タイトル「夢と現実」
あれから数日。
鐘倉廻は自分に起こった出来事がいまだに信じられずにいた。
学校の帰り道、変な世界に陥ってあいつに出会った。
最初は変なおっさんだなくらいにしか思わなかったのに、変な世界だからか変な気持ちになって変なことをした。そして変な気持ちになってしまったのだが、その変な気持ちが今になっても収まっていないのは何故なのか。
あの時、廻はあいつのことを好きだと言った。そしてあいつも同じことを言った。
会いに行くから、それまで待てとも言われた。でも今になってみると、本当に自分はそんなことを言われたんだろうか……と思うようにもなっていた。
「信じられるかよ、そんなこと……」
つぶやいてみるが、何度同じことをつぶやいても結果は同じだった。
「だからさ、謝ってんじゃん。ごめんっ! 俺が悪かったって!」
「ぇ? ああ……」
帰り道。目の前で両手を合わせて謝ってきているのは篝屋小路だった。
ノートを貸した貸さないでもめて廻が悪者にされたのだが、結果は単なる教師の勘違いだったと言う…。
「点数減らされないで済んで良かったよ」
「だから言ったじゃん、俺返したって」
「うん。ごめん」
「俺さ、根に持つタイプじゃないから安心しなよ」
「うん。うんうん」
「ぇ………」
「俺、そんな廻が大好きだよ」
「ぁ…うん……」
あっちで出会ったニヨと言う豚にそっくりな口癖を言われ、思わずギクッとしてしまった廻だが、それを相手に言っても仕方ない。何もなかったように装ってみても内心またあっちの世界に行ってしまったのではないかと気が気ではなかった。
いや、俺はあっちの世界にまた行ってもいいとか思ってるんだ。そうすれば、またあいつに会えるかもしれないから……。
絶対に会える保証なんてなかったのにそんなことを考えてしまう。そんなところが相当重症だよな…と自分でも思うのだが止められないのだ。
「…でさ、俺の場合はね、一頁を縦半分に区切って右側を予習にして左側を授業用にしてるわけよ。それを評価されたって言うかな…。先生は他の生徒に見せようとして別っこにして置いたんだって。それを見事に忘れられちゃったのが今回の結果だったってことなんだ。忘れたのは俺だって悪いんだけど、本当に悪いのは先生だよな?」
「…うん」
「いや、やっぱ先生にそんなことさせちゃう俺が悪かったのかなぁ!」
少々得意げになってきた篝屋を横目に軽くため息をつく。
前はこんなこと全然苦になってなかったって言うのに……。今の俺ときたら……。
たとえば、そこの電信柱に奴がもたれ掛かって自分を待っていてくれたりしたら……なんて考えてしまう。そんなことあり得ないのに。
ひとしきり篝屋の自慢話を耳にしながら妄想に耽っていた廻だが、相手の反応が悪くなったのが気に入らないのか、篝屋が怪訝な顔で廻を覗き込んできた。
「なっ……何?」
「あのさ、俺の話ってつまんない?」
「ぇ…どうして?」
「だってお前さっきから上の空って言うかさっ……。最近おかしいよな」
「そ…んなことないよ……」
「いや、絶対おかしい。俺が言うんだから間違いないっ!」
やけに自信ありげに言われると、これ以上反論出来なくなる。正直どうでもいいのだ。
廻は今度は大きくため息をして空を見上げた。そしてちょっと諦めぎみに顔を下げている時、遠くの電柱の上に立つ人影を見つけて釘付けになった。その人は大きな翼を持ち、その翼をバサバサさせながら腕組みをしていたのだった。
「バッ…」
「バカ? 俺のことバカだと思ってるってこと?」
「いや。いやいや、そうじゃなくてっ……! 俺、ここで。また明日なっ!」
「ちょっ、廻っ! 廻っ?!」
篝屋が何か叫んでいるが、もはや聞く気にもなれなかった。廻は翼を広げて今飛び立とうとしている彼を絶対に逃がすまいと駆け出していた。
相手の顔がニッコリと微笑んでいるのが見えても。
終わり 20100821
タイトル「夢と現実」