タイトル「今年の秋は妖怪カフェで」
秋になればそれは確実にやってくる。
「ということで、今年の文化祭は妖怪カフェで行きたいと思います」
「まあ、流行りではある」
「お前何やる気だよ」
「お前は?」
出し物が決まるととたんにやる妖怪の話になる。
「クロは何やるの?」
「まだ決まってません。でも研磨には何をやってもらうかは決まっています」
「ぇ……なに。俺、何やらされるの?」
「俺としては狐の嫁入りやって欲しい」
「は?」
「だから花嫁衣裳着て欲しい。白無垢着て欲しい」
「いや。無理でしょ、それ」
「カフェですから。そんなん着て接待は出来ませんよ」
「だね」
「だよ」
「じゃあ、中を取って猫娘でどうよ」
「えっ」
「なんの『中』なんだよっ」
「えっと……」
どうなんだろう、それは……と即答が出来なくて戸惑う黒尾に研磨がもう一度同じことを言う。
「猫娘でどう?」
「黒尾は? どうすんだよ」
「そうだな……。研磨が猫娘なら、俺はネズミ男とか?」
「ぇっ、あんな貧相な妖怪やんの?」
「だったら俺、猫娘やんないっ」
「じゃあ何がいいんだよ」
「うーん……。何がいいかな……」
「すぐには出て来ないんだ」
「でもクロがネズミ男なのは嫌っ」
「じゃあ主役の鬼太郎とか?」
「ああ、それいい!」
「クロ、半ズボン履ける?」
「ちょっと抵抗が」
「お前部活で何履いてんの!?」
「ハーパンですよね?」
爆笑が起きる中、それでも黒尾は真剣な面持ちで考えていた。
「んんんーーー」
「俺はミニスカートなんですけど?」
「あーーー」
それを聞いた黒尾は諦めたように「……やります」と答えたのだった。
カフェ自体は毎年やっているので部員の要領は容易かった。
ただ今回は誰が何の妖怪をするのかが取り合いになってしまい、それで話し合いが長引くことになってしまっていた。
「別にそのアニメじゃなくてもいいんだろ?」
「たりまえだ。妖怪縛りだからな」
「だったら俺は吸血鬼で」と夜久が一歩前に出ながら胸を張る。
「いや。夜久君には花になってもらわないと困るから却下」
「じゃあ俺が吸血鬼!」とリエーフが手をあげる。それにはみんな納得で、一気に役が決まってしまった。
「じゃあ俺は何をやるんだよっ!」
「じゃあ吸血鬼に血を吸われる若い女ってのはどうですか」
「それ、妖怪じゃないから」
「ぁ、でもセットにするにはいいかもな」
「そうだな。ドレスは演劇部に貸してもらえばいいしな」
「……俺、無事に女役かよ」
「夜久君には派手に目立ってもらわないといけないしね」
蝶と花よと言われる内が花、と言うことで。
花形選手の夜久と研磨は女役をすることになった。
そして黒尾は無事鬼太郎役。その他部員は河童とかフランケンと人型で裸ではないものが確実だと選ばれたのだった。
「衣装は各自用意でいいか?」
「今ならハロウィンの残り物があるんじゃないか?」
「ドンキ行くか」
「だな」
「だったら今日は解散。各自一週間でどうにかするように」
「OK」
時間もまだ早かったため黒尾と研磨は揃ってリサイクルストアに行った。
ここなら古着を安く手に入れられるためだ。
「俺のは探し易そうだけどクロのはどうするつもり?」
「いや、俺のほうが先に探せそうだけど、どうかな」
「猫娘って何色のスカート履いてると思う?」
「赤……かな……」
「見せパンはどうする?」
「んん?」
「パンツ。見えてもいいヤツ」
「ああ……っと、白?」
「スカートと一緒の赤にしたらあんまりいやらしくないんじゃないかな」
「だったらそれで」
「OK。じゃ、クロはクロで探してよね」
「分かった」
そして数十分後。
黒尾はチャンチャンコになるベストだけを購入していたのだった。
「クロはそれだけ?」
「とりあえずこれだけでいいかなと思って」
「俺はミニスカと見えパン。上は制服のシャツで間に合うだろ?」
「そうだな」
「クロ。半ズボンとかどうするの?」
「家にあるズボン着ればいいかなと思って」
「上手に出来るの?」
「あんまり自信ないけど、ここは頑張るしかないっしょ」
「チャンチャンコの縞々。黄色はどうするの?」
「百均の何かで黄色いのをくっつける」
「じゃ、次は百均だね」
「ああ」
洋服はどうにかなりそうだったが、頭をどうしようか。家に着いてから考えてしまった。
「クロの場合はさ、洗ってそのままでいればどうにかなるんじゃないの?」
「厳密に言えば俺の髪の毛はああはならない。第一前髪があんなにないっ」
「だったらどうするの?」
「カツラかな……。研磨だってそのままじゃどうにもならないだろ? どうするつもりだよ」
「ドンキかな……って」
「だったら今からドンキ行くか」
結局今度は私服でドンキに行って近しいだろうカツラを買って帰る。
「クロはいいよね。顔半分隠れるし」
「でも裸足にゲタだぜ?」
「寒いってこと?」
「そう」
「俺だってスカートスースーですけど」
「はい、そうでした。すいませんっ」
「でもこれ、被って変だったら泣けるな」
「長い人生のたった一日だから大丈夫だよ」
「ぇ、そういう慰め方?」
「うん。そう考えるしかないじゃん。チェキもするんだろ?」
「あーまぁ……。それは貴重な収入源と言いましょうかね……」
「だったら全力でやろうよ。合宿費用調達」
「だな」
「うん」
「ここは吹っ切ってやらないとなっ」
○
研磨の部屋に帰ると買ってきたものを全て広げてみる。
「後は何が足りないのかな」
この段になってようやくネットを広げると明らかな違いに気づく。
「猫娘のスカート。上もある……」
「あーJスカってこと?」
「うん」
「どうする?」
「このままだとトイレの花子さんになっちゃう?」
「確かに。だったらドンキのセット買っちゃう?」
「高いじゃん! それにもうカツラ買っちゃったし」
「だったらそのまま行くか、赤いのフェルトでくっつけるか」
「フェルトでくっつける。明日また百均行く」
「オッケ。俺は……随分足りないものあるな」
「ゲタとかどうするの?」
「誰か持ってないかな」
「演劇部に聞いてみよ」
「ああ。あそこならあるかもしれないしな。でも……そもそも鬼太郎の服って青だったのな」
「青いズボンとシャツあるの?」
「ない」
「じゃあクロこそドンキじゃん」
「いや。そんなことしたら『こづかい』なくなるだろう」
「だったらまたリサイクルショップ行く?」
「ああ。また明日行こうと思う」
「今日と同じトコ周りだね」
「ちゃんと最初から調べて行けば良かったな」
「ホントに。でも人の記憶って大概だよね」
「ああ。自分でもここまでズレてるとは思ってなかったな」
「人のこと言えないから何も言わない」
ふふふっ……と笑うと二人して見つめ合う。そして徐々に顔を近づけてチュッと唇をつけた。
「お風呂入ってく?」
「今日はやめとく」
「そう?」
「ああ。俺だって我慢くらいは出来るからな」
「……」
「週末。週末泊まってくから」
「そう?」
「ああ」
「約束?」
「約束」
「じゃあ許す」
ふふふっ……とまた笑うとギュッとハグをして身を離した。
そしてそれから二人して足りない物を紙に書き記すと黒尾は自分の家に帰って行ったのだった。
■
「お前はさ、どうせ姉ちゃん経由で衣装借りるんだろ?」
「はい。だって演劇部の衣装じゃサイズがないですもん」
「……それは俺に対する嫌味かな?」
「違いますよっ! ただの事実ですっ」
学校からの帰り道。
リエーフと夜久は今度の文化祭で用意しなければならない衣装について語っていた。毎年毎年誰かしら演劇部にはお世話になっている。だから今年も夜久は借りることになって衣装合わせをして帰るところだった。
「にしても似合ってましたよね」
「そうかよ。お前は俺の女装好きだもんなっ」
「違いますよ。俺が好きなのは、女装じゃなくて夜久さんですから」
「そうかよそうかよ」
「はいっ」
今年の衣装は吸血鬼相手の女子ということで、中世のお姫様っぽい恰好を用意してもらった。
女子用なのでなるべく大きなサイズをとお願いしたのだがなかなかサイズに見合うものが見当たらず結局自分たちで探すことになってしまった。
『あることはあると思うんですよ。でもすぐには見つけられなくて……』
演劇部の衣装室は歴代の衣装が連なっているために教室一つ分くらいはあった。だから最初は親身になって探してくれた部員も疲れてしまって、夜久たちだけが最後まで探したのだ。
自分たちのことだから当然と言えば当然なのだが、ドレスだけが見つかっても付属品が揃わなければどうしようもない。
『これなら入りそうかな』
『丈とか肩幅とか大丈夫か後ろから当ててみましょうか』
『ああ。頼む』
『いい色ですね』
『若草物語とか? そんなところじゃね?』
『いやいや。時代が違うでしょ。でも似合うと思いますよ』
『ウエストとか入りそうか?』
『肩幅と丈は大丈夫ですよ。ウエストだけ入るかどうか制服の上からちょっと着てみましょうか』
『ああ』
後ろのファスナーを開けて足を突っ込むとウエストまで上げてみる。
『余裕ですね』
『良かった。じゃあこれの付属品を探そう』
服にはナンバーが付いていたために、その足元にある袋で同じ番号を探せばよかったために楽だった。
『これ、お借りしていいですか?』
『何番ですか?』
『881番です』
『ではここに記入お願いします。試着はされました? よろしければそちらに着替えルームありますんで着てみてください』
『ぁ、ありがとうございます』
『じゃあ俺、紙書いておきますから着てみてください。ダメだったらまた探しましょう』
『……ああ、悪い。じゃあ着てみるわ』
『楽しみです』
笑顔に見送られて試着ルームに入ってさっそく制服を脱ぐ。そして後ろのファスナーを開くとそこに足を入れて袖を通した。若草色のドレスは長めの半そででふんわりとしていたために見える部分が少なくなっていて華奢にも見えた。どうにか後ろのファスナーを閉めると鏡で様子を見てみる。
『うん、まあ……。こんなもんかな』
『夜久さん。後ろのファスナー上げられますか?』
『ああ。もう上げた』
『だったらちょっと見せてくださいよ』
『いいぞ』
どうだと入ったことに、様になっていることに気分良く試着ルームのカーテンを開ける。
『案外いいだろ?』
『ぇっ……ぁ、はい』
『どうした』
『思ったよりもいい感じなんで……ちょっとびっくりしてます』
『そっか』
そう言われると悪い気もしない。
クルッと回る勢いで体を捻ると動きの具合を確かめる。付属品としては中にパニエと中世ということで三角帽子のような帽子が用意されていたが、教室でそれを使うと身動きが取れなくなる可能性もあるのでパスすることにした。
『これ、このままでも十分だろ?』
『はい。いい感じですっ』
『だったらドレスだけ借りて後は適当なカツラがあれば……』
『そっちは俺の方でどうにかなると思います』
『そうか? ならここはドレスだけ借りようか』
『はいっ。じゃあ申し込み用紙には付属品のチェックは外しておきます』
『頼む』
ドレスだけ演劇部で借りて、二人してそれをバレー部の部室に持ち込むと一番奥にある窓のレールに引っ掛けた。
『部室にこんなのあるとビックリする奴いるだろうからっと……』
『何やってんですか?』
『紙……とペンをな……』
鞄から紙とペンを取り出すと『文化祭用衣装-夜久』と書いてハンガーに引っ付けた。
『これで良しっと。じゃ、帰るか』
『はいっ』
部室のカギを職員室に返して帰途に着く。文化祭にはまだ日にち的にも余裕があったので、部員たちの心にも余裕があったのだった。
●
「悪い。どうやら被ったみたいだ」
「何が?」
「出し物」
「なんで今頃になって分かるんだよっ」
「今日になって生徒会から通達があった。似たような出し物あるけど大丈夫かって」
「どこの部活?」
「テニス」
「女子? 男子?」
「男子」
「なんだよっ」
「何やるんですか?」
「焼き鳥メイドカフェ」
「結構被ってんじゃん……」
バレー部男子が生徒会に提出してあるのは「妖怪カフェ」だった。
内容としてはカフェの部分が被っているだけだ。飲み物は被るとしてもこちらは焼き鳥類ではなくてサンドイッチとかロールケーキとかクッキーの喫茶類だから隣にならない限りは支障はないんじゃないかと思えた。
「配置で配慮してもらえばいいんじゃないか?」
「まあ、カフェ類やる店は他にもあるだろうしな」
「保護者会はテントでも飲み物売るだろ? あんまりピリピリしなくてもいいんじゃないか?」
「しかしコンカフェ……」
「いっそ一緒にやっちゃえばいいじゃん」
「ヤだよ。男じゃん!」
「野郎ばっかで店回すのはちょっとな」
「それに売り上げ。折版になっちゃうよ」
「あーー。どっちも遠征費とか稼ぐための店だから譲れないしな」
「分かった。だったらそのままgoで、やっぱり配置でどうにかしてもらうように話してみるわ」
「それで駄目ならまたどうするか話し合うことになるから」
「でももうジュースとか注文しちゃってるからね」
「分かってる分かってる。うまく回してくるから」
「よろしく頼む」
「お前らは、特に山本。自分の衣装の心配しとけよ」
「それならもう大丈夫です。俺、一反木綿やりますから」
「えっ……。お前それ大丈夫か?」
「はい。ドンキ製品ですから」
「あーーー。まあお前がそれでいいんならいいんだけどな」
「大丈夫ですよ。ちょっとトイレ行きにくいかもですけど」
「うんまぁ。まぁいいけど。ならちょっと行ってくるから」
〇
「どうにかなって良かったね」
「他にもカフェ系は多いからな。女子の部活と同じジャンルで張り合おうなんて思ってないから、そっちもなるべく遠くに配置してもらったら校舎の端っこになっちまったけど……大丈夫かな」
「どうだろうね。そこはやってみないと分からないけど……何階だっけ」
「今回は一階」
「だったら外からも出入り出来るようにすればいいし、登りとかでも呼び込めるんじゃないのかな」
「おー、それいい。まだ余裕あるから登りでも買いに行くか」
〇
実際日にちが迫ってくると自分たちが妖怪の恰好をしているだけで教室自体はあまり様変わりもなく、これでは弱いんじゃないかと言うことになった。
「妖怪カフェって言うんなら、それなりにちょっとはオドロオドロしくないと駄目なんじゃないっすか?」
もっともらしくリエーフが言う。
それに同調する部員たちだったが、出し物は「お化け屋敷」ではないので真っ暗には出来なかったし、する必要もないと思っていた。教室内を妖怪模様にするのもどうかと思ったが、それを聞いた夜久が口を出してきた。
「俺、この間衣装借りるのに演劇部行ったじゃん」
「ああ」
「そこでスゲー衣装いっぱいあるのも見てるんだけど、劇のための備品もいっぱいあるわけよ」
「……」
「ソコで適当なの借りれるんじゃね?」
「それ! いいアイデアですね」
「確かに! 今から交渉行きましょうよ」
「それ、いいアイデアだな。そっちはお前らに任せていいか?」
「後で文句とか言わないって言うんならね」
「荷物もうすぐ借りれるかもしれないんで人手要ります」
「だったら俺らちょっと行って来ます」
「ああ。頼む」
部員数人で教室にそれなりの雰囲気が出そうな備品を借りに出て行く。
「あとカーテンとか。ドレープ付けて光を半分位にした方が雰囲気出ると思う」
「カーテン?」
「だってここ遮光付いてるでしょ?」
「ああ、そうか」
「ある程度暗くした方が、そういう備品も生きるんじゃないかと思って」
「研磨賢いな」
「どういたしまして」
●
そんなこんなで雰囲気も良くなり当日も順調に遠征資金を稼ぐことが出来、文化祭は無事終了した。
「撤収!!」
「おー!」
毎度のことながら売り上げトップはチェキ撮影。続いて飲食と例年通りの売り上げを確保した部員たちはホッと胸をなでおろしていた。
「場所が場所だっただけに、一時はどうなるかと思ったけど」
「好評でしたよね」
「天気も良かったしな」
撤収も校内で済んだし、借りは作ったが金銭的な貸し借りはない。借りたものも破損はなかったし定位置に返却で時間的にも早く済んだ。
「じゃあ解散っ!」
「お疲れ」
後日続いて体育大会があるので、皆寄り道せずにすぐに帰宅して次に備えるというのが常だった。
「今年はちょっと楽出来た気がする」
「ああ。借りれる物は校内だけで済んだしな。経費もだいぶん抑えられたから利益は大きいわ」
「動くのに結構かかるしね」
「全国行かなきゃならないしな」
「それ、一番大事なトコ」
ふふふっ……と二人で笑い合って帰途に着く。
「今日はウチに来るよね?」
「はい。晩御飯いただきます」
〇
「もう着ないから最後に着よぅよ」
「いいけど。俺は別に着ても着なくてもいいと思うんだけどな……」
ブツブツ言いながらも風呂上り、研磨の部屋で要望通り文化祭で着用した衣装を身に着ける。
「どうですか?」
「随分背の高い鬼太郎だよね」
「それはどうもすいません」
「俺はどう?」
「随分と可愛らしい猫娘さんです」
「チェキ撮影これでだいぶん儲けたしね」
「うん。それには感謝する」
夜久と研磨の健闘が蘇えるようだ。黒尾は目を細めて顔を近づけながら猫娘姿の研磨を眺めた。
「跪いて」
「こうか?」
「そう」
「俺、結構ミニスカートだと思わない?」
「ああ。気が気じゃないくらいのミニスカートだよ」
「手を入れたい、とか思わない?」
「いいのか?」
「特別。クロだけだよ?」
ふふふっと笑うその顔が可愛らしくもあり妖艶でもある。
黒尾は研磨と見つめ合いながら研磨の背中に手を回すとそっと抱き締めた。抱き締めながら唇を寄せて、もう片方の手でサワサワと尻を触る。
「んっ……んんっ……ん」
黒尾は研磨の唇をむさぼりながらもスカートの中の下着に手を忍ばせた。そして柔らかいその尻を直に触り双丘の谷間へと指を差し入れていった。
「んんんっ……んっ」
それを力なく阻止する研磨の手に分かっていると言わんばかりに口の端を上げて答える。
「ベッド。行くか?」
「うん……」
「だったら最初から挑発するな」
「だって、いつも俺ばっか踊らされるんだもんっ」
「ばか。俺もお前にメロメロだから同じだよっ」
「ほんと?」
「ああ、ほんと」
抱き上げてきた研磨の体をそっとベッドに下ろしながら覆い被さる。
「あれ?」
「なに?」
覆い被さって下着に手をかけるとそれが一枚だったことに気づいて手を止めた。
「見せパンは?」
「欲しかった?」
「いや、一枚だなと思って」
「ノーパンでもいいかと思ったけど、とりあえず一枚履いといた」
「それはご丁寧にどうも」
チュッと口づけをしてツルンッと下着を脱がすと自分も下半身だけ脱いでことに及ぶ。布団の中で結局脱がせ合ってコスプレは意味をなさなかった。
「明日は体育祭だから負担かけたくない」
「だったら入れるのやめとく?」
「……いや。回数減らす」
「それ、あんまり意味ないんだけどな」
少々呆れられながらも交わりは欠かさない。黒尾はジェルでヌルヌルになった研磨の下半身を弄び指を差し込みながら「一回だけ」と口にした。
「いいけど、次の日もってのは無しにしてよね」
苦しいながらも無理して笑いながら喘ぐ寸前の研磨に深く頷く。黒尾は抜き差ししていた指を秘所から引き抜くと自分の勃起したモノを宛がって深く、何度も沈めた。
■
「今日の夜久さん、とっても綺麗でした!」
「うん。衣装がな」
「いえ。夜久さんが、綺麗でした」
「お前、チェキ買ったしな」
「それはもうっ! 素敵でしたよ?」
「分かった分かった。分かったから引っ付くなよ」
「ぇ、寒くないですか?」
「歩きにくいだろうがっ」
文化祭を終えて夜道を駅に向かって歩く。
今日は前々から終わったらリエーフの家に行くという約束だったので夕食を買って行くつもりだった。
「コンビニ寄りますか?」
「いや、スーパー寄ろう。今なら割引始まってるだろうから」
「あー。今そっちの方が流行ってますもんね」
「てか安いから」
「ぁ、はい」
リエーフは知らないが、夜久には使える金が限られている。
普通にこずかいだから制限があるのだ。それは試験とかでいい成績を取るとプラスされるものではあるが、どっちにしても同じクオリティーなら安いものが手に入れたいというのが普通だろう。
彼の家に行く道すがらコンビニもいくつかあるが、スーパーもいくつかあって、中でも安くて旨いと評判の店があるというのを知って、その店の品を食べてみたくなったからだ。
「KENTIとかいうスーパー知ってるか?」
「ああ。最近出来た店ですかね」
「そこに寄ってく」
「旨いんですか?」
「らしいからな」
「夜久さん目ざといですね」
「噂を聞いただけだ」
〇
地元の駅に降り立って家までの間にある噂のスーパーに寄ってお目当て以外の物も籠に入れるリエーフに「やめろ」と口出す。
「大丈夫です。俺、この間姉ちゃんの手伝いしたんで、ちょっとだけ金あるんですよ。だから夜久さんの分も買わせてください」
「だけどな……」
「ぁ、駄目って言っても買っちゃいますけどね」
「ちょっ」
「いいからいいからっ」
籠を持ったままの手を上に上げられて手出し出来ないのをいいことにオヤツと称して菓子とかジュースも色々入れて、合計三千円くらいになってしまった。
「俺の、オヤツということで。それならいいでしょ?」
「いいけど。……ご馳走さんな」
「いえ。日頃のお礼と言いましょうか」
「確かに、世話はしてるな」
「と言うことで」
仕方なくご馳走になることにする。
二人揃ってリエーフの家に帰る。
今日は一緒に住んでいる姉は仕事で海外に行ってしまっているために最初から誰もいないのは分かっていた。ちょっとお高めの三階建てのマンションの三階。それもこれも姉の稼ぎがいいからだそうで、いつも来るたびに「ブルジョアめ……」と羨ましくなるほどだ。
広いリビングのソファに座ると買ってきた総菜コーナーの弁当を取り出して食す。夜久は酢豚弁当。リエーフはオムライスだった。続いてデザートを食べてジュースを飲むと一休み。
「俺風呂に湯を入れて来ますね」
「ぇ……ぁ、うん……」
今日は立ち寄るとは言ったが、風呂に入るとは言ってないけどな……と思いはしたが、とりあえず返事はする。風呂のボタンを押して戻ってきたリエーフはさっきと同じ位置に座ると顔を覗き込んできた。それにドキッとして身を引いた夜久にまた顔を近づけてくる。
「なっ……なんだよっ」
「俺、今日結構頑張りましたよね?」
「ぁ、ああ。まあ、そうだな」
「だったらご褒美くださいっ」
「え、なに。だったら俺だって結構頑張ったと思うけど!?」
「じゃあまず俺から。ご褒美ください」
「ぇ、意味分かんないんだけど!?」
「はっきり言いましょうか」
「うん」
「チュウさせてくださいっ。今日泊まってってくださいっ」
「ぇっ……っと…………」
「NOは無しということで」
「ぇっと……。いや、いいんだけどさ……」
「ホントに!?」
「ああ。でも……」
「でも何ですか?」
「こういうのって、あんまり好きじゃないんだよな」
「何がです?」
「黙って……とか、隠れてとか……って感じ?」
「それ、誰に対してです?」
「うーん。一般的に?」
「じゃないでしょ? それ、俺の姉ちゃんに対して、とかじゃないですか?」
「ぅ、うーん……」
「夜久さん。だったら俺たちのこと大々的にオープンにしてもいいんですか? 俺としては嬉しいですけど、それ今じゃないような気がするんです」
「そりゃそうだけど……なーんか後ろめたいような気がするんだよな……」
「夜久さんは面倒くさいな」
「悪かったな、面倒くさくて」
「まあ、そこが可愛いんですけど」
「んだと!?」
「はい、すんませんっ。一緒に風呂入りましょ」
「ぇっ……!」
「ゴチャゴチャ言わないっ」
「うーん。けどなっ……」
迷っている間にも夜久は無事リエーフによって腋に手を入れられ後ろ向きのまま足を引きずられながら自動的に浴室へと移動した。
洗面所に入ると抵抗する暇もなく服を脱がされ浴室に入る。湯気でモクモクしている室内に二人。
部活で風呂には入ったりしているので抵抗はないのだが、二人きりとなると話は変わってくる。でもそんな躊躇する思いとは裏腹にテキパキと自分の体を洗って、ついでに夜久の体にも泡を付けて洗いにかかってくるリエーフ。
「ちょっ……やめろって。自分で出来るし」
「あー、そういうのはいいですっ。夜久さんカラスでしょ? さっさとしないと上せるんで早くしましょ」
「お前……」 よく知ってんじゃねぇか。
体を洗ってシャワーで流してドボンと湯舟に浸かると百数えてザバッと立ち上がる。手を握られていたので否応なく夜久も立ち上がるとそのまま洗面所でバスタオルを渡された。
「はい。ゴシゴシ」
「はいはい」
言われるままに体を拭くと次はどうするんだ? と首を炊げていてを見る。するとリエーフは自分の腰にタオルを巻いたので、自分もあーそうしろってことね、と同じことをしようとしたのだが、それより先にバスタオルで体を包まれて抱き上げられるとリエーフの部屋まで足早に進まれた。
「ちょっ……危ないって!」
「ここは急がないと」
「いやいやいやいや。急がなくても大丈夫だと思うけど!?」
「俺が急がないといけないんですっ」
「何でだよ」
「分からないんですか!?」
「分かんないよっ!」
「自制心って言うんですかね。夜久さんは頓着ないようですけど、俺は今ギリギリで頑張ってんですっ!」
それを聞いた夜久はビックリして、それからカッと頬を染めた。
「ご……めんっ」
「いえ。ここまで来れたのは久しぶりですし、俺は絶対にこのチャンス逃したくないだけですんで」
言い終える頃には夜久は彼のベッドに寝かせられていた。
覆い被さられて顔が迫ってくる。夜久はそんなに真剣な彼の顔を久しぶりに見た気がして自ら手を伸ばしてその首に腕を回した。
「面倒くさくてごめん。でもな……」
「そういうの後で聞きます」
「うん。ごめん」
チュッとキスをしてバスタオルを外されると素肌に唇が下りてくる。
「んっ」
指が体中を這い回り相手の肌の温もりが伝わってくる。夜久は自分も相手の体を確かめるように彼の体を弄った。
「ちょっ……。ダメですよ、夜久さんはおとなしくしててください。俺、爆発寸前なんで」
「一回出すか? なんなら俺が手で」
「怒りますよ。本人いるのに何で手、なんですかっ」
もういいですっ。
言った端からガサガサベッドの下にある紙袋を取り出すとそこからジェルとゴムを取り出す。さっさと自分の勃起したモノにゴムを被せるとジェルを絞り出して夜久の下半身に塗り付けてきた。
「冷たっ……」
「大丈夫。すぐにそんなの気にならなくなりますし」
「お前ガッつき過ぎ」
「お年頃なんで、許してください」
「あっ」
言い合っている間にも脚を担がれてソコにモノを宛がわれる。
「お言葉に甘えて、まず一発抜いてから楽しませていただきますっ」
「うっ……ぅぅぅっ……ぅ」
ジェルの力を借りてまだ緩んでないソコに太くて熱いモノが押し入ってくる。夜久は焦らしたり茶化したりしているつもりはなかったのだが、相手のほうが切羽詰まっていて余裕がないのがよく分かった。
「ぐっ……ぅ」
「くっ……ぅぅぅっ……」
一番奥まで突っ込まれて、それから先はガンガン攻められる。より密着させようときつく抱き締めてくる彼に逃げ場を失いながらも彼を感じる。
熱いっ……。それに腹の中が抉られように突き進んで来るっ。
「あっ! ……ぁっ! ……ぁ!」
「んんんっ! んっ!」
「ぁっ……!」
ドクドクドクッ! と勢いよく射精する感じが伝わってくる。夜久自身も体の中から刺激されていつの間にか硬くなって汁を流していた。それを無意識の内に自分でしごいて満足させている。彼よりも何十秒も遅く自分の手の中で射精すると脱力した。
そのころになるとお互いに脱力して二回戦に備える態勢になる。
「すみませんっ」
「待たせた俺が悪い」
「そんなことはっ」
ここまて言い合うと夜久がリエーフを抱き締めたので会話は終わる。
抱き締めて脚を絡ませて唇を奪う。夜久は彼がして欲しいだろうことを微笑ましい気持ちで行動に移していった。
「んっ……ん……ん」
「ふっ……。それから? それから……何して欲しい?」
「何も。ただ一緒にいられれば、それでいいです。高望みしませんっ」
だけどもう一回。と押し倒されて二回戦が始まる。高望みはしないが、実効性があることには躊躇ない。夜久はこの後三回ほど生身の彼を受け入れて無事体育祭を保健室で過ごしたのだった。
終わり
20251129/1204
タイトル 「今年の秋は妖怪カフェで」
