズリと何かが奥に入ってくる感じ。こんな妙な感じは初めてだった。それも口を開けてないと我慢出来ないような感覚なんて、かつて味わったこともない。
「あ……ッ…ぁ…ぁ………」
 口を開けていることで出てしまう自分の声をおかしく思う暇もない。光介は流れ出した涙で視界がぼやけていくのを達也の肩越しに見える部屋の風景で記憶していった。
 俺、おかしい。体が変だ……。
 したこともない体験のせいにしてしまうのは勝手だが、この体の変化は認めないわけにはいかない。
 入れられたところは熱を帯び、下半身で変化の兆しを見せていたところは触ってもいないのにドクドクと脈打っているように思える。
 確認するのが怖い。
 そうとしか言えない状況に、光介はパニックを重ねるしかなかった。
「キツイか?」
 達也の声にエコーがかかっているように聞こえる。光介は必死になってコクコクと首を縦に振ったのだが、声が出ない状況でもあった。
「キツイのは俺も一緒なんだけどな。なにせ男がこれだけキツイとは思わなかったから…」
 サラリと言ってのける相手にも怒鳴れない。口で息を吸うのがこんなに必要なのかと思うほど呼吸を繰り返し繰り返し行う。
「死ぬ……」
「バカ、死にゃしないよ。その証拠にほら、お前だって勃ってんじゃん」
 キュッと握られて「あッ…!」と声を上げたかと思ったら、ドクッと血が騒いだ。やんわりと握られて、上下に擦られると、それだけでイッてしまいそうになる自分に驚いてしまう。
「俺が中から前立腺刺激してるからな。こんなのは当たり前って言えば当たり前なんだが……」
 そこまで言った達也は、その後をなかなか言おうとしなかった。
 長い長い沈黙と静止。光介にはそう感じたのだが、実際はどうだが分かりはしない。相手が何を考えているのか怖くなる。光介は恐る恐るしがみついていた腕の力を抜くと達也の顔を覗き込んだ。
「……」
 その顔は切なそうでもあり、また怒っているようにも見える。
 何…考えてんだ……?
 分からない。光介には、彼が何故そんな顔をしているのかが全然分からなくて、自分の置かれている立場も忘れて見入ってしまっていた。
「お前…俺のこと好きだよな」
「そ…それは………」
 こうなる前なら即答でイエスと答えられたが、今はとても難しいだろう。光介は顔を引きつらせながら、何とか口の端で笑って見せた。
「違うのか?!」
「いや。って言うか………」
 嫌いだと言えばこの後どうされるのか。
 はたまた、その逆で好きだと言ってもどうなるのか……。
 どちらと答えても結末は同じだと思うと未来はないように思えたが、この体勢では勝ち目は絶対にないだろうと光介にも分かった。
 迫り来る敵に太刀打ち出来ない時は、たいてい逃げるが勝ちなのだが、逃げれない場合はどうすればいいんだ……。光介は泣きたい気持ちになってしまったが、その前にすでにもう泣いているのに気づき、ゴシッと涙を拭いたのだった。
「好きだって言えよ」
「……いや、だって…」
「だってもクソもないだろう。俺たちは、ほら、こうして結ばれてるじゃないか」
「だから……」
 確かに結合はしている。そして自分の変化段階のものもしっかりと相手に握られてしまっている。だが往生際が悪いと言われようが、『俺も好きだよ』とは、とてもじゃないが言える気にはなれなかった。
「感じてるくせに」
「それは! お前が言ったように……」
「嫌じゃないくせに」
「そんなことは…ない」
「…好き者のくせに」
 したり顔で言われると、反射的にムカッと来るものがある。光介は思わず近くにある達也の顔を叩いていた。
 バシッ! と乾いた音がして部屋の空気が変わる。光介の耳には、その音とともに廊下からの喧噪も聞こえてきたのだった。
「ぁ………。ぬ、抜けよっ」
「…嫌だ」
「何でっ」
「好きだから。それにここまで来てやめたら、やった意味ないじゃん」
「っ………」
 こいつ……。
 何を言っても始まらないのは、やはり酔っているせいなのか。それとも相手の本性が元からこうだったのを今知っただけの話なのか…。
 光介は悔しさで唇を噛み締めながら相手を睨みつけたのだった。しかし相手からこっちの表情は取ってみれても、こっちから相手の表情は照明の関係で読み取れない。
『俺、怒ってるんだぞ?!』と言おうとした矢先、握っていたものを放されたかと思ったら両足をグイッと上に持たれていた。
「あぅッ……!」
 次の瞬間。
 中に入っていた達也のものが、もっと奥までグイグイと押し入ってきた。光介はその衝撃に息も詰まるくらいだったのだが、相手はそれを察してくれようとはしなかった。達也は、言葉通り強硬手段とも取れる行動に出たのだった。
 根元まで自分のものを入れてから、光介の足を肩に引っかけて、今度は体をひねらせようと試みている。結合をより深くしたいらしいのだが、いきなり行動された光介にとっては、息も絶え絶えになるほどびっくりするものでしかなかった。
「やめッ…ぁ…ぁ…ぁぁ……ッ!」
 必死になってシーツをかきむしり、無意識の内に這って逃げようとしている。それを引き戻し、何度も出し入れを繰り返す達也。汗がお互いの肌を伝って流れていくのも構わずに絡み合い淫猥な音を立てる。
 暗がりの中で、光介はまた自分自身が反応してるのを知り、恥ずかしくて仕方なかった。
「ぁ……んッ…んッ…んッ……」
「いいだろ?」
「ひッ…ぁ……」
「俺たち相性いいんだってば」
「ぁ……ぁ…ん……ッ…!」
 大きく固くなっていた光介のものは、自分の意志とは裏腹に我慢の限界まできていて爆発してしまった。
 勢いよくシーツの上に飛び散るねっとりとした白い液。それは、普段よりも大量に放出されたような気がしていた。
「早いな」
「……」
 その言葉に何か返そうと言う気には、もうなれなかった。
 いくらされれば感じるものだとしても、相手より早くイッてしまっては反論すら出来ないではないか…。打ちのめされたようにグスッと鼻をすすった光介に対し、達也は嬉しそうにクスリと笑ったのだった。
 それから数時間。
 その後何度も射精させられ、相手も光介の中に幾度も放った。そのたびに淫猥な音は大きくなっているように思えたが、こうなるともうどうにでもなれと言う気になってきて、自分も快楽を味合わないと損な気分になってくる。光介は汗と精液でまみれた体を達也に絡ませながら、いつしか自分も腰を振っていたのだった。



「だから謝ってるじゃない。私酔うと記憶なくなるんだってば」
 次の日。
 返りのバスの中で管野はみんなに謝りまくっていた。酔いつぶされた奴らは、そんな言葉を聞くのもうっとおしいのに、管野だけは一夜明けると元気そのものなのだ。
「ちょっと、そこの二人。私あんたたちにも飲めとか踊れとか言わなかった?」
「いや、俺たちは…早々に立ち去りましたから……」
「そう?」
「えぇ…」
 光介は遠慮がちにそう言うと、隣で寝ている達也をチラリと見たのだった。
 彼は朝方まで光介の体内に自分自身を埋め込み楽しんでいたので今は疲れ果てて寝ているのだが、された光介の方は落ち込みが激しくて、とてもじゃないが安心して寝れる気分ではないのだ。体の節々が痛み、入れられたところは熱を持っているように熱い。
 なのに、こいつときたら……。
 あどけなく寝ている姿を見ると、そのままそっとどこかに置いていきたくなるのだが、そうもいかないので思うだけに止まらせる。
 昨夜眠りにつけたのは、たぶん一時間程度だと思う。
 だが、起きた時には乱れていたはずの光介はちゃんと浴衣を着て布団で横になっていたし、あんなに激しく自分を求めてきた達也もちゃんと隣の布団で眠っていた。
 一瞬あの出来事は夢なのではないかと思ったが、この体の痛みや疼きはウソをつかない。昨日の名残がまだ消え去ることなく光介を襲い、寝起き一番トイレに行かなければならなかったほどだったからだ。


 それから数日。
 達也は何事もなかったように会社に来て仕事をしていた。それが癪に触ると言ったら変かもしれないが、あんなことをしておいてその態度はないだろう! と怒りが募ってしまった光介は、仕事の最中だと言うのに達也を階段の踊り場まで引っ張ってきた。
「いったいどういうつもりなんだよ」
「何が」
「何がだと?! とぼけやがって。お前、俺に何したかも忘れたのかよ! 俺のこと散々おもちゃにしやがって」
 グイッと胸倉を掴むと顔を近づけ、歯を食いしばる。こっちがこんなに恥ずかしいこと言ってるのに、まさか知らばっくれるんじゃないだろうな…と言う顔だ。
「おもちゃって……人聞きが悪いな…」
「何がだよ!」
「俺はお前のことおもちゃにしたなんて思ってやしない。ただ…あの時のことは夢だったと思った方が、お前にとってはいいんじゃないかと思って……」
「はぁ〜?! 何だよ、そりゃ。あれだけバコバコやっといて、それで済まされると思ってんのかよ! 俺がどれだけ恥ずかしかったと思ってるんだよ! 無理やり男に犯されて、それも友達だぜ?! それで俺の方が先にイッちまって…。その後、お前は知らんぷりで…。俺は、どうしたらいいんだよ! えっ?! 教えてくれよ!」
 今まで我慢していた分、一度爆発すると次から次へと言葉は流れ出ていた。しかしそれは聞いてる達也の考えをまったく把握していなかったから言えた言葉でもある。
 後になって後悔しても遅い時は遅い。それを光介は身をもって体験するはめになるのだった。
「…お前…自分が何言ってんのか分かってるのか?」
 胸倉を掴まれたまま、おとなしく話を聞いていた達也が、ゆっくりと光介の手を引き剥がしてそう言った。
 その瞳の奥が妙な輝きを帯びていたのに光介は気づかなかったのだが、何だか事が奇妙な方向に流れ始めているのではないか……と言うことには気づきつつあった……。
「な、何って……何だよ………」
 達也は自分から引き剥がした光介の手を握ったまま顔を寄せてきた。
「お前は、あのことを無かったことには出来ない」
「そ、そうだよっ」
「俺がそうしようとしたのに?」
「………」
「努力してきたつもりなんだけど? それは報われなかったってことでいいのかな?」
「んだよ、それ…」
「俺たちは結ばれた。そうだな?」
「あ……あぁ……」
「そして俺は好きだと言った。だろ?」
「あ……あぁ……」
「じゃあ、俺たちは恋人だ」
「え……えぇッ?!」
「馬鹿。墓穴掘ったのはお前の方だ。俺は何も望んでなかったのに、お前が勝手にギャーギャー言うからこうなるんだ。責任取ってもらうからな」
「え……?」
 あれ……? おかしいな……。
 責任を取ってもらうのは、むしろ自分なはずなのに……。と、よく解釈出来ない光介だったが、どうも自らとんでもない行動をしてしまったらしいことは分かった。
 光介は手首を握られたまま小首を傾げたのだが、近くにある達也はクスクスと笑うばかりだ。
「お前……もしかして俺をハメたのか?!」
「そんな人聞きの悪いこと言うな。愛してるよ」
 言いざま、光介の頬にキスをした達也は声をあげて笑い出した。
「お前………」
 脱力した光介の苦難は、ここから始まり現在に至る。そしてたぶん、未来にも続くのだった。                 
終わり